布団の中からこんにちは
昨日は疲れたな。
私のカバンは踏みつけられ、なぜかエコバッグが壊れ。変な先輩になんか気に入られ。
そういえば名前は夜久先輩と、孤爪君らしい。
黒尾・・・先輩に関しては、先輩と敬っていいのか、なんだか癪だけど。
大体私がツインテールだったことに文句でもあんのか?!仕方ないよ、あれまだ中学の写真だし。お母さんが張り切ってツインテールがいいっ!っていうから。
断ったらお父さんに泣きついて、結果2人で泣くから!あれすごく面倒なんだから!卒業式とかもう号泣しすぎてて行きたくなかったし、実際そっと帰ったし。
そんなことより、猫さんはあのままぐっすりと死んでるかのように眠っていた。
リビングに寝かせておくのもありかなって思ったけど、見知らぬ家だから暴れたら大変だと思い、自分の部屋に連れてきた。
クッションがあったけど、なんだかんだ動物を家に入れるの初めてだから、浮かれてベッドに連れ込んだ。
なんか喉ごろごろーって言っててすごく可愛かった。あー、猫飼いたいなぁ。
とりあえず、今日、警察に届け出が出てないか聞いて、そのあとはどうしようかな。
お家に置いていけないよな。・・・今日くらい休んでもいいかなぁ。
「そういえば猫さん。」
私寝相悪かったりしない?吹っ飛ばしたりしてない?急いで寝返りを打つ。そして、息が詰まった。
「・・・。」
猫のものにしては大きい寝息。
猫にしては大きい体。そして猫耳が生えていない、ん、ですが・・・。
つい、ひ、っと声が漏れてしまう。
全く記憶にない男性が、私の、ベッドで、あろうことか。
「・・・ん」
眠っているなんて!!!
え?どうしてそうゆうことになったの?!ていうかこの人、肩出てるけど、服着てないよね?え?う、上だけですよね?!暑かったんですか?じゃあなぜ布団を羽織ってる?!布団も脱げ!いやそもそも。
なんとかベッドからは出ようとゆっくり動いたんだけど、この人すごく敏感みたいで、静かに目を見開いた。
そしてがっちり目が合った。
「きっ・・・!!?」
・ ・ ・ ・
本当に、一瞬の出来事だった。
私一応普通の女の子なので、家に知らない人(半裸)がいたら悲鳴だってあげる。
あげるのは仕方ないじゃん。知らないだけで怖いのに、半裸、とか。
思い切り叫ぼうとした声は吐き出せず。
目の前の人の手で口を塞がれている。
こういう時の恐怖心って馬鹿にならない。
右手で口押さえて、左手で二の腕をつかむ。
「・・・えと、」
口を押さえる当の本人は、なぜか一番動揺してるみたいだった。私もしかして鍵開けっぱとかで、この人も家間違えたのかな。
「むーー!」
「叫びません?」
約束はできない。だから「むー!」とだけ唸る。それがばれたのか、一向に離す気配はない。
「・・・家には帰ったはずだ。でもあれは母さんが帰って・・・外・・・」
どうやら何か独り言を言っているようだった。でも変わらずに力は緩めてくれないので、少し苦しい。鼻から押さえられてたら私窒息死してる。不幸中の幸い。
「見つかったら・・・・・そしたら、音駒・・・あの1年が!」
最後いきなり声を張り上げた。そして少し黙ってから、バツが悪そうに手を離してくれた。
「ふはっ・・・」
「もしかして・・・俺を連れて帰りました?」
・・・はい?
ちょっとこの人意味わかんない。夢かな。
夢か、この人が寝ぼけてるのか。
「見ず知らずの人を・・・家には・・・入れない。」
「・・・たしかに。」
正論のはず!
叫ぶのはやめた。叫んだところで家には私とこの人しかいないし。逆上して刺されるかもしれない。いや、殴られるかも。
想像しただけで身震いしてしまった。
「とりあえず、布団から出てもらえませんか。」
「じゃあ何か服を貸してください裸なので。」
たしかに!
