ねことわたし | ナノ

決して交わる事はない





バカみたいに晴れていた。
私の心とは真逆で。

「おはよう。」
「ん。」

制服も着た。ご飯も机に置いた。
荷物もまとめた。

鑑に映った顔が、ブサイクだった。
目が腫れて、疲れた顔してクマがあった。

「・・・あのさ、」
「ご飯置いといた。」
「ありがとう、」

鞄のチャックを閉める。

「今日はえっちゃんのとこ泊まるから。鍵、置いとくから、使って。」
「え」

何か言いたそうな彼を無視して玄関へ向かう。

「ちょっと待ってよ。」
「私今日委員会だから先行くね。」

顔を見ないで言う。
話しかけないで。
声には出さないけど態度で示す。

「ねえ、待ってってば。」

また腕を掴まれる。
振り払う力はない。

「俺、何かした?」

困った顔をしているのだろう。
掴まれた力も強くはない。

「昨日のことは忘れて?」

忘れて?
無理な話。
やけくそに告白した。

「何で泣いてたのか、教えてよ。」
「なんで?」

あんなに大きい声で言ったのに?
もう一回言わせるの?
もう一回言わせて、面と向かって振られるの?

「・・・言ったじゃん。」

この距離で。
呑気に顔洗って。

「あのあと、俺に何か言った?」
「言ったじゃん!」

八つ当たりみたいに怒鳴る。
少し涙目になってしまったが、ぐっと堪えた。あんなに大きい声で、言ったじゃん。

「何も聞きたくないって、一方的に否定したじゃん。」
「そのあとに言った!」

まるで駄々をこねる子供のようだ。やはり滑稽。

「お願いだから教えてよ。」
「・・・覚えてないの?」

そうやって彼を見たが、困り顔のままだった。最近の彼ならそこで笑って「聞いてた」とか言うのに。

「昨日のことはわかんない。」

聞きたくない言葉だった。
いつもは掘り返して来るくせに、わからない、の一言で解決させないで。

そんな簡単な感情じゃない。

「俺のせいだったら謝るから。
ごめん。昨日はハムになった後の記憶がない。」

手を離して申し訳なさそうに彼は言った。だとしたら彼は悪くないのに。
悪くないのに。
涙が抑えられない。

「・・・もういいから。」

それだけ言うのがやっとだった。
何がもういいのだろうか。
堂々と振ってください?
そうじゃない。

「困らせたね、ごめんね赤葦くん。」
「秋」

名前で呼ばないで。
痛いから。
なんて言えるわけもなく。
彼の制止を遮って、全速力で家を出た。








・  ・  ・





授業に集中できるわけがない。
前にもこんなことあった気がする。

ただなんとなくメモして、片付けて。
ご飯食べて。
今日も1日が終わってしまった。

泊めてもらおうと思っていたえっちゃんは、悲しいことに風邪でお休み。

他にこれといって親しい友人もいない。
ダメ元で泊めてとも言えない。
休むくらいの風邪なんだもの。

委員会なんて入っていないし。
鍵は渡してしまったし。

行き詰まる、とはこういう事だろうか。
おばあちゃん家泊まろうかな?
県内だし。1時間あればつく。

そう思い、携帯で時間を確認する。

不在着信8件
新着メール6件


赤葦京治

携帯が鳴るたびに、指が動いたけど、それが通話ボタンを押すことはなかった。ギリギリで止まっては、すぐに携帯をしまった。
残量が10%しかない。
後何回着信来たら電池切れるかな?

あんなあからさまな態度とって、これからどうしよう。
どんな顔して会えばいい?話せばいい?
明日も、明後日も。
・・・ううん。
今日、終わるかもしれないじゃない。
今日、戻るかもしれない。
「宇多川さん、今までありがとう。」
って終わるかもしれない。
そしたらまた1人で、家族の帰りを待つ。
料理をして、片付けて。
戸締りして、掃除して。
音のない空間で。1人、で。

