隣の席のまつかわくん | ナノ







松川君にとって私は一体何なのだろう。時間をずらしてまで、誘ってくれた、その理由を。

「そうなんだ、三浦たちきたんだ。」

三浦さん達が帰って15分後、松川君がわざわざ来てくれた。連絡を取り合う予定だったのに、お菓子買いたいから迎えに来た、と。
どうやら3人が来た事を彼は知らなかった。

「関口が作ったのってどれ?」
「え?あ、このガトーショコラとクッキーかな。」

じゃあそれをもらうわ、と松川君はその2つを手に取る。

「松川と関口さんってそういう関係なの?」

既に交代した部長は不思議そうに確認しつつ、お会計をしている。

「えっ、ち、違うよ!」
「だ、そうです。」

慌てて否定すると松川君も答える。そういう関係って要するに男女のあれだろう。違う。三浦さん達だってきたけど、そんな感じじゃなかったし。いやあれは花巻君含め3人だったからだろうか。と考えてみてもそれは今の状況とは何も関係ないわけで。




「どこまわる?」
「うーん・・・バレー部来て、とは言われてるけど。」
「まぁそこは別に最後でもいいでしょ。」
「そうだけど・・・。」

いざどこへ行くかなんて聞かれても、すぐには思い浮かばない。手に持ったパンフレットを開いて確認する。

「松川君は行きたいとこないの?」
「そうねー。」

横から松川君が覗き込んできた。今まで見上げていた顔が、横まで近づいて思わず身をよじってしまった。

「え、なに。」
「な、なんでもないの。」
「・・・そう。」

いちいち意識していたら身がもたない。今まで気にしていなかったのに、急に意識したしだすなんて。

「井上のところは行かないの?」
「え、あ、うん。」

藍ちゃんはクラスでカフェを開くと言っていた。コスプレカフェだとか。

「絶対来るなって言われてるんだよね。」
「そうなんだ。」

裏方を希望していたのに、それが通らなかったらしく、ウェイトレスさんらしい。

「じゃあ行こうか。」
「え?!話聞いてたよね?」
「うん。嫌がる井上見たい」

・・・松川君、ぶっ飛ばされるよ。しかし、見たいのは私も一緒だ。もちろん、嫌がる顔じゃなくて衣装が気になるんだけど。

「は?何で来たの。」
「え、えーと。」
「おー、メイドさんじゃん。」

入り口早々に対応してくれた藍ちゃんは、殺気を込めた目で睨んできた。どうやら色々なコスチュームがあるらしく、メイド服のほかにチャイナ服やアラビアン風、赤ずきんや白雪姫など。とりあえずコスプレがコンセプトなのか。

「藍ちゃん写真とってもいい?」
「だめに決まってるでしょ。」

メイド服はふわふわ系で、少し丈が短め。ヘッドドレスもつけていた。髪の毛は軽く巻いてあって、可愛すぎて写真撮りたいのに拒否された。
すると横からカシャ、と機械音が聞こえた。

「ちょっと松川今撮ったでしょ。」
「うん。撮った。」
「消して!」

相当恥ずかしいのか耳まで真っ赤にして、藍ちゃんは言う。

「どうせここで消しても、どっかで隠し撮りされるんだから。」
「・・・ご案内します。」
「ありがとうございマース。」

藍ちゃんは諦めたのか、肩を落としながら席に通してくれた。ふと携帯に振動を感じ確認すると、松川君から先程撮った藍ちゃんの写真が送られてきた。彼を見れば口元に人差し指を当てていた。

どうやら藍ちゃんは案内担当みたいで、こっちには来てくれない。他の人に注文を聞かれて、私はオレンジジュース、松川君がコーヒーと注文した。
しかしコスプレは可愛いが、自分に回って来なくて良かったと思う。ああいうのは似合う人は本当に似合うけど、似合わない場合は放送事故だ。私がそういうタイプ。つくづくうちのクラスは出し物がなくてよかった。

「藍ちゃん、ずっと見てられる。」

独り言のつもりで言ったけど、松川君がうーん、と首を傾けながら言った。

「そうなの?」

矢巾、と、後ろを振り向いた。
同じように確認すれば体を丸める矢巾君。

「・・・バレてましたか。」
「金田一連れてよくバレないと思ったね。」

私たちの斜め後ろに座る矢巾君は、ですよね、と言って身体も縮めて飲み物を口にした。前回一緒だった人とは違うみたいだ。

「ど、どうも松川さん、こんちわっす。」
「金田一もかわいそうに、付き合わされて。」
「あ、はい!いいえ!」

どっちだ?金田一、と呼ばれた男の子は言葉と同様に首を縦に振って横に振った。確かに、矢巾君より背が高いみたい。全然気付かなかった。

「後輩連れ回すなよ、矢巾。」
「いや、だって、渡に断られて。」
「そりゃそうだろ。」

矢巾君はコップに入ったストローをくるくる回して藍ちゃんを見ている。

「お前も散々井上に拒否られてんのに、諦めないね。」
「そんな簡単に諦めつかないですって。」

いや、さすがに拒否されたら諦めようよ。藍ちゃんの心労を思って。

「藍香先輩、彼氏いないらしいし。って事はまだチャンスあるってことですよね。」
「そのポジティブ思考をぜひ部活でも出してちょうだいよ、次期キャプテン。」
「う・・・」

まぁ、わからなくもないけど。松川君はそう言って、こちら向き直す。

「関口はどう?」
「なにが?」
「矢巾みたいに懲りずに押してくるやつ。」

と、言われてもなぁ。藍ちゃん見てると本当気の毒というか、なんというか。
松川君の後輩にこんなことを思うのも悪いけど・・・。

「できれば平和的に終わりたいな。」
「ほう。」
「しつこくアピールされても、好きにはならないと思う。」

なるほど、と松川君は言って、残ったコーヒーを飲み干した。

「一回勝負ってやつだ。」
「え、う、うん・・・?」






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