隣の席のまつかわくん | ナノ






あれから1週間、おはざっす祭りは終わりを見せることなく続いている。あの後後輩君ともう一度遭遇した藍ちゃんは、この間の続きを聞いたみたいだけど、すいません、の一点張りらしい。名前は矢巾君、一つ下の2年生。藍ちゃんと矢巾君の関係だが、どうやら矢巾君から猛アタックを受けているらしい。最初はやんわり、二回目ははっきり断ったらしいが、全く折れないらしく、避けるようにしてるんだとか。だから、この間矢巾君と話したのも、だいぶ無理をしたんだと思う。辛い思いをさせてしまった。ごめんね。

一回振られてもめげないなんてすごいねわと言ったら、「でもあいつバレー部だし。」とよくわからないことを言っていた。バレー部には及川君がいるから、と。及川君なら去年同じクラスで同じ図書委員だったけど、何か問題があるようには別に見えなかった。

「及川は問題しか持ってこないから。」

と、矢巾君の時に見せるのとは別の、嫌そうな顔をしていた。心なしか、及川君の時の方が、嫌さが増して見える。そんな話をしたのが昼休み。

「久しぶりだね、関口さん、元気?」

その及川君とばったり遭遇したのが、部活を終え、家庭科室から出た渡り廊下の途中だった。
3年になってから直接会うことはなかったのに、彼の話をしたその日に会うなんて、偶然ってすごい。
藍ちゃんのあの嫌そうな顔が頭に残りつつも、元気だよ、と返した。

「いや、本当、あの時は超助かったよ。委員会。代わってくれてありがとう。」
「そんな、気にしなくていいのに。」

図書委員の仕事は嫌いじゃないし、自分から進んで立候補したし、問題ない。及川君はクラスのノリでやらされる羽目になっていた。彼は部活で忙しいことが多くて、暇な私はよく代わってあげた。別に楽しかったし、もう去年のことなので、気にしなくていいのに。

「そういえば、及川君今日部活無いの?」
「そう。うちは今日オフなんだよね。」
「そうなんだ。でもオフなのにこんな時間までいるの珍しいね。」

時刻はもう最終下校時間だ。オフの日ってどこか寄り道するものだと思ってた。勉強でもしてたのかな?

「あー、うん。3年でミーティングしてたんだよ。で、さっき終わったんだ。」
「オフなのにミーティングしてたの?」
「オフだからミーティングしてたんだよ。」

1、2年がいない時に今後の体制を話し合ってたんだ。
及川君はそう言って頭を掻いた。そっか、チームだから、レギュラーとか主将の話とかも、3年たちだけで話したりするのね。うちでもその話あったな。

「そしたら白熱しちゃって。」
「そうだよね。盛り上がるよね。」
「白熱したらお腹すいちゃって。」

ぐう、と及川君のお腹が鳴る。ほら、と彼は付け足した。

「さっき、ここ通った時に甘い匂いしてたから、おこぼれもらえないかなぁ、って。」

再び頭を掻いて、及川君は笑う。
確かにさっき、ちょうど料理してたし。
右手に持った少し大きめの紙袋を及川君に差し出す。

「文化祭で出すように色々作ったんだけど、よかったら食べる?」

文化祭に備え、何を出すか、色々と作ったのだが、明日から部活が1週間休み、ということもあり、今日は作り過ぎてしまった。クッキー、シフォン、トリュフ。料理部自体人数もいないので、活動自体少なく、そのため、部活のたびにみんな張り切り過ぎてしまう。結局作り過ぎて、次の部活の日に「太った!」の報告会になってたりする。それでもまた作り過ぎちゃうんだよね。

「いいの?」
「うん。作り過ぎちゃって。」
「やったー!っておもっ?!」

及川君は嬉しそうに受け取って、早速中身を確認している。10個くらいあるから、もし部員の人たちがまだいるなら、ぜひ。さっきみんなで味見したけど、結構美味しかった。

「うちのクラスに料理部の副部長いるから、その子からもらおうと思ってたんだけど、関口さんでよかったよ。」
「そうなの?どういたしまして。まだ他の部員の人たちいるなら、よかったら一緒に食べて。」
「うん、ありがとう。」

わーい、シフォンケーキだ。とはしゃぐ及川君はまるで子供みたいだ。

「関口さんこれから帰るところなら一緒にどう?まっつんいるよ。」
「まっつん?」
「あー、松川。」

松川君も残ってたんだ。
そうだ、松川君と及川君って同じバレー部だったっけ。なんか自分の数少ない知り合いが同じ部活の部員同士ってなんか不思議な感じ。共通の知り合いがいるって、なんかすごいな。

「それにね、マネージャーが1人いるんだ。」
「マネージャー?」
「そう。」

バレー部のマネージャーって大変そうだな。一体どんなことするんだろう。スコア付けとか?多分私にはできないや。

「せっかく誘ってくれたのにごめんなさい。今日はこの後予定があって。」
「そっか。そんな謝らないでよ。逆にありがとう。」

再び及川君にお礼を言われて、ちょっと照れくさくなる。あんまり見ないけど、及川君って整った顔立ちしてるよね。クラスが同じだった時、女子がはしゃいでた気がする。背も高いし、話しかけやすいし。

「俺の顔何かついてる?」
「あ!ごめん!大丈夫だよ!」

いけない、まじまじと見てしまった。
でもきっと見ちゃうよね、こんな整ってたら。なんか、モデル、とか言われても通用しちゃいそう。
詳しくは知らないけど、バレー部の主将らしいし。・・・欠点とかあるのかな。

「関口さんってさ。」
「うん。」
「おでこ見せたほうが可愛いと思うよ。」

・・・はい?今度は及川君が私の顔をじっと見つめていた。慌てて目を逸らす。流石に見られるのは無理かもしれない。

「いやいや、そんな。」
「可愛いと思うよ?今度やってみたら?」

私が目を逸らしても、及川君は気にならないみたいで話を続けている。見られる側は結構大変だな。なんとなく女子の気持ちわかるかも。

「お、及川君に言われると、恥ずかしいよ。」
「本当?」
「本当、です。」

男の子ってそんな簡単に可愛いとか言っちゃうもんなのかな。ペット感覚なのかな。顔が熱くて、慌てて手で扇ぐ。

「やっぱ女の子って、可愛いって言われたら照れるよね。」
「そ、そりゃあ・・・」

相手が及川君なら尚更恥ずかしい気がするけど。
私だけなのかな?
そうかぁ、だよねぇ、と及川君は謎の相槌をうっている。そして、うーん、と唸り声を上げる。

「どうかしたの?」
「手強いのがいてさぁ。」

及川君はため息を吐いて、また、頭を掻いた。
照れたり、困った時は頭を掻くらしい。

「でも、俺も折れるつもりはないんだけどさ。」
「そ、そうなんだ。」

話についていけないけど、なんだか及川君が元気になったから、まあいいか。

「お互い頑張ろうね、関口さん!」
「ん?う、うん、頑張ろう。」

一体何を?とは聞けず、スキップしながら遠ざかる及川君の背中を見届けるしかできなかった。






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