隣の席のまつかわくん | ナノ






昨日も家に帰ってから原因を考えたけれど、全く思い浮かばなかった。でも、在校生が多いから、知らぬ間に恨みを買っているのかもしれない。何か、気に入らない部分があったんだと思う。

藍ちゃんには「何があってもシカトしろ。」と言われたけど、そんな器用なことできる自信がない。
そこでふと考えた。このまま悪い方向へ流れが進んでしまったら。靴が無くなってたらどうしよう。教科書が捨てられてたら・・。不安な気持ちに駆られながら学校に来たが、特にそういうことは起こっていなかった。ドラマの見過ぎだね。そんなこと、あるわけないか。

「おはよ、関口。」
「おはよう、松川君。」

いつもより少し遅めに教室へ入ると、松川君はすでに自分の席に座っていた。

「昨日、あの後大丈夫だった?」
「うん、特に問題とかなかったよ。」

部活へ行く前に、松川君に心配された。門まで送ろうか、と。流石にそれは申し訳ないし、送ってもらわなきゃいけないほどの、何かが起ころうとしていたの?
そんな風に夜余計に考えちゃったけど、大丈夫だった。

「本当にごめんね、関口。大変だったでしょ。」

松川君が謝る理由はなにひとつないのに。
と、フォローしたかったけど、口から出たのは「うん。」という短い言葉だけだった。

「あの後本人たちに会って色々聞いたんだけど、気づかなかった。」
「・・・会ったの?」
「会って話したよ。」
「松川君の知り合い?」
「いや、知り合いではないかな。見たことはあるけど。」

知り合いじゃないのにわざわざ聞きに行ってくれたの?そこまでしてくれなくていいのに。見たことあるってことは、実は有名な人たちなのかな。

「あの化け狐たちのことはしっかり言っておくから、心配しないで。」
「ば・・・化けぎつね?」
「そう、化け狐。」

聞きたいことがすごくあるんだけど。
とりあえず言っておくって誰に言うの?先生?先生に言ったら余計に火に油なんじゃ。あと、化け狐って言ったよね・・・。

「男子の方も多分、わかるから、そっちも何とかするよ。」

特に矢巾、と小さい声で言っていたけど、しっかり聞こえた。昨日藍ちゃんが、矢巾君の件も話していたから。そっちの後輩なんとかして、と。しつこい、と。あと、私と藍ちゃんが知り合いなのがすごい、と。
その話をした時の松川君の、目が笑ってなかった。それで「わかった」の一言だった。
なんだかわからないけど、矢巾君、頑張れ。








・  ・  ・






その日の夜、松川君から一件のメッセージが入っていた。それは布団に潜るような仕草で、おやすみ、とアピールするスタンプだった。それ以外は特に送られては来ず、既読をつけたまま、どうしようか考えた。
まず、松川君と連絡をとったことがない。そもそも何故私の連絡先を知っていたのかが、疑問だったけど、
3年に上がって、クラスで連絡網がわりにグループを作ったことを思い出した。
スタンプは22時ごろに送られてたのだが、『相手間違えてる?』と聞くような内容でもないし、わざわざ返すものでもないよな、と画面を開いたまま、30分ほど悩んだ。
悩んで、悩んで、結果、そのまま寝てしまった。







「あぁ、ゴメン。バレー部に送ったと思ってた。」

翌日聞いてみれば、想像通りの返事だった。深く考えなきゃよかった。

「別に返してくれてもよかったのに。」
「いやいや、お前じゃないよって思わない?」
「俺は関口からメッセージ来たら嬉しいけど。」

いやいや、君に送った訳じゃないから反応しなくていいよ、ってならない?あるいは、間違えてしまった、申し訳ない、と。
でも、もし、松川君とやりとりをしたら一体どんな風になるんだろう。絵文字派?顔文字?意外とスタンプだけの人だったり?
会話の内容もちょっと気になる。

「そういえば、文化祭では何作るか決まったの?」
「え?あぁ・・・。この間のやつとあと4種類かな。」
「そうなんだ。交代制だよね。関口午前?」
「うん。午後は部長と副部長と1年生が片付けまでするって。」

料理部は8人。最初はカフェにする予定だってけど、なんだかんだ話し合った結果、個数を決めて販売することになった。私は午前で、2年生たちと一緒に準備から行う。売り切れになった時点で終了で、午後組が片付まで。全てが終了した段階で、連絡が入り、一度集合という段取りだ。

「午後は予定あるの?」
「藍ちゃんと時間が合わなかったらから、まだ決めてないかな。」

3年は出し物参加が自由だったため、うちのクラスでは部活動の出し物だけ、という形になった。
1組は消極的というか、比較的おとなしめの人たちが多くて、出し物の話になった時も、乗り気ではない人が結構いた。
私も、1、2年の時が結構大変だったので、今回はなしになったのがありがたかった。

「そしたら一緒に回らない?」
「え?」

松川君の方を見ると、彼はこちらを見ていた。

「でも松川君この間、当番午後って言ってなかったっけ?」
「え?そんなこと言った?」

あれ、私、聞き間違えたのかな。
バレー部はタピオカ店をやるって。スイーツ好きの男子がタピオカがいいって。
午後から片付けまでやるって。

「井上と勘違いしてるんじゃない?」
「そうかな・・・。」

たしかに、松川君と文化祭の話したのは一回きりだったから、どこかで聞き間違えたのかもしれない。藍ちゃんが午後当番だってのは確かだし。

「でも、バレー部の他の友達は?」
「関口と同じで、3年は午後からなんだよね。このままじゃ俺、2年と回ることになっちゃう。」

流石に後輩とはさ、と松川君は言う。

「でも、私なんかでいいの?」
「もちろん。むしろ、俺じゃだめ?」
「だめじゃ・・・ないけど・・・。」


ダメではないけれど。






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