隣の席のまつかわくん | ナノ






結局、これといって断る理由もなく、彼と約束をした。松川君はよかった、と笑ったが、本当によかったのだろうか。

友達みんな時間が合わなかったから、暇だったのは確かだけど、松川君の方はどうなのだろうか。
クラスの男子とか、バレー部の他にも友達はいるんじゃないだろうか。
最後の文化祭なのに。男女2人でっていうのは、大丈夫なのだろうか。

「別に問題なくない?」
「そうなの?」

藍ちゃんは今日も松川君の席に座り、購買で買ったパンを食べている。机には大量のパンと、デザート用であろうプリンが2つ置いてあった。何か嫌なことがあったんだろう。

「だって松川でしょ?1年の時も一緒だったし、あの件も知ってるんだし。」

この二日間、あの女子たちは来ていない。
たった2日だけなのに、長いこと見ていない気分になっていた。そうか、まだ2日か。じゃあ安心できないね。

「でも、松川君に悪くない?」
「本人が言ったんでしょ?」
「そうだけど。」

もしかして、何も起こらないように、見ててくれるってこと?いや、悪すぎるでしょ。せっかくの楽しい文化祭なのに。気使われてるじゃん。

「あのさ、真白。」
「うん。」
「年に1回しかない行事をわざわざいきたくない人とは行かないでしょ。」

私が何を考えているのかわかったのか、藍ちゃんは続けた。

「少なくとも気を遣って言ったわけじゃないと思うけど。素直に文化祭自体楽しみなさいよ。」

そうなのかな。
それで松川君自身はいいのかな。
つまり少なからず松川君は私と一緒でもいいって思ったんだよね。・・・いやいや。たしかに、1人で回るのは寂しいけど。だったら松川君と回るけど。
でも、1人で回るぐらいなら、松川君を誘おう、ってなるかな・・・。

「あ、藍ちゃんは?矢巾君に誘われたの?」
「チッ!」
「ひっ」

なんだか考えたくなくて、藍ちゃんの事を聞くと、大きな舌打ちが返ってきた。それこそ、教室に響き渡るくらいの。
なにやらとんでもない地雷を踏んだことだけはわかった。藍ちゃんの手元にあった揚げパンは、力任せに潰されている。

「今日の、この、パンの量見て、真白は、どう思った?」
「い、嫌なことが、あったと、思いました。」

怒りを抑えるように、静かに問う藍ちゃんに、つい敬語になってしまう。
藍ちゃんは私の答えを聞いた後、ゆっくりと深呼吸をして、手元にある揚げパンを全て頬張った。そしてそれを牛乳で流し込んだ。

「その話一生しないで。」
「り、了解しました。」

矢巾君、藍ちゃんがこんなに不機嫌になるほどのアタックをしているのか。確かに藍ちゃんは結構短気だけど、こんな、オーラにまで出さないのに。
きっとこの状態じゃ、何回かは怒鳴られてると思うんだけど、メンタル鋼なのかな。

「とにかく、せっかく誘ってもらったんだから、行ってきなさい。」
「う、うん。」
「それとも松川と行くの嫌なの?」
「嫌じゃ・・・ないけど。」

嫌ではない。しかし、私も一応ある程度女子をやってきた。2人で文化祭を回る、というのは、特別なものなんじゃないだろうか。

「どうして、私なのかな。」

自分のことを鈍い女だとは思っていない。どっちかというと敏感な方だと思う。だから、もしかして、と思ってしまう。

「あたしの口からはなんとも言えないけど、真白と行きたいからでしょ。」

その、行きたい理由を深く考えてしまう。

「深い理由があるかもしれないし、無いかもしれないじゃない。もしもあたしが松川に誘われたら、特に相手がいないならOKするけど。」
「そうなの?」
「だって松川とは気が合うし、特に嫌な思いしないし。」

そうか。気が合うからって理由もあるよね。

「一緒に行くにせよ、行かないにせよ、最後なんだから、後悔しない方で決めなよ。」
「・・・うん。」

藍ちゃんは特に気にしていないようだった。
藍ちゃんにとって、矢巾君はダメだけど、松川君は良ってことだろう。
松川君は友達だから?
矢巾君は恋愛的な好意を持ってるから?

松川君とは教室で一緒に話す関係。
遊びに行った事はないし、ご飯を一緒に食べたこともない。偶然道でばったり会って一緒に登校なんてこともなければ、一緒に下校はもっとない。
少し仲の良いクラスメイト。話しやすい人。友達って事?遊びには行かないのに?

クラスメイトと友達の違いってなに?
中学の時に同じクラスだった泣きぼくろが印象的だった彼は友達?一緒に図書館に行ったり、買い食いしながら帰ったりしたから、友達?
及川君は友達?委員会代わったりしたし、お菓子も渡した。それともクラスメイト?
この間話し込んだけど、クラスメイト?

ただ、一緒に行く相手がいないから私を誘ったんだよね。1人はちょっと、っては事だよね。
特に深い意味はないんだよね?
藍ちゃんと同じで、特に嫌な思いしないから、だよね?

空になった隣の席に目をやって考える。
『俺は関口からメッセージ来たら嬉しいけど』
不意に朝の会話を思い出す。
深い意味なんてない。ただのコミュニケーションの一環。
この間、及川君にお菓子を渡した時も、
『及川なんかが貰えるなら、俺が貰いたかった』
と言っていたのも、クラスも一緒で席も隣なんだから、いつでも貰えるタイミングがあったから貰えばよかったって事だよね。

「百面相してる」
「えっ?!」

松川君が楽しそうな顔で席についた。つい、姿勢を正す。

「さっきから見てたんだけど、関口の表情コロコロ変わってた」
「そ、そうだった?」
「うん。」

1人で表情変えまくってたってもはやホラーでしかなくない?怖くない?

「かわいかったよ。」
「へ?!」

突然の言葉に声が裏返る。
一方の松川君は特に気にした素振りもなくわいつも通りの顔で「ん?」と返した。






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