隣の席のまつかわくん | ナノ






「地味じゃん。」

体育の授業を終え、教室に戻る途中、廊下にいた女子がそう言った。反射的に声のした方向へ目を向けると、一瞬目があって、すぐそらされた。
やはり、私に対して放った言葉だった。

ここ数日、今のような出来事が増えた。私が歩いているのをジロジロ見たり、友達であろう人に耳打ちをしたり。直接は言ってこないが、聞こえるか聞こえないかのボリュームで「地味」「中の下」「普通」と、容姿に関する事を言ってくる。
なんだかわからないが、目をつけられている。挨拶の件すら終わっていないのに、新しい問題が始まってしまった。

「あんた、何したの?」
「何もしてないよ。普通に過ごしてたけど。」

その話を藍ちゃんに言えば、怪訝そうな顔をされる。私は特に何もしていない。いつもと同じように授業に出て、部活に行って、帰ってる。最近バイト始めたけど。好きな言葉は平和が1番、な私が、危険な橋は絶対に渡らない。普通。普通が1番。
藍ちゃんはパックジュースにストローを刺して、廊下からこちらを見ている女子たちに目を向けた。

その人たちは少し前にやってきて、廊下付近の人に「関口ってどれ?」と聞いてきた。うちのクラスは他の場所か食堂を使う人が多いので、基本的に10人くらいしか教室に残っていない。みんな大人しいタイプの人ばかりなので、普段は廊下の声がよく聞こえる。そのため、二人組の声もしっかりと中まで聞こえた。

「何あれ、ふっつうじゃん。」
「地味だし。いったいどんな手使ったんだか。」

あまり好意的ではない棘のある言い方に、どうも身体が縮こまってしまう。なんだかいけないことをした気分になる。どうやら私は彼女らにとって、都合が悪いらしい。しかし、地味とか普通とか、別に声に出さなくていいじゃないか。傷つく。

すると私の隣に座っていた藍ちゃんが机を叩き立ち上がった。

「ちょっとあんた達さっきから何なの?!」

まさか反論されると思ってなかったのか、女子たちは大きく肩を揺らしていた。藍ちゃんはそのまま廊下の方へ歩いて行ってしまい、慌てて追いかける。

「なによ!あんたには関係ないでしょ!」
「そうよ!ひっこんでなさいよ陸上部!」

少しだけ黙っていたが、彼女らはすぐに言い返した。それに対して藍ちゃんは結構大きめな舌打ちをする。すごく怖い。近くに座っていた他の生徒がゆっくりと席を移動している。私も移動したい。

「陸上部は関係ないんだけど。それに、友達が嫌な思いしてるんだから怒るのは当たり前でしょ。」
「はぁ?あたし達が悪いっていうの?!」

彼女らの前についた藍ちゃんの目つきは、言葉で表せられないほど怖い。

「どっからどう見てもあんたらが悪いでしょ。何?真白に何か言いたいことでもあるの?」
「あ、藍ちゃん、私なら大丈夫だよ。」

藍ちゃんはすごく冷ややかな目で2人を見ていた。横から見てもこんな怖いのに、正面から見たら、どれだけ怖いんだろうか。
1人は涙目になっている。わかる。
私も最近そうやって睨まれて、泣きそうになったもん。

「さっきから聞いてれば?地味とか普通とか?あんたら人のこと言えるほど可愛くないからね、ブス。」

最後の言葉に物凄く力が入っていた気がする。容姿を否定するのは良くないよ。言われた2人は小刻みに震えていた。そしてこちらを睨みつけてきたが、涙が一筋落ちてきた。

「え・・・あの、大丈夫?」
「なんで真白が心配するのよ。」
「いや、でも。」

泣いてるし。泣かせるのは流石に良くないよ。
せっかく綺麗なお化粧してるのに、このままじゃ崩れちゃうだろうし。

「あのね、嫌な思いしてるのは真白の方でしょ。そうやって変に優しくしたらもっとつけあがるのよ?こういう性格 ブ ス なタイプは!」

再びブス、の部分を強調する藍ちゃん。
もうどっちが悪いかわからないよ、これじゃ。
基本的に害がなければ相手すらしない藍ちゃんだけれど、今回は別らしい。

「で、あんたたちは何か言いたいことあるの?」

改めて藍ちゃんは問いただすが、女子たちは下を向いて黙ったままだった。

「・・・あのさ、これじゃあ逆にあたしがいじめてるみたいじゃない。」

多分、今から出くわす人が見たら、絶対に藍ちゃんがいじめてると思うよね。・・・ストレス溜まっているのだろうか。

「何よ!美人だからって何言っても許されると思わないでよね!」
「どんな見た目でもだめだつっーの。」

むかつく!!と女子たちは叫びながら廊下を走って行った。それをしばらく見ていた藍ちゃんだったが、しばらくしてから深いため気をした。

「ああいうタイプって、1人じゃ何もできないのよね。かといって、ちょっと都合悪くなると何も言い返せなくて自滅するのよね。」

藍ちゃんの言葉に何も言わずに、とりあえず首を縦に振る。

「それにあたしああいうの大嫌い。言いたいことあるなら直接言えっての。」
「勉強になりマース。」

吐き捨てるように言った藍ちゃんの言葉に返事を返したのは、いつの間にか戻ってきた松川君だった。座ってもいい?と彼は自分の席を指差した。

「ごめん、松川。」

藍ちゃんは急いで荷物を片付ける。

「言いたいことは言えってことなので聞くけど、何があったの?」

松川君、そういう意味じゃないと思う。
藍ちゃんは私の方を一度見て、すぐに松川君に話をした。今回と、最近の件を。
松川君、藍ちゃん、共に1年の時に同じクラスになった。2人は波長が合うみたいで、よく一緒に喋っている。彼には迷惑はかけたくなかったな。

松川君は真剣に藍ちゃんの話を聞いて、相槌を打っている。

「大丈夫?関口。」
「うん。なんかごめんね。」
「どうして謝るの?」
「え・・・」

それは。関係ない松川君に迷惑かけちゃったし。
そういうと、松川君は大丈夫だよ、と返してくれた。






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