隣の席のまつかわくん | ナノ






関口真白、18歳、青葉城西高校3年1組。料理部所属、趣味は部活と同じで料理、特技はこれと言って自慢できるほどのものはない。
自己紹介をしてください、と言われたら、多分こんなものだと思う。追加するなら身長は160センチ、持病は無し。特に何もおかしなところはない。進路だって県内の大学に進学予定だし、家族構成も両親と弟と祖母。普通。ただの普通の女子高生。学校でだって、特に目立つような事もない、ただの生徒のはずなのに。最近不思議なことがある。

「あ、先輩おはざっす!」
「・・・どうも。」

知らない生徒に挨拶をされるようになった。うっす、おはざっす、おつかれっす。大体この3つ。そんでもって『先輩』がつくので、1、2年生。身長が高くてガタイも良くて声も大きいので、多分運動部。でもそれ以外は知らない。

挨拶自体悪いことでは全くないが、誰1人知らないので、本当にびっくりする。運動部の知り合いは少しはいるけれど、片手で数えられるくらいだし、付き合いだって長いから、今回の件とは関係ないと思う。
挨拶されて、最初は会釈だけ返していたけど、今は3文字返せるようになったので、多少なりとも慣れてきたのだろう。でも、行く場所行く場所でこういうことがあるから、流石に少し疲れた。
さっきも、誰だからわからない人からおはざっすをもらい、肩に重さを感じながら、ため息と共に席についた。

「おはよ、関口どうしたの?」

教科書などを机に移していると、少し離れた所で談笑していた松川君が、こちらに戻ってきた。

「おはよう、松川君。」
「深めのため息だったけど、何かあったの?」
「ううん、たいしたことじゃないの。」

少し離れた所にいた松川君に聞かれるなんて、そんな大きなため息だったのかな。恥ずかしい。
彼は特に深掘りなどはせず、そう?とだけ言って、自分の道具を準備し始めた。

松川君とは、1年生の時に同じクラスだった。何故か3回も席が隣同士になって、そこからよく会話するようになった。おかしなことに今年は2回目のお隣さんだ。数少ない知り合いの運動部の1人。
仲良し、の定義がわからないけれど、他の男子と比べたら、比較的よく喋る方だと思う。試合があった、勝った、負けた、とか、昨日焼いたアップルパイが焦げた、とか。学校内での出来事を話している。
彼の交友関係はわからないけど、運動部だし、私に話しかけてくる1、2年生のこと何か知ってたりしないかな・・・。ちらりと彼を横目で見ると、スマホをいじっている最中だった。

「ん?どした。」
「ううん、なんでもない。」

ごめんね、と言って教科書に目をやる。彼が運動部だからって私に挨拶してくる人間のことまでわかんないよね。うち、生徒多いし、運動部だってたくさんあるし。運動部って上下関係厳しいって聞いたことがあるから、きっとそういう理由だろう。知らない人だけど、先輩は先輩ってことで挨拶をする。大変だなぁ、運動部って。
松川君には変な気を使わせてしまったかもしれない。






・  ・  ・




「あ、この卵焼きおいしい。」
「本当?やったー。」

時は進んで昼休み。親友の藍香ちゃんと裏庭でお弁当を食べていた。藍香ちゃんとは1年生の時に友達になった。少し気が強いところがあるけれど、困った時は相談に乗ってくれて、きっと姉がいたら、こんな感じなんだと思う。今年もクラスが違うので、ご飯の時は一緒に食べている。ちなみにこの裏庭は、ほぼ陸上部の人しか来ないらしく、人通りが少ないので、落ち着いてご飯が食べられる。副部長の特権だ、と言っていた。

「ここ、静かでおちつく。」
「何よ突然。どうしたの?」

実は、藍ちゃんと裏庭で会う前にも「おつかれっす!」と声をかけられた。流石の頻度の多さに疲れて、愚痴も兼ねて、藍ちゃんに最近の出来事を相談した。

「なにそれ、おかしいでしょ。」
「でも運動部って上下関係厳しいんでしょ?」
「そりゃあ挨拶はまず人として最低限のマナーでしょうよ。でも、知らない人にまでいちいち挨拶してたら一日終わるじゃない。」
「・・・たしかに。」

