本気で好きなら悩みなさい
「あああー!小原!どうしよう!どうしよう小原ぁああ!!」
木曜の朝練。黙々と練習している部員にお構いなく、バレー部主将は叫ぶ。隣でスポーツドリンクを飲んでいた小原豊の肩を大きく揺さぶる。落とさないように必死に押さえながら、小原は白い目で二口を見た。
「なんだよ、急に。」
「・・・好きって・・何だと思う?」
「・・・・・・は?」
真顔で聞く友人に対し、自分はまぬけ面で返してしまう。
「突然どうしたんだよ。」
「罰ゲーム?とか言われちゃったんだけど!」
再び肩を揺らしながら二口は言った。本当に好きなのだが、どうやら奈良坂にはそれが伝わっていないらしい。
「罰ゲームで女子に告るとか、そんな最低なことするかっつの!」
「告白の仕方がダメだったんでしょ。」
そこに横槍を入れたのが滑津。はい、といつも通りスポーツドリンクを渡す。二口はそれを受け取らず、滑津を見る。
「ふられんのこえーんだよ!」
「ヘタレ。」
「女々しい。」
二口の言葉に、滑津、小原が続ける。
「振られたら振られたで仕方なくない?人の好みはそれぞれなんだし。」
「お前はパンタロンと相性抜群だもんな。」
「やだっ、二口良いこと言う!」
今年の春から付き合いだしたチームメイト2人。のほほんとしたカップル。お似合い。
「滅べバカップル!」
「まぁまあ二口。」
なだめる小原を二口は睨みつける。
奈良坂のこと好きなんだけど。ストレートで実に良い告白じゃないか最後とんでもなく強引だったが、それしかなかった。
「実玲とは今年同じクラスになったんでしょ?私、あの子と同じ中学だったけど、まだ喋って数ヶ月なのに、随分思い切ったね。」
「・・・それは。」
取られる気がしたからだ。元々自分のものじゃないし、奈良坂は奈良坂自身のもの。
今はバレーが楽しいし、主将になって一番に優先している。茂庭さんたちに託された
『 主将
』 の意味を自分なりにも考えた。
部活で滑津と喋ったり、知らない他校生に声をかけられることだってある。言い方が失礼になるかもしれないが、女に飢えている、とか女子とたくさん話したいわけでもない。
ただ、奈良坂とは、話す機会があり、気が合う。話すと楽しいし、今では1日1回は会話したい。なんてことない話で、喜怒哀楽する顔が可愛いと思うし、俺個人の見解だが、クラスの、男子の中では一番話している。一緒にいて、楽しいな、と思わせてくれる人。奈良坂、実玲。
「・・・かてねーから。」
「え?」
このままゆっくり親密度を上げていって、この子もしかしてってなったら告白する。慎重派なのだ、こう見えて。だから今回本当に思い切った。
「滑津さ、茂庭さんと同じ中学だろ?」
「え?あぁ・・そうね。その時は知らなかったけど。」
滑津と茂庭さんが同じ中学ってことは奈良坂も一緒だってこと。
たまたま見かけた。茂庭さんと奈良坂が話してる所。内容はわからなかったが、嬉しそうな奈良坂と少し照れた茂庭さん。一瞬でやばいと察した。同じ中学の先輩で、わりと仲も良さげで。
茂庭さんは優しい人だ。頭もいい。きっと欠点なんてない。口の悪い自分とは大違い。
「茂庭さんと実玲に何の関係が・・・あ、」
不思議そうに聞いてきた滑津が、何か気づいた顔をする。
「二口、もしかして茂庭さんのことライバル視してるの?」
滑津の言葉に何も返さないでいると、滑津はニヤついた顔をする。
「そっかぁー。二口茂庭さんのことライバル視してんだぁー?」
「うるせぇ!」
「へえ。二口茂庭さんをライバル視か。」
何だかよくわからないがバカにされている気がする。
「でもさ、二口の告白受けたんなら、今好きな人いないってことでしょ?奈良坂さん。」
今度は女川が話に混ざる。
「でもさ、太郎。
『壁に追いやってキスでもすればいい?』
は無いでしょ。」
「え?!二口そんなこと言ったの?」
「・・・ない。それはない。だめだよ。」
・・・なんで知ってんだよ。昨日の話だぞ。
「・・・振られんのこえーし。」
でも事実なので何も言い返せなくなる。それに対して小原は額に手を当てる。女川は哀れんだ目で見てくる。やめろ、本当に。
「と、とりあえず今日の帰りどっか行きなよ!」
「部活の後じゃ時間ねーよ。」
「ご飯くらい行け!」
「クレープとか?!」
小原と女川の迫力に負け、わかったと頷いた。
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