ねことわたし | ナノ

とどのつまり、恋煩い





手首を掴んだまま、足早に前を歩く彼。
握られた力は強いまま。
振り払うこともできないまま。

「・・・・」
「・・・・」

会話などない。

もうすぐ家に着く。

「・・・ごめん。」

前を向いたまま、赤葦くんが言った。
それでも何も言い返せなかった。
引っ張られるがままに歩く。

「宇多川さんと山中、お似合いかもね。」

赤葦くんはそれだけ言った。
もう何度目かもわからない胸の痛みを感じる。
山中先輩じゃない。
そこは山中先輩じゃないんだ。

どうしてそういうことを言うの?
山中先輩と付き合えってことなの?

「きちんとお断りしようと思ったんだよ。」
「え?」
「山中先輩に、・・・彼氏いるから、付き合えないって、」

一回喋ったぐらいの人。
好きになんてならないよ。
好きだ、って思えるタイミングも、出来事もなかったじゃない。

「元に戻ったら・・・付き合えばいいじゃん。」
「そんな簡単に言わないでよ!」

赤葦くんの手を振りほどく。

「断れだの付き合えだの!意味わかんない!」

人目など気にしていられない。
今朝同様にまた怒鳴る。
私はそんなに都合よく立ち回れない。
確かにその場の流れで、付き合っていることになっているけど。

知ってしまった。
好きだということ。
隠す事は出来ても、なかったことには出来ない。

今、目の前にいるこの人が、
好きで、
好きになって欲しくて、
好きだと伝えたくて、
もやもやして。

偽りだとわかっていても、

「今は彼氏だって言ったの赤葦くんじゃん!」
「言ったね。」
「終わるまではしっかり話し合わせてよ!」

こんなこと言っても仕方ないのに。
赤葦くんに言ったって、困るだけなのに。

「・・・わかった。」

彼が言った。

「終わるまではね。」

彼の言葉一つ一つが、痛くて。
止まったはずなのに涙がまた溢れて。
壊れた蛇口みたいに、止まらない。

ハンカチを差し出してくる。
それを受け取らずに、ブレザーの袖で拭う。

「お願いだから泣かないで。」
「っ」

肩を掴まれ、ハンカチを目に押し付けられる。ぎこちない手つきで、でも優しく目に押さえつける。

「ふっ・・・」

優しいのが赤葦くん。
最初からずっと。
今に始まった事じゃないのに、
胸が苦しくて、
涙が止まらなくて。

「ごめ・・っなさ、」

その場しのぎで付き合ってると言ったのだって赤葦くん。途中で投げ出す人ではないだろう。
だから、終わるまではきっと、優しい人のままなんだ。

ハンカチを抑えている手ごと掴んだ。
開いた片方の手が、頭を撫でるのがわかる。
彼は言った責任から、優しくしているのだ。勘違いしてはいけない。
それでも、願わくば、本物の恋人に、なりたいと思った。
口裏だけを合わせとけばいいのに、誰もいないとこでも恋人を演じている。
彼に負担をかけている。
こんなことよりももっと、彼は違うことで悩んでいるのに。

「明日、・・・ちゃんと言うから。」
「何を?」
「私が悪い、って。・・・赤葦くん、悪くない・・・っのに、」

このままでは、きっと赤葦くんが悪い、と認識されてしまう。これ以上、彼に迷惑はかけられない。

「別にいいよ。」
「え、」
「山中さんにどう思われても、別に気になんないし。」

私が一方的に困らせているのに、最後まで優しい人。
赤葦くんは手を解いて引き寄せてくる。
彼の腕の中に埋まる。
強く抱きしめられる。

「っあかあ、」
「でもさっき言ったことは嘘じゃないよ」

耳元で言われる。
さっき、言ったこと。

「・・・嘘。」
「嘘じゃないから。」

抱きしめられる力が強くなる。

「これ以上悲しむ顔見たくないから。」

嘘じゃ、ないから。
繰り返し、そう言った。







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