その友情を噛み締めなさい
一方的に告白してきたくせに、一方的に無かったことにするなんて。
「信っじらんない!」
あれから数日が過ぎた。もう何日かなんて数えるのは億劫だ。話を切られて以来、声を掛けようとするとどこかへ行ってしまう。一方的に無視される。意味がわからない。
1週間経ったら好きになるかも、と言ったのはそっちの方なのに。いざ1週間経てば「もういいから。」だ。まるで私が振られたみたいじゃないか。
それともやはり罰ゲームの類だったのだろうか。ゲームが終わってさぞ嬉しかったことだろう。私は乱暴にシャベルで土を堀った。先生に植えておいてと頼まれたパンジーの苗。花に罪はない、と何度も頭の中で唱える。けれど、少し手つきが荒くなっているのがわかった。
本当にもう話しかけてくれなくなった。それってつまり、私のこと、好きじゃなくなったってこと。もしかしたら校門の所で待っていてくれてるかも、なんて少しでも期待した自分を惨めに感じた。
結果的に私は、自分の恋に気づけたけど、実りはしなかった。考えれば考えるほど、胸が痛み出して、視界がぼやけていく。
私のこの1週間って一体なんだったんだろう。
「・・・っ」
腕で目元を拭った。いつまでもくよくよしていられない。終わったのだ。
それに今までだって、そんなに会話してなかったじゃないか。2年に上がってから。たった半年。
私は工業校に学びにきてるんだ。友達が減ろうが増えようが、関係ないじゃないか。
「実玲。」
舞ちゃんが私を呼んだ。もうわざわざ確認しなくても舞ちゃんだってわかる。私に合わせて隣にしゃがむ。
特に話す気も起きず、黙々と苗を植える。
「実玲、大丈夫?」
舞ちゃんは再び声をかけてくれる。
ザクッといい音がして、シャベルが土にめり込む。
「もういいって。1週間悪かったってさ。」
平常心を保たせながら、息を吐いてから言った。復唱して、涙が出そうになった。
「・・・なにそれ。」
「あんな、顔だけの男に、少しでも好きだとか思うなんて。バカみたい。」
声が震えないように。張り上げてしまわないように、ゆっくりと。
「そんなことないよ。」
舞ちゃんがなにかを言おうとしている。
「舞ちゃん」
「・・・ん?」
「その苗取って。」
「・・・はい。」
「ありがとう。」
でももういい。
彼が距離をとるってことは、もう近づきたくないんでしょ?関わりたくないんでしょ?私は未練たらしい人にはなりたくない。
以前も別の花壇で苗を植えていたら、ロードワーク中の彼に会った。私の横にしゃがんで、すごいな、奈良坂は、と言ってくれた。なんだか照れ臭くて、その花の話をした。多分ちゃんと話したのはそれが最初だ。
「もう、いいんだ。」
彼の考えてること、理解できなかったけど。もういいや。高校時代の面白い話って、社会人になったら話そう。1週間だけお試し交際って。そう簡単に体験できるものじゃないし、もう一生やりたくない。
「よくない。」
「え?」
「よくないわよ!実玲!」
舞ちゃんは大きな声で言ってから、立ち上がった。
「え、舞ちゃん、」
「1週間悪かった、ですって?どの口が言ってんのよ!」
舞ちゃんは中々の力で私の腕を引っ張った。つられるように慌てて立ち上がった。
「自分から言っといたくせに、最後なかったことにしようとしてんの?」
舞ちゃんは、普段聞かないような低い声で言った。瞬間背筋が凍った。
「そういう一方的で尚且つうじうじした男、腹立つのよねあたし。」
舞ちゃんは私の手を引いたまま歩き出す。
「ま、舞ちゃん。」
「ちょっと顔がいいからって二口のやつ舐めたことしやがって。」
舞ちゃんは怒るとすごく怖い。普段怒らない分、すごく。男子でさえ半べそかくくらい。というかもう顔が怖い。
「あたしの大事な親友にこんな顔させるなんて、許されると思ってるのかしら。」
「い、一旦落ち着こう!舞ちゃん!」
私もさっきまでイライラしてたけど、他の人がより苛立ってるの見ると冷静になるよね。こんなこと、絶対に言えないけど、舞ちゃんの頭からツノが生えてるようにさえ見える。
「実玲、一発殴ってやんなさい。」
「え、私?」
「当たり前でしょうが!」
大股で歩く舞ちゃんに引っ張られるように歩く。すれ違う生徒たちが物珍しそうな目で見ている。多分向かっている先は体育館なんだろうけど、本当は行きたくない。
なにを言われるか、想像がつかないから。
でも、そこまでして怒ってくれる親友がいて、嬉しかった。
prev /
next