だったらどうして私なんかに挨拶を?藍ちゃんは顎に手を当てて、何かを考えているようだった。

「真白・・・あんた何かしたの?」
「え?!なにもしてないよ。何かって何?」
「そりゃあわかんないけど・・・でもありえないでしょ、いきなり挨拶されるとか、しかも何人も。」

やっぱりおかしいんだ。何かしたのなら、私の方が教えてほしい。最近何した?普通に授業受けて、部活に行って、帰ってるだけなんだけど。そこから原因を探すって難しくない?

「とにかく、目をつけられたら色々面倒よ。特に」
「あ!!先輩!!」

後ろから大きな声がこちらを呼んでいる。つい驚いて、大袈裟に肩を揺らしてしまった。また、きた。
後ろを恐る恐る振り返れば、銀色の髪をした男子生徒が、こちらに向かって走ってきている。

「げ。」
「げ?」

しかしその男子生徒は、私の前ではなく、隣に座る藍ちゃんの前で足を止めた。

「奇遇ですね、藍香先輩!ご飯ここで食ってるんですか?」
「そうね。でも君がきたから、もうここでは食べないかな。」

男子生徒はすごく嬉しそうな顔で、藍ちゃんに話しかけている。嬉しさが溢れ出ているその雰囲気に、何故既視感を感じる。
あ、うちで飼ってるシーズーのみーちゃんだ。
嬉しい嬉しい!かまって、かまって!!だ。尻尾全力で振ってくるやつ。大丈夫?千切れない?ってやつ。
そう思うと一気に可愛く見えてきたけど、藍ちゃんはとても煩わしそうだ。

「お昼から藍香先輩に会えるなんて、俺、今日ラッキーです!!」
「おめでとう。私は明日からの休憩場所探すので大変かも。」

後輩君の喜び全開のオーラとは裏腹に、藍ちゃんはすごく嫌そうだ。

「休憩場所ですか?俺が探しましょうか?」
「あんたが来るから変えてるんでしょうが!」

あ。愛ちゃんが切れた。
2人がどういう関係なのかわからないけど、とりあえず藍ちゃんは嫌みたいだ。少し可哀想。

「俺は断然藍香先輩と一緒かなご飯食べたいですけどね・・・って。ん?」

藍ちゃんの言葉など華麗に無視していた後輩君が、ちらりと私の方を見ると、動きを止めた。

「んー・・・?」
「・・・?」
「あーーーっ!!!」

そしてしばらく謎の時間の後、大声を上げた。指もさされた。

「え、な、なんですか。」
「藍香先輩と知り合いなんですか?!すっげーっ!!」
「え?ええっ?」

こんな偶然あるかよ!!、と後輩君は少し離れたとこにいる、友達であろう男子生徒達に叫んでいた。声がデカすぎる。偶然ってなに?なんの偶然?

「うるっさいわよ。」
「いや、まじすげー偶然!」
「ねぇ、それどういう意味なの?」
「どうもこうも関口先輩って、っが?!」
「ひっ、」

早口で捲し立てていた後輩君の頭が突然激しく下に降りた。何かが飛んできたらしく、それが当たったのだろう。すごいコントロールだけど、とっても痛そう。
少し涙目になりながら、投げた犯人の方へ目をやる後輩君は、そのまま動きを止めた。

「ちょっと矢巾、話まだ終わってない。」
「す・・すいません、藍香先輩。」

藍ちゃんの問いかけに、後輩君は青い顔で、俺、俺、と繰り返す。

「・・・大丈夫?」
「すいません!俺まだ死にたくないので失礼します!!」
「はぁ?!」

後輩君はそう叫んで、走って行ってしまった。
まって、私って、っていったいなんだったの?
後輩君は一才振り返ることなく、脱兎の如く走り去ってしまい、藍ちゃんと目を合わせることしかできなかった。






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