この感情を、まだ知らない
今の自分に言ってやりたいこと。
その1、よく、風邪がうつらなかった。
その2、今日はきちんと買い物に行こう。
その3、不自然に赤葦くんを避けない。
何度も頭に浮かべた今日はそう、月曜日。
授業に集中してなかったので先生に呼び出されました。今解放されましたよ。
宇多川休み明けだから浮かれてるのかー?とか言われたけどそんなまさか。
しかしあの先生は、話脱線しまくるからね。30分くらいかと思ったらもう部活組が帰る時間だよ。
大丈夫かな。ご飯。
「あの、宇多川さん。」
下駄箱で靴を履き替えていれば、後ろから見慣れない男子生徒に声をかけられる。
「はい?」
名前も知らない男子生徒は、私に頭を下げた。
・ ・ ・
「ごめんね。赤葦くん。時間なくて簡単なものしかできなかった。」
「そんなことないよ。ありがとう。」
病み上がりだから、しっかりしたものを作りたかったのだが、時間が足りなかった。
「・・・先、部屋戻るね。」
「・・・うん。」
それだけ言って、部屋に戻る。
ちょっと冷たかっただろうか。
放課後のあの男子は、山中先輩、という人だった。どうやら図書委員の人で、何度か私を見たことがあるみたいだ。
確かに、家は騒がしいから、よくテスト勉強しに行ってる。
好きです、となんとも簡潔に先輩は言った。
最初はピンとこなかったし、まず私消しかすだから、こういうの初めてだった。
告白担当はえっちゃんだし。えっちゃんに接触したい人たちばかり来てたから、「あ、野上さんのことですか?」と確認を取った。
「野上さん?って子は知らないなぁ。宇多川さんしか見てなかったし。」
言うならば爽やか系男子。
この段階でドキッとしてしまったのは、自分を見てくれる人がいることが初めてだったから。
でも人を、好意的に、恋愛対象で好きになったことなかったから、お断りしたけど。
それでも友達からでいい、と押され、連絡先を渡された。机に置いて考える。
好きな、人。か。
恋愛漫画やドラマ、小説。たくさん読んだしたくさん見た。胸がドキドキして、その人をいつも考えてしまう。笑った顔が見たい、とか、もっと話したい、とかそういうやつだ。
どきどき、か。
「・・・赤葦くん?」
いやいやいや。
何言ってるんだ、自分は。呟いたと同時に昨日のことを思い出す。あの顔に、あの言葉は反則だ。また、自分の顔が赤くなったのがわかった。
「呼んだ?」
「うわっ?!びっくりした!」
「一応声かけたよ。」
突然後ろに立っていた赤葦くんにオーバーなほどに驚いてしまった。赤葦くんは片眉を上げた。
「それなに?」
そして指差したのは山中先輩の連絡先。山中
健吾。3-5。図書委員、サッカー部。今知ってる情報がそんな感じ。
多分夜久先輩と仲良い。偏見。
「え、あ・・・えと。」
とっさに隠してしまう。それに対して不審がる顔で赤葦くんは見ている。
「彼氏?」
「いやいやそんな。」
「だよね。」
思いの外早い返答に少したじろぐ。いやいないけど、だよね、は無くないか。お前みたいな消しカスがモテるわけないだろ、笑みたいな。
なんて素直な男なんだ、ちょっと傷つく。
「一個上の先輩で・・・今日、告白された。」
謎に意地張りたくて素直に言った。私だって彼氏いなくても告白はされるんだから!初めてだけど。
「・・・ふーん。」
けれど目の前に立つ男の反応は冷たかった。
それどころか、見下ろしたままだ。
口角を上げて少し笑ってみせるも、ピクリとも表情を動かさない。
超怖い。
「お・・・怒ってる?」
「なんで?」
「え・・・」
その反応が怖いからだよ!顔が怖いんだよ!とは言えず、ただ見つめることしかできない。
「で。その告白どうするの。」
「どうするって・・・」
お断りしたし。
「メモまでもらってさ。返事するの?」
「し、しないよ!知らない人だし。」
「そうじゃないでしょ。」
だ、だから絶対怒ってるよね?!赤葦くん。目が!本当に目が怖いんですが!!
えっちゃーん!助けてえええ!!
「と、友達からでも、って、いわ」
「今彼氏俺でしょ。」
「い、一応、ね。」
「一応?」
何か不満があったのか、眉を上げたまま一歩近づく。咄嗟に後ずさろうとしたが、今座ってるし、目の前は机なので、動けない。
「だって・・・猫になる間、だけだし。」
「・・・そうだね。そうだとしても。今は彼氏俺なんだから。そういうの断らないと、バレるよ。」
バレー部に。
瞬間ひやりとした。嘘ついた挙句に、わたしが尻軽女だと思われる!
「それは困る!」
「・・・にゃー。」
・・・タイミング。考えてください。
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