「真白ちゃーん!!」
それから三浦さんは毎日クラスに来るようになった。廊下ですれ違った時も、移動で教室の前を通った時も、三浦さんは手を振り、声をかけてくる。
あの後、藍ちゃんと三浦さんは意気投合。今では松川君を含め、4人でご飯を食べるようになった。
男子バレー部のマネージャー、は想像以上に女子に目をつけられているらしい。正確には、及川君のファンの女子達から、らしいが。
そのせいでマネージャーは次から次へと辞めていき、今では三浦さんは1人になってしまったらしい。
彼女も何度かやめようと思ったらしいが、マネージャーが誰もいなくなったら、バレー部が大変だ、と後半は意地で頑張ってきたのだとか。
「昨日やってた東京のスイーツ特集見た?」
「うん。」
美味しそうだよねー、と彼女はメロンパンを頬張った。今日の彼女は、両サイドで低めの三つ編み。毎日髪型を変えているあたり、おしゃれが好きなんだと思う。可愛いな、と思っていたけれど、可愛くなるために努力をしている。可愛い、は作れるっていう昔のCMを思い出した。
「関口は作る専門で、三浦の食べる専門とは違うと思うよ。」
松川君の言葉に、彼女はえー!と残念そうにクリームパンを食べる。
「真白ちゃんと藍香ちゃんと行きたかったなぁ。」
「いや、東京だし。」
「じゃあまっつん買ってきてよ。」
「無茶振りすごくね。」
松川君と三浦さんは本当に仲が良くて、彼女の少し不思議な発言でさえも、松川君はすぐに反応する。
「えー!食べたいじゃん!なんでここは東京じゃないの?!」
「解答に困るわー。」
「真白ちゃんからもお願いしてよ!」
「え?!私?」
「そう!」
突然話を振られ、三浦さんを見だけど、彼女はシュークリームに夢中だ。
「まっつん、東京のスイーツ買ってきてって。」
三浦さんは首を傾げて言う。こう言う動作をやる女子のことを、小悪魔系って呼ぶのだと思うけど、不思議と三浦さんはそれが似合う。
松川君に目をやると、彼はすぐに視線に気づいたのか私の方を見た。
「え、えと。」
「ほら、真白ちゃん。」
ほら、と言われても。
藍ちゃんに助け舟を求めたが、頷かれた。
「か・・・買ってきて、ほしい、な?」
三浦さんを真似て、首を傾げたものの、羞恥心が勝りすぐに目を逸らした。
「まぁ、関口に頼まれたら買ってきちゃうかも。」
「「おおー。」」
松川君の発言に、三浦さんと藍ちゃんは拍手をした。なぜ。今のは話の流れであって、ノリであって。松川君もそのノリに乗っただけで。
それなのに余計に恥ずかしくなる自分が情けない。
「ていうか三浦さ、及川に呼ばれてたでしょ、文化祭の件で。まだ行かないの。」
「え、やだよ。まっつん行ってきて。」
三浦さんは口を尖らせながら、携帯をいじり出した。
「いや、朝言われてたでしょ。出し物の最終確認しようって。」
「今、まっきーに行ってきてってラインしたから大丈夫。」
「いや、花巻じゃなくてさ。」
三浦さんは私たちをに携帯の画面を見せる。『まっきー!主将が呼んでるよ!』そしてウインクのスタンプ。
「全然違うじゃん。」
「主将と2人きりで話すって、中々にリスキーなんだよ。」
目をつけられる、とは聞いていたけれど。
部活は意地で続けられたとしても、呼び出されるのは耐えられない、よね。
「だから、私、真白ちゃんのことが心配で。」
「え?」
「だってお菓子渡した時2人きりだったでしょ?」
たしかにあの日は及川君と2人だったけど、あの日だけだよ。それに、ただ会話しただけだし。時間も遅かったから、そんな見られてないだろうし。
「ちょっと待って、じゃああのブスは及川クラスタなの?」
「んー・・・どのぶすかわかんないけど、過激派なら何人かいるね。」
2人の発言も中々過激だと思うが、マネージャー経験がある2人だからからこそ、妙にリアリティを感じてしまう。
私と及川君が喋ってたから、及川君のファンの人たちは怒ったの?別に及川君が、誰と喋ろうが良くない?そんなことしたら、及川君と喋りたくても喋れなくなるし、彼がそれ知っていたら、誰とも喋れなくなる。
「それって、及川君が可哀想じゃない?」
前に彼が、手強いのがいる、と言っていた。
あの時は意味がわからなかったけど。
「及川とは誰も付き合えないでしょ。」
「あれはもう呪いのレベルだと思う。」
もしも、及川君に、好きな人がいたら、当然仲良くなりたいよね。そのためには会話しなきゃいけないのに。でも、それでもし、自分の好きな子がいじめられたら、彼はどう思うのだろう。
「じゃあ及川君は、好きな人作れないの?」
「あいつらは、自分以外彼女に相応しくないって思ってるの。」
藍ちゃんは苛立たしげに言った。
「及川本人は、守るつもりはあるみたいだけど。」
松川君が唐突に言ったので、彼の方を見ると、彼は三浦さんを見ていた。三浦さんは携帯を触る素振りをしていたが、画面はずっと動いていない。
「ねえ三浦」
「私、次体育だから、帰るね!」
松川の言葉を遮って、三浦さんは立ち上がる。そして笑顔でじゃあね、と言って出て行ってしまった。
「口で言うのは、簡単なのよ。」
藍ちゃんが静かに言えば、松川君がそうね、と肯定する。
「・・・及川だけは、やめた方がいい。」
藍ちゃんはそれだけ言うと、黙ってしまった。
それからどこか重い空気のまま、昼休みは過ぎていった。
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