嫉妬、願望、感情
「赤葦さぁ、いい加減にしろよ」
朝一で木葉さんに言われた言葉。
電車の中でぼーっと外を眺めていたら、後ろから膝カックンのおまけ付き。
声こそは出なかったが、多分不審者を見る目で睨んでしまった。
「何がですか?」
「何が?じゃねーよ!木兎見たか?魂抜けた顔してんじゃんか!」
・・ああ。
最近構ってなさすぎた。いつもの目が点モードになってる。
トスを上げれば調子をあげるが、居残りは一切。そこは仕方ない。仕方ないのだ今の体質だと。
一体あれからどれくらい経ったのか。
「まあ、俺にもいろいろあるんですよ。」
すみません、と謝罪を一つ。
それに対して目の前の先輩は深いため息を吐く。
「いろいろって、どうせ秋ちゃんだろ?彼女大好きなのはわかるけど。」
木葉さんは呆れたように首を振る。
おいおい待てよ。
「はい?」
「いちゃつくのはいいけど、部活はちゃんとしてくれ。」
いちゃつく、だぁ?なにふざけたこと言ってんだよ。
「今なんて言いました?」
「はぁ?だからいちゃつくのはいいけど、」
「その前ですよ。」
間髪入れずに告げる。
木葉さんは面食らった顔でえ、と唸る。
「彼女大好きなのはわかるけど。」
「ちげえよその前だよ。」
「こ・・・こえーよ赤葦。」
「いいからその前ですよ。」
「は、はぁ?どうせ秋ちゃん・・・だろ?」
秋ちゃん、ね。秋ちゃん。
なに名前で呼んでるんだよ。
会話したことないだろうが。
「宇多川・・・別にいちゃついてませんから。」
彼女なんかじゃないし。
仮の。・・・仮だ。
猫になる間だけ。
本人も言っていたじゃないか。
「何、赤葦、秋ちゃんと喧嘩中なの?」
「宇多川さんですか?そうですね、絶好調ですけど?」
「なら好調な顔しろよ。」
少し引いた顔をしている木葉さん。
好調も好調。
先輩に告白された?だ?
『彼氏がいるので無理です』
簡単な言葉だろうが。なに連絡先もらってんだよ。
ポケットに入れたメモを握りつぶす。
「いや、でもさ、秋ちゃん可愛い顔してたよな。赤葦も隅に置けねーな。」
「そうですね。秋・・・宇多川さん、モテるみたいで。」
「赤葦なんか機嫌悪い?」
木葉さんの問いに、口角だけを上げる。
「べつに絶好調ですよ。」
「お前なんでも絶好調つければいいと思ってんだろ。」
木葉さんはまたため息をついた。
「宇多川さんな、宇多川さん。名前で呼んで悪かったよ。」
確かに少し苛立ったが、改めて言われると返す言葉が浮かばない。
名前ごときでムキになるなんて、多分まだ熱が冷めてない。そう。病み上がりだし。
「でもさ赤葦。」
「はい。」
呼ばれて返事をすれば、木葉さんはじっと見つめてきた。
「・・・なんですか。」
「いや、赤葦かっこいいんだから、そんな彼女束縛しなくても大丈夫だろ。」
「・・・はい?」
束縛?俺が?
・・・誰を?
「無自覚かよ。」
「すみません木葉さん、俺日本語以外わからないです。」
「日本語だよ!」
木葉さんの、こいつ大丈夫か?と言いたげな目は今は忘れよう。
「お前モテんだからさ、そんな心配しなくても秋ちゃんもぞっこんだろうよ。」
ぞっこんとかどんだけ死語だよ。
口でそう言おうとしたが、木葉さんは満足そうに肩を叩いて来た。
「ちょっと嬉しそうじゃん。」
「そんなことありません。」
満足そうな先輩に言い返したが、はいはい、とあしらわれた。
・・・くそ。
・・・そんなんじゃない。
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