はいかイエスで答えなさい | ナノ

  はいかイエスで答えなさい


「俺さ、奈良坂のこと好きなんだけど。」

それは至ってシンプルな言葉だった。放課後の体育館裏で。照れることなく堂々と言ってのけたクラスメイトに、すぐに返事を出せなかった。
よく喋るけれど、好意を持たれているなんて、思いもしなかった。今年同じクラスになったばかりだし趣味も似てない。友達の系統も違う。接点のある人物は1人だけ。

「聞いてる?」
「う・・・うん。」

仁王立ちでこちらを見ながら「で?」と彼は言った。そので?と言うのは答えを求めているんだろうか。呆然と立ち尽くしているんだから、察してくれないのだろうか。

「そんな急に言われても、困る。」
「はぁ?なんでだよ。」

片眉を吊り上げ、こちらを睨んでくる。
何故。ちょっと怒ってるのでしょうか・・・。

「部活行かないの?」
「何、その話の逸らし方。」
「ご・・・ごめんなさい。」

長身で目つきも悪いくせに舌打ちしないでください。私おかしい事は言ってないはずだ。
顔はいいくせに性格がひん曲がってやがる。

「主将が遅れたら他の部員に示しがつかないから早くしてくんない?」
「だからさっき言ったじゃん」
「俺が求めているのはあの答えじゃないから」

どうして最初から俺様チックなんだろう。まるで私が悪いみたいな顔をして。

「二口君ってさ、顔はかっこいいのに残念だよね。」
「・・・褒め言葉として受け取るけど、OKしたらこの顔、独り占めできんぜ。」

色々とツッコミを入れたいけど、とりあえ黙ることにする。

「よくね?イケメンの彼氏。」
「いや、彼氏じゃないから。」
「だからそれを今決めてんだろ。」

だから急に言われても困るんだってば。
これ結構最初のほうに言ったよね。なんでそんなに不機嫌なのさ。いつもと違う。

「だからね。二口君。急に言われても困るの。」
「じゃあ5秒だけ待ってやるから。」
「5秒?!」
「はい、5秒。ほら、答えは?」

相変わらず見下ろしながら二口君は言った。

「こわいよ、二口君。」
「はいかイエスで答えろよ。」

一方的すぎてついていけない。はいかイエスで ってどっちも肯定じゃないか。脅迫だよ、こんなの。いつもこんな会話しないじゃん。普通に授業の話とか、面倒な後輩君の話とか。

「本当にどうしたの?二口君。」
「俺はいたって普通だよ。」

彼の言う普通と、私の知ってる普通の二口君が一致しない。苛立たしげで、切羽詰まってて。数ヶ月しか会話していないから、こっちが普通の彼なのかもしれない。
もう一度言うけど、と彼は口を開く。

「俺、奈良坂のこと好きなんだけど。」

こうなったらはっきり言ってしまおう。

「気持ちは嬉しいけど二口君。」
「奈良坂はどんなやつが好きなの。」

言葉を遮って彼は告げる。聞く耳を持たないのか。

「優しい人。」
「じゃあ1週間だけでも付き合ってよ。」
「それは不誠実だよ」
「好きになるかもしれないだろ」

まくし立てるように言う。悲痛のように聞こえる。

「ねぇ。少しは話を聞こうよ。」
「はいかイエスで答えろよ。」
「二口君。」

交わらない会話。交えてくれない会話。
永遠にストレート。

「後悔なんてさせないし、好きにさせてやるから。」

はいかイエスで答えろよ。
繰り返し、言った。





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