隣の席のまつかわくん | ナノ






「500円です。」

あんな風に言われて、浮かれない人なんているのだろうか。少なくとも私は浮かれている。
ビニール袋にシフォンケーキとクッキーを詰めて渡す。あれ以来松川君と会話ができなかった。考えてみて、と言われたけど本人には言えず。だからといって、松川君もその件に触れてこなかった。結果その出来事自体嘘だったんじゃないか、と。そう思いながら、文化祭の日になった。

三浦さん達が言うような攻撃的な何かはなかった。それどころか三浦さんも来なくなった。藍ちゃんが松川君に尋ねていたけど、彼は「大丈夫」としか言ってくれなかった。
モヤモヤが残ったまま迎えた文化祭。不安になりながら、お菓子を販売していた。松川君とは午後に待ち合わせをしている。終わった方が連絡を入れる。

まだ30分以上はある。売り上げのほうはあんまり良いとは言えないけど。余ったら買い取ろう。そんなことを考えていると、ドアの方から見知った人物が入ってきた。
おじゃましまーす、と彼は前回と同じことを言った。

「わ、あれって及川先輩ですよね?!」
「私初めて見た。」

一緒にいた2年生がどこか嬉しそうに話している。

「関口さんこんにちは。」
「真白ちゃん来ちゃった!」
「おいっす。」

及川君に続き、三浦さん、花巻君が入ってきた。

「・・・三浦さん?」

背の高いバレー部の間に入る三浦さんは、小柄のこともあり、余計目立つ。しかしそれよりも気になったのは髪型だった。
それに気づいた三浦さんは、肩まで短くなった髪を触りながら「切ったの!」と笑顔で言った。毎回髪型をアレンジしていたのに。
笑顔だけれど、指はずっと髪の毛をいじっていた。それを及川くんとを花巻君が少し寂しそうな目で見ていた。

特に及川くんに目がいった。ただ三浦さんだけを見ていた。その目は、少し悲しそうに、でも優しそうな目だった。
そこで気づいた。
及川くんは、三浦さんが好きなんだ。それも、すごく。

「そんなことよりお菓子買いにきたの!」
「あ、うん。ありがとう。」

及川君の思いは、三浦さんには届いているのかな。
でも、もし届いていても、邪魔されちゃうのかな。

「わーい、シフォンケーキあるじゃん!これと、これと、うーん・・・。」

三浦さんは相変わらず笑顔のままで机にあるお菓子を手に取る。その数の多さが尋常ではなかった。それを見た後輩たちは目をぱちくりしていた。

「料理部のお菓子すごくおいしかったよ。」
「あ、ありがとうございます。」

三浦さんは2年生たちに笑顔で話しかけてくれる。

「ねぇ梨桜、それ俺の分入ってる?」
「入ってないよ。」

三浦さんは8個ほど購入してくれた。横から花巻君が聞いてて、まじかと言った。

「お前このままじゃでぶになっちゃうよ。」
「いいの、ダイエットは明日からにするー。」

花巻君は4種類買ってくれた。とんでもない太客だ。

「ふ、2人ともありがとう。」
「えー?むしろこっちがありがとうだよ。楽しみー」

三浦さんは既にトリュフを食べ始めている。

「真白ちゃんも後でうち来てよ、まっつんと。」
「え・・・う、うん。」

突然出た名前に一瞬どきっとする。というか、私が松川君と回ること知ってたんだ。

「えーなに、松が午前交換したのでそういうこと?」

ん?交換した?松川君、午前担当で午後暇って言ってなかったっけ。後輩と午後回るのは、って。聞いてる話と違うけど。三浦さん達に目をやると目があった三浦さんにふーん?と言われた。

「まっきーはどうやら地雷を踏んだようだよ。」
「は?どういうこと?」

三浦さんは花巻君の肩を叩いてニヤニヤと笑う。花巻君はそれに対して不思議そうな顔で私を見た。

「もう、まっきー?そんなんだから彼女できないんだよ。」
「ほーん?よくわかんねーけど梨桜は俺をディスってるのな?」

花巻君は三浦さんのつむじ辺りを指でぐりぐりと押す。

「いたいいたい!下痢になるツボを押さないでよ!」
「ちげーわ、背が伸びなくなるツボだわ。」
「あーん、もー!真白ちゃん助けてー!」

まるで兄妹みたいな会話をしているけど、今は別のことが気になった。及川君は苦笑いをして頭を掻いていた。

「ねぇ、三浦さん、さっき言ってたのって。」

三浦さんが声をかければ、彼女は花巻君を押しのけてこっちに来る。

「真白ちゃん、まっつん、すごくいい人だよ。」
「うん。」

それは、私でもわかる。2年間もクラス一緒だったから、優しいのは知ってる。話だってずっと聞いてくれるし。すごくいい人。

「真白ちゃんも、すごくいい人。」
「そ、そんなことないと思うけど。」

うふふ、となぜか三浦さんは笑って、そのまま及川君の背中を押し始めた。

「え、な、なに、三浦さん。」
「ほら、帰るよ。主将が仕切ってくれなきゃ。」
「三浦さん、待って、話が」

全然話が終わってないのに、もう話すことはないと言う顔で三浦さんは半ば強引に2人を連れて出て行ってしまった。本人に確認しろってことかな。

「関口先輩、松川さんって誰ですか?」
「彼氏さんですか?」
「違うよ。」

優しいクラスメイト。





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