ねことわたし | ナノ

非、現実的な事など、起こりえない



  −『 その猫・・・俺です 』


人生は発見の連続だ、なんていったい誰が言ったのだろうか。生まれてこのかた16年。
怪奇現象とは無縁だった。
金縛りだって幽体離脱だって幽霊だって。経験したことも、見たこともない。
ましてや妖怪、なぞ言語道断。そんなものはいないと思っている。

例えば10年近く溺愛していた猫が亡くなり、夢に出てきたとして。
ああ、それは愛しすぎた故に夢に見たのか、くらいで。

夢の中の猫に
 『 愛してくれてありがとう。今度は私が幸せを届ける! 』 なんて言われても、最近の夢は凄いなくらいで。
その夢を見た日から、夜気がつけば身体が縮んでいた、なんてどこの名探偵だよ、とかにわか信じられない話。

それが少年になるならまだしも、愛して愛してやまない愛猫の姿、だったなんて、何を信じればいいんだか。


駄目元言ってみて、通報されたらしょうがない。記憶に無いです、の一点張りだ。
酔っててわからない、は通じない。未成年なのだから、それこそ違う意味で捕まる。



「・・・あの猫が・・・あなた?」


眉をハの字にして疑いの眼差しを向ける宇多川さん。名前はさっき生徒手帳を見た。いや、意図的ではなく、たまたま目に付いただけ。あなたあなたでは失礼だから。
彼女に対する返答は、一回の頷きだけ。
叫ばれなくてよかった。
俺だったら、目覚めて横に全裸の女性がいたら叫ぶ。露出狂、と。
そして制止を待たずに裸のまま外に出す。・・・バスタオルくらいならくれてやらなくもない。でもこんなに冷静にはなれない。
せめて服を貸してください、なんて言われても知るか出てけ、しか浮かばない。いや、それこそ普通。

まあ咄嗟に口を押さえてしまったのは、申し訳なく思うけど。

「そうなんだ・・・」
「・・・は?」
「え?」

この人おかしい。
あなたが一緒に寝ていた猫は俺なんですよ、と言ったのだ。猫が、人間になったんだ、と。非現実的なことだぞ?それを、そうなんだ、で済ますのか?
漫画とかゲームとか小説とかでは、よくあることかもしれないけど、現実ではそんなこと、ありえない。
いや、自分がまさにその状況なんだけど、普通は信じない。

「猫人間って本当にいたんだぁー。」
「いや、可笑しいでしょ。」

ついツッコミをいれてしまった。
信じて欲しいのが、今の気持ちだが、もう少しそうなってしまった経由とか聞かないのだろうか。


「小説の中だけかと思ってたけど、そっか猫人間さんかー。あの猫さんかー。それは仕方ないね。」
「いや、小説みたいに架空の話ではなくて、今目の前で起こってるんですけど?」
「猫が本当の姿?人が本当の姿?」

なぜか目を輝かせている。
宇多川さんはあれか、非現実的なことが大好きなのか?全く話を聞かないじゃないか。

「・・・こっち。」
「・・ほぉー。じゃあ猫さん、じゃ失礼だね。お名前、お伺いしてもいいですか?」
「・・赤葦・・・京治」
「アカアシくん?変わった苗字だね?あ、猫さんだからか!」

いや、最後のは意味が分からないけど、先ほどの警戒心とやらはもうないらしい。多分。

「で、110番しないの?」
「いやしないよー!この人猫さんなんです!ってだれが信じるの?!」

いやお前だよ。
お前信じてんじゃん。

「宇多川さんはどっちなわけ?バカにしてる?」
「じゃあ赤葦くんは嘘をついてるの?」
「・・・ついてない、けど。」
「じゃあそれでいいじゃん。」

いや、全く良くないだろ。
世間一般は信じてくれないだろうけど、私は信じるって?一体どういう思考してるんだ。

「とりあえず、ご飯食べない?」
「・・・は?」
「さすがに、お腹すいちゃって。」

警戒心皆無、
下降りてまーす。
と彼女は告げて、部屋を出て行く。



・・・やばい人に拾われたかもしれない。





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