隣の席のまつかわくん | ナノ






マネージャーのことを羨ましく思った。松川君にあんな優しい目で見てもらえるなんて。特別な存在なんだ。
むしろあれは、マネージャーに、対する目つき以上のものじゃないのか。
ならば私に対する今までの行動はなんなのか。
私をからかって遊んでいるのか?

「松川君って、好きな人いるの?」

実は私が浮かれてるだけなのでは?私が知らないだけで、松川君はおちゃらけた性格なのかもしれない。
ほら、及川君だって普通にかわいいとか言ってたし。

「え、何、突然。」

隣で本を読んでいた松川君は手を止めてこちらを見た。目が合って、心臓が跳ねたが、逸らさずに見つめ返す。だって私は目が合って、こんなにも緊張しているのに、松川君はいつも通りだから。

「・・・いるよ。」
「そう、なんだ。」

彼は少しの間黙っていたけど、答えてはくれた。やっぱりそうだ。
きっと相手は昨日のマネージャーで、私はその予行練習だ。私で反応を確認している。
だって、すごく可愛かった。女でも羨むほどには。

「何でそんなこと聞くの?」
「なんとなく。」

今度は松川君に聞かれ、目を逸らしながら答えた。

「関口はいないの?」

同じ質問を返されて、返答ができない。
私はどうやら、目の前にいるこの人が好きみたいだ。

「・・・いる。」

それだけ言って、正面を向き直した。
視界の隅で、松川君がこちらを見ているのを感じながら。








・  ・  ・







「シフォンケーキがね、すっごく美味しかったの。」

ふわふわのパーマは耳の下で二つに分けて結んである。

「スポンジ系のケーキって、すぐお腹にたまるけど、あれは無限に食べられちゃうよ。」

聞いているだけで、笑顔になりそうなかわいい声。

「でも、私はミルクレープが1番好きなんだ。生クリームは正義だよ。」

声の主はそう言って、自分で持ってきた生クリームたっぷりのサンドイッチを口にする。

「ちょっとごめん。」

私の前の席に座っていた藍ちゃんが手を上げて話を止める。

「なんでしょう?」
「あなた、誰?」

藍ちゃんは隣に座る女子に静かに聞いた。
彼女は私、藍ちゃん、そして松川君を順番に見て「あ!」と手を叩く。

「私名前言ってないか!」
「そうね。」

松川君に確認を取ってから、彼女は私たちを見た。

「はじめまして、私、三浦梨桜。男子バレー部のマネージャーです。」
「あ、えと、関口真白です。」
「あたしは井上。井上藍香。」

三浦さんは、知ってるよ、と言った。
そしてイチゴ牛乳を飲んで、今度はシュークリームを頬張る。

「関口さんはお菓子くれたし、最近色々噂になってるし。」
「え?」
「井上さんは、ほら、うちの矢巾が。」
「・・・そう。」

藍ちゃんの右眉がピクリと上がる。というか、噂になっているってどういうことなの?

「いや、そうじゃなくて、何で一緒にご飯食べてるの?」

今日は藍ちゃんと松川君と3人でご飯を食べていた。すると少ししてから、三浦さんが「まっつーん!」と松川君を呼んだ。彼が向かおうとしたら「いーよいーよ、私がいく!」と小走りでやってきた。

辞書ありがとー!と及川君に貸していたはずの辞書を、松川君に返していた。それからなぜか、帰らないで、松川君の前、藍ちゃんの隣の席に腰を下ろしたのだ。
そして、お菓子ありがとう、からシフォンケーキの話まで進んだ。あまりにも突然すぎる出来事に、私も、藍ちゃんすらも呆気に取られ、先ほどやっと口を挟めた。

「だって私も関口さんとお話ししたかったんだもん。お菓子のお礼だって言いたかったし。」
「いえ、そんな。作りすぎただけだから。」
「私、料理のセンスがないみたいでさ、胃袋は掴めないみたい。」

胃袋?三浦さんは嬉しそうに笑いながら、トートバッグから板チョコを3枚出した。

「主将が、辞書返しに行きたいけど、お邪魔だったらー、とかよくわかんないこと言ってたから、奪っちゃった!」

いたずらっ子のような笑顔で三浦さんは言うけれど、それも許されてしまいそうなほど、可愛い。

「関口さんは、まっつんとも、主将とも面識あるし、この間まっきーとも会ったみたいだし。私もお友達になりたいなって思ったの。」
「三浦友達いないもんね。」
「大きなお世話。」

松川君の腕を叩いて、三浦さんは頬を膨らましていた。こんなに可愛いのに、友達いないの?

「マネージャーだから、及川のファンに目つけられるでしょ。」
「そーなの!」

藍ちゃんの問いに、三浦さんは大きな声で返した。そして藍ちゃんの肩を叩く。もちろん、藍ちゃんは驚いている。

「あんた、及川君に色目使ってるんでしょ!とか言ってさ!それで何人も辞めちゃって。」
「わかるわ。マネージャーだからって調子に乗らないでよ!って大人数でくるんでしょ。」
「そうなの!それで、主将以外も狙ってるんでしょ、この尻軽女!って。」

藍ちゃんと三浦さんは2人で盛り上がっている。そして2人はなぜか握手を交わした。

「私と関わると、主将ファンに目をつけられるって、女の子たちが話しかけてくれないの。」
「あったわ、あたしにもそんな時代。」
「ちょっと待って、藍ちゃん、どういうこと?」

私の質問に、藍ちゃんはあー、と唸ってから言いにくそうに口を開く。

「私、中学及川と一緒だったんだけど、男バレのマネージャーやってたの。」

ちょっと待って、初耳なんですが。松川君の方を見ると、彼も驚いていた。
藍ちゃんと三浦さんは、マネージャーあるあるや、共通の人物の話題で盛り上がっていた。
なんだか疎外感を感じて、寂しくなった。






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