はいかイエスで答えなさい | ナノ

  腰抜け野郎とわらいなさい


部活が始まる少し前、いつもは既に作業に取り込んでいるはずのマネージャーが遅れてやってきた。1人の女子生徒を連れて。
もしかして新しいマネージャーだろうか、と思ったが、マネージャーの表情から察するに、違うみたいだ。いつも穏やかな表情のマネージャーが、少し不機嫌な顔だった。

「ねぇ、小原、二口は?」
「まだだけど・・・。」

滑津は、そう、とだけ返事をして深いため息をついた。後ろにいる女子と目があったので会釈をすると、同じく返された。

「ちょっと待っててね、実玲。」
「わ、わかった。」

実玲と呼ばれた彼女は、失礼しますと申し訳なさそうに靴を脱いで中に入り、ドアの横に立つ。
滑津の友達で、二口を探してるっていうことは、もしかして、二口のあれだろうか。
彼女は珍しそうに中を見渡していた。
バレー部の練習風景を見るのが初めてなのだろうか。

「え、ちょっと滑津。」
「なに?」

一方の滑津は、連れてきた友人を置き去りにして、仕事を始めていた。

「大丈夫なの?あの子。」
「大丈夫よ。」

滑津は特に気にした素振りもなく仕事を続けている。
たしかに、今は部活の時間だが、部外者をそのままにしておくのはどうなのだろう。
言い方が失礼かもしれないが、他のメンバーも集中できないだろうし、本人も居づらそうだ。だから動かずに待っているのだろう。

そういえば、二口の口から彼女の話を聞かなくなったな。少し前は、振られるのが怖い、と情けなく騒いでいたのに。
もしかして、もう振られたのだろうが。結ばれてはいないだろう、自慢してこないのがその証拠。

もし振られたのだとしたら、その張本人を連れてくるなんて、滑津は中々サディストじゃないだろうか。
それで、ここに来る彼女もとんでもなく鬼畜だ。そっとしてあげてほしい。
あいつは口が悪いだけで、恋に関してはメンタルが豆腐だから。


あれ?でもそう考えると、振られたにしては静かだよな。もっと騒ぎ立てると思ったが、それを上回るほどに傷心している、ということか。
あんなでかい図体して、人の心を折ってくんだよ、とかゲスいこと言ってる奴が、恋に一喜一憂しているところを他校が見たら、一体どんな気分なんだろう。
ある意味、心折れそうだけど。

そんなことを思いながら、また彼女の方に目をやると、ちょうど二口が入ってきた。

「ういーっす、今日のメニューだけ、ど」

二口は気配に気づいたのか、彼女の方に目を向けた。

「二口君、」

そして名前を呼ばれると、何も言わずに踵を返して外へ走って行った。


・・・走って行った?



「はぁぁぁあああ?!」

後ろから滑津が叫んだ。
待て待て、ダサすぎるだろ。
顔を合わせられないってやつなのか?

「なんっでアイツが逃げてんのよ!つーか少女漫画のヒロインかっての!」
「女々しすぎる・・・残念すぎる。」

滑津と女川が続け様に言う。二口、お前、ずっとかっこ悪いよ。なんのフォローも出来ない。
一方の彼女は靴を履き直しているようだった。追いかけるのだろうか。
そもそも何故あの2人は逃げたり追いかけたりしてるんだ?
青根がすれ違った彼女をしばらく見つめてから入ってきた。

「落ちてた。」

渡されたのはメニュー表。
アイツ、投げ捨てたな。
多分しばらく帰ってこないだろうと思うので、両手を叩いてメニューを読み上げた。


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