このまま出てもらったら見てはいけない何かまで見てしまうやも。わからないものはわからないままでいい。
あーぁ、つまりその見てはいけない何かが私の布団を汚したんだろう。死ねる。
「ひ、ひゃ、ひゃく」
「通報する前に襲いますよ。」
「じゅうきゅー」
無理だ、怖い殺される、死亡。親に死亡通知が届いて急いでお葬式して、 宇多川 秋 16歳 没。とかになるんだ。遺影はせめてツインテールにして、あえてね。
「119は救急車ですよ。」
残念だったな背後は俺が狙ってるから電話もかけられねえよ、ははは。
と目で言われてる気さえする。
お父さん、お母さん、私、先逝くね。
「お願いしてる身でなんですが寒いんで早くしてくれませんか、宇多川さん。」
「お父さんの取ってきます!!」
扉を全開にしたまま両親の寝室へ駆け込む。部屋は真ん前だからね。すぐ取れる。
くそ、2人の愛用してるペアもののハートにしてやろうか。あの半分しかないやつね。腕組むと2人でハート出来上がるやつね!
1人じゃ別れたみたいになるやつね!!
この間あった誘拐のニュースで、逃げ出す隙があったのに、怖くて動けなくて何年も共同生活してた話。恐怖心が勝るってやつ。
今まさにそれですね。急いで下に降りて電話すればいいのに、なんで素直に部屋に戻ってしまったのか。
というか。
「ねるなー!」
「ん?」
あろうことは全裸さんは布団に丸まりだした。その・・・やめてください。
「はい!これ!とりあえず!着てください!!!」
ベッドに音を立ててお父さんの寝間着を叩きつける。ああ、どうも。と短く返して彼は身体を起こす。そしてこちらを見る。
「今度は何ですか!」
「ここで着替えていいの?」
全裸だけど。
「まま待って今でるから!!!」
とんでもない、私がなんのために寝間着を持ってきたのか、見てはいけないものを見ないためだ!
うやむやはうやむやのままにしておこうよ!私お年頃!きっと彼もお年頃!
ていうか着替えはどれくらい待てばいいのかな?あえてらぶりーん、な猫さんにしたぞ、困れ困れ!
「おわりましたー?」
だから、今通報すればいいのに、いちいちきゅう。はい、と短い返事があったので、一応ノックしたのちに扉を開く。
自分の家で、自分の部屋をノックする、なんて今まであっただろうか。
「・・・ねこ。」
昨日の猫さんより100倍かわいい猫さんパジャマだぞ!(失礼)
っていうか猫さん!
「あの!そこに猫いませんか?!」
「・・・ねこ。」
この人変だな・・・。ねこパジャマをガン見してる。もしかして、気に入った?まさかね。
「・・・ねこって、茶トラ?」
「茶トラ?」
「茶色と黒で、おでこにMみたいなマーク付いてなかった?」
「・・・あぁ。」
そう言われてみればそうだな。痩せたら絶対にかわいい。茶色というか黄土色?毛並みもふわふわだったな。ただめちゃくちゃ重たかったけど。
「そう、ですね。」
「・・・ふーん。」
いや、ふーんじゃなくて。
布団をご丁寧にたたんでくれたけど、どこを見ても猫がいるらしい形跡はない。膨らみもない。もしかして、ベッドの下とかタンスの上かな?そう思って上を見てもかがんで見ても、らしきものはいない。そもそもあのビッグサイズが入る隙間もない。
部屋は鍵だって閉めてるし、出れるはずがない。ドアノブだもの。
「昨日一緒に寝てたんです、猫さん。」
ちっちっちっちっ、と舌を鳴らしてみても、何も聞こえないし気配も感じない。
・・・ん?そもそも鍵を閉めているならこの人は入ってこれないよな。玄関通過だけならまだしも。
それよりさっき宇多川さんって言わなかったか?初めましてだよな。
「あ。」
生徒手帳、ツインテールのくだりが不服すぎて持って寝たんだ。開いてな。
トサカ先輩に何張り合ってるんだか。
だから、名前見えちゃったのか、仕方ない。
それよりも今はあのビッグ猫さん。
やはり見渡してもいない。
「俺。」
目の前の彼が口を開く。
その一言は短すぎたので、いったい何を指してるのか全くわからなかった。
とりあえず目線だけを送れば、またがっちりと目が合う。
そして飄々と言ってのける。
「その猫・・・俺です。」
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