「どうしちゃったんだろ、私。」

朝も泣いたのに。
昨日だって大泣きしたのに。
鼻をすする。
誰かに見られたら面倒だ。
おばあちゃんには公衆電話からかけよう。

下駄箱で靴を履き替え、慌てて出る。
今から行ったら6時過ぎくらいにはつく。

おばあちゃん、いるといいけど。

「ねえ、校門にいる人見た?」
「見た見た!あれ私立のとこだよね?」
「ちょーかっこよかった!私ああいう人タイプなんだよね!」

ロードワーク中だったであろう運動部の人とすれ違う。
部活か。私も何かやればよかったな。

「・・・え。」
「・・・。」

校門に差し掛かったところで、先ほど話題にでていた人物と目が合う。
今朝私が一方的に怒鳴った相手だった。
向こうも私に気づいていたが、何も言ってはこなかった。

通り過ぎようと足を速める。
案の定、待ってと腕を掴まれた。

また振り解こうと力を込めたけどやめる。
平常心平常心。

「誰かに用事?黒尾先輩?えっちゃん?」

笑顔で聞いたつもりだけど、赤葦くんの顔は不服そうだった。

「今日野本休みらしいじゃん。」
「そうだね。風邪みたい。」

それだけ答えて無言になる。
すれ違う音駒生はチラチラこちらを見ている。でも今はどうでもいい。

「なんで避けるの?」


ストレートに言われたその言葉に、なんて返せばいいのか戸惑ってしまう。
好きになっちゃったからだよ。
・・・言えるわけがない。

「俺、普通の人間だから。超能力者じゃないから。読心術とかないから。言ってくれないとわからない。」
「いっ、」

掴んでいる力が強くなるのがわかる。
腕が逃げようと動いたけど、耐える。

「話聞かないで一方的に聞きたくない、なんて言われても困る。」

彼が言っていることはわかるのに。それでももう一度言う気持ちにはなれない。
そこまで精神面が丈夫じゃない。

「教えてよ・・・宇多川さん。」

否定したのは自分なのに、いざ苗字で呼ばれて戸惑ってしまう。

「・・・名前で呼ぶなって言ったから。」

言いたいことがわかったのか、先に答えてくれる。
痛い。・・・痛いよ。

「そう、だね。」

私から、言ったから。
関係なんて、簡単に壊れてしまうんだ。
わかっているのに、涙が溢れる。

「・・・泣かないでよ。」
「・・・め、なさい。」

ごめんなさい。
私の一方的な感情で、彼を困らせている。

「宇多川さん?」

たとえ目の前に、少し前に話題になった相手が現れても、涙を止めることなどできない。

「・・っ、山中、先輩。」

少し息を切らした、山中先輩が来ても、隠せない。

「・・・あんたが山中ですか。」
「え?・・・そうだけど。」

山中先輩が、私と赤葦くんを交互に見る。

「よくわからないけど、女の子を泣かせるのは良くないよ。」
「あんたには関係ないことだと思いますけど。」

敵意なんて隠さないで、赤葦くんは山中先輩に言う。

「後輩が泣いてるのに、関係ないことはないよ。手、離しなよ。」
「あとから現れて、正義のヒーロー気取りですか。」
「は?そんなんじゃないよ。」

赤葦くんの力が強まる。

「痛いよ、赤葦くん。」
「痛がってるよ。」
「わかってます。」

そう答えるわりには、力は緩まらない。痛くなる一方だった。

「宇多川さん痛がってるから離せよ。」
「うるさいな。」

赤葦くんが山中先輩を睨みつける。
山中先輩も、少し怒った顔をしていた。

「君、宇多川さんの何?」

赤葦くんの手を離そうと、山中先輩は彼の腕を掴みながら言った。
けれど、赤葦くんは離す気配がない。
山中先輩の問いに、一度私の方を見た。

「彼氏ですけど?」

今度は山中先輩が黙ってしまう。
そして私の方を見たけれど、私は目を見れずにそらしてしまった。

「・・・彼氏なら悲しむようなことするなよ」

そう言って、山中先輩は手を離す。

「そういうことなので、この子の事は諦めてもらえませんか。」

赤葦くんはそう言いながら、力を緩めてくれた。赤葦くんの言葉に、山中先輩は「ああ、」と声を漏らす。

「でも、宇多川さんが告白に戸惑ったってことは、少しでも君との関係に迷いがあるんじゃないの?」
「言いますね。」

2人がこちらを見ているのがなんとなくわかる。見つめ返すこともできず、下を向いたまま何も言えない。

「君と彼女の関係性はわからないけど、少なくとも今の状態では幸せそうには見えないよ。」

宇多川さん。
山中先輩に指摘され、つい肩を揺らしてしまう。だめだ。第三者にまで、迷惑はかけられない。

「それはあなたの偏見ですよ。山中さん。」
「そうかな?少なくとも、俺は好きな人、泣かせないけど。」
「へぇ?」

空気が重くなるのを感じる。
止めなければ。全て私が原因なのだから。
その場ですぐ、「彼氏がいる」と断らなかった私が悪いのだ。

・・・彼氏?
偽りの彼氏。
好きな人がいるのに、訳ありで付き合っている、彼氏。

「痴話喧嘩に、口挟まないでくれませんかね。」
「たとえ好きな人に恋人がいても、不幸せなら、ぶん取るよ、俺は。」
「嫌な男ですね、それは。」
「結果的に彼女を救えるんだったら、悪者になっても別に構わない。」

繰り広げられる会話を、止めることが出来ない。私が悪い。悪いのに。
いい人であろう山中先輩を、まるで悪者にしてしまうみたいで。

「や、山中先輩、すみません。」
「宇多川さん。」

手で涙を拭きながら、山中先輩に言う。
それでもやはり山中先輩は困った顔をしていて、罪悪感だけが募る。

山中先輩が、何か言いたそうな顔で手を出して来た。それを赤葦くんが振り払う。

「だから、やめてもらえませんかね?」

驚いた顔で山中先輩は手を引っ込めた。
そして赤葦くんと私を交互に見る。

「独占欲は醜いだけだよ、彼氏君。」

そう言って、山中先輩は頭を掻く。
赤葦くんの力がまた強くなる。

「急いでるんで。」

それだけ短く答えて、腕を引かれる。
よろけて倒れそうになったのを、もう片方の手で支えてくれた。

「一つだけ聞いてもいいかな?」
「なんですか。」
「好きなんだよね?」

会話が交わされない私たちを見兼ねてなのか、控えめに山中先輩は聞いて来た。
その問いに、赤葦君は間を空けることもなく、

「好きですけど?」

と答えた。
偽りの発言に、
胸が苦しくなった。








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