はいかイエスで答えなさい | ナノ

  それが何なのか知りなさい




やってしまった。
なんでこのタイミングで風邪引くかな。
流石に3日目だから、熱もほぼ下がった。明日には学校に行けるだろう。

二口君はどうなったんだろう。1週間のお試し期間、終わっちゃったけど。この間の事を思いだす。いつもイライラしていた二口君が不機嫌じゃなかった。一緒に登校して笑っていた。

「・・・っ」

朝の笑顔は反則だ。可愛かった、なんて簡単に言わないでほしい。思いだしただけで熱い。・・・いや、風邪のせいだ。熱、熱がまだあるから。

久しぶりに楽しいと思った。私が知ってる二口君だった。それなのに、午後は不機嫌にさせてしまった。なんだか恥ずかしくて、会うのを避けていたら、要先輩に会った。

中学ではお世話になってたし、尊敬している。だから普通に話をしていただけなのに彼は苛々していた。いつも苛々していて、たまに困ったような顔をして。
息を切らしてまで探しに来てくれた事。

要先輩に告白されたら付き合うのか、と聞かれた。要先輩になりたかった、と言った。泣きそうな顔だった。
なんとなく思った。優しい先輩になりたかった、というのは。全然帰ってこないと思ったら茂庭さんね、の言葉の意味を。
やたらその名前を引っ張る意味を。



「実玲、開けていい?」
「えっ・・・?!舞ちゃん?!」

扉をノックする音。
慌てて身体を起こして、どうぞ、と声をかけた。

「ごめんね、急に。お見舞い。」
「舞ちゃん・・・ありがとう。」

お母さんってば、通す前に声かけて欲しかった。嬉しいけど。
寝てなさいよ、と舞ちゃんは気を使ってくれたが、もうほぼ熱はないので大丈夫。

「チーズケーキ」
「えぇ、そんなよかったのに。」

ケーキまで頂いてしまった。本当に申し訳ない。今度、お礼しよう。
舞ちゃんはなつかしー、と部屋を見渡しながら腰を下ろした。中学の時、何回か互いの家に遊びに行っていた。高校では舞ちゃんが部活で大変そうだったから、あまり遊ばなくなっていたけど。二口君の件で、また話す時間が増えた。

「舞ちゃん忙しいのにごめんね。」
「なにそれ、べつにいいのよ。」

舞ちゃんは笑顔で言う。昔から可愛かったんだけど、高校に上がってもっと可愛くなった。やっぱり彼氏さんパワーだろうか。恋をすると変わるってよく聞くし。

「それに二口のこと気になったから。」

そう聞かれ、また、頬が熱くなった気がした。二口君は要先輩に嫉妬していた。私と話す要先輩にやきもちをやいていた。それぐらいには、好いてくれているんだよね。

「・・・なにかあった?」

困った顔で聞く舞ちゃんに、昨日のことを相談した。恋愛なんて、今まで興味がなかったから、考えたことなかった。
引いただろ、と二口君は言った。
意地を張らずに認めたことが、意外だった。
急に抱きしめられた。初めてだった。

「・・・そっか。」

舞ちゃんはそれだけ言った。部活で一緒で、彼氏さんは二口君と仲がいい。きっと私の知らないなにかを知っているんだろう。

抱きしめられた感覚が、頭から離れない。
体温が。息遣いが。



「それで。」
「え?」



「実玲はどう思ったの?」

どう・・思った、

「どきどきした?」
「・・・した・・・けど、」

他の人に嫉妬するほど、好かれていたのかと、何故か嬉しくなった。
近くなった体温に、ドキドキした。けれど。

「・・・わからない。」

それが恋、なのかは分からなかった。
恋と呼ぶには、まだ。

「だったらさ。」

舞ちゃんが目を細める、

「逆の立場で考えみたら?」
「逆の立場?」
「もしも、二口が他の女子と話していたらどう思う?」

二口君が、
他の女子と、
話していたら。

「実玲にやったこと、他の人にもやったら」






 ーーー『俺、奈良坂のこと好きなんだけど。』
 ーーー『好きでもないやつに告白なんてしないだろ。』
 ーーー『かわいかったのに』


 ーーー『引いただろ。勝手に嫉妬してさ。』





 ーーー『やっぱ奈良坂、 好きだわ』
  





「・・・私。」

舞ちゃんは、私の肩を軽く叩く。

「それが、好きって感情だよ。」



・・・そうか。
これが、好きってことなんだ。









・   ・   ・







わざわざ難しい理由を作らなくても、簡単なことだった。好き、そう認めてしまえば、何も言う必要はなかった。

いつも教室で話せることが、当たり前だと思っていた。クラスの人全員と話してるわけじゃないのに。そこに突然、好きという感情を伝えられて混乱した。友達だと思っていたのに、好意を向けられたこと。私が彼に対して抱いていた感情とは別の感情をぶつけられて、怖かった。

一方で少しずつ距離が開いていくのを感じて、悲しくなった。

彼の向けてくれる好意を、少しずつ実感しながら、徐々に嬉しいと感じる自分がいた。

「・・・おはよう。」

教室につけば、席に座って本を読む彼が見えた。挨拶は届いただろうか。

「お・・・おう。おはよ。」

二口君は驚きながらも返してくれた。静かに隣に座る。なんだか恥ずかしくなって、彼の方を向けなかった。

「奈良坂」
「は、はい!」

けれど、彼の方から声をかけてくれた。私は慌てて二口君を見た。彼は私とは目を合わせず、ずっと本に目を通している。

「もう1週間経ったけど。」
「・・・うん。」

彼に告白されて1週間が経った。私は彼に返事をしなければならない。
でも、答えは決まっていた。

「そ、そのことなんだけど。」
「いいから。」
「え?」

放課後少し時間をくれない?
そう言おうと思っていた。
けれど二口君は私が口を開くのを拒むようだった。

「もう、いいから。」
「・・・え?どういう、」
「1週間、悪かったな。」


まだ、私は何も言っていないのに。
彼は言葉を遮った。
これ以上は聞くつもりはない、そんな言い方だった。
私のことなんて一切見ることなく、
呆気なく、一日が終わった。









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