ねことわたし | ナノ

熱ならばさまして




「なんかちょっと汚された気分。」

ずずっ、と鼻をすすりながら、天パ(多分)おかゆ野郎は呟いた。
結局あの後しばらくあの状態だった。おかゆ野郎が寝落ちしたから。
もう大変だったんだから。
きうさぎさんから電話かかってきて、代わりに電話出たら超盛り上がっちゃってて。
近くにあったからね、携帯。て言うか枕元。いや、私の耳の下。てれれっててって煩いの鼓膜破けるかと思った。あの体制で取れた私神。

『え?!何?!あかーし風邪?!寝てんの?!つか彼女ちゃん家なわけ?!やべぇな!彼女ちゃん名前は?違う違う下の名前!え?秋?わかった秋!あかーし休みな?!明日は来れるかどうかも後で連絡くれな?!で!秋!あかーしどうよ?!インフル?!え?!そこまでじゃない?!寝てんの?!まじかよ!看病?!おう!頼むな!で!秋!あかーし好き?!まじか!ラブラブだな!ヘイヘーイ!今度顔出せよ一緒に!へ?!なんで?そりゃあ可愛い後輩の彼女だからだろ!え?!何?煩い?!わりーわりー!で!秋!いつからry』

思い出しただけで舌打ちしそう。きうさぎ煩い。・・・きうさぎだっけ?名前。まあそれはどうでもいい。
問題はこのおかゆ野郎、静かに目を覚ましたと思ったら、敬語で「何やってるんですか?」ときた。いやお前さんだからまじで。

そんでとりあえず何も言わずに部屋から出て体温計投げつけた。んでおかゆ作って持ってきた。

「これ食べたら寝る。わかった?」
「部活。」
「部活は行かない!熱あるんだから!悪化するし他の人にも移るでしょ!」

おかゆも食べれなかったらどうしよう、と思ってもってきたりんごは不要みたいだ。
ちゃんとご飯食べれてるし、会話も成立している。

「ところで宇多川さんは何をしてたの?」
「はい?!あれは赤葦くんからっ!」

途中まで言いかけて思い出す。また顔が熱くなるのがわかる。名前、で、呼ぶのは・・・ずるい。

「そ、それより赤葦くんこそ、なんで半分服着てたの?」
「まるで俺が全裸を好むみたいな言い方だね。」
「全っ・・・!」
「一回起きて力尽きた。」

赤葦くんはそう答えて黙々とおかゆを食べる。着替える途中、膝とかで力尽きなくてよかったね。
本当。
大人なシーンにならなくてよかったよ。
まだ顔赤いもん。
よくもまぁ、すやすや寝れましたよね、本当に。

「吐き気とかはない?」
「ん。」
「服変える?お父さんのでよければ持ってくるよ。」
「大丈夫。」

粉末タイプと錠剤タイプの薬と、水を横に置く。ベッドの横に台があってよかった。冷えピタも、氷枕も用意した。
一旦家に帰ってもらうのが良いかもしれないけど、目眩がするくらいには熱があるだろうから、ここで寝てもらおう。

「ごめん。」
「なにがー?」

部屋の換気をしようと窓を少し開ければ、申し訳なさそうに彼は言った。

「今日、日曜日なのに。予定とかあったんじゃないの?」
「大丈夫だよ。掃除して買い物行こうかな、くらいだったし。」

そう。と赤葦くんは答えて、残りのおかゆを食べた。

「それに風邪の時って、1人だとさみしくない?」

専業主婦の母、小説家の父。どちらもいつも家にいるから、1人になることなんてなかったけど。世界旅行に行って数ヶ月。誰もいない家。いつもは騒がしい家。おはようもおやすみもない。行ってきますもただいまも。返事のない言葉。当たり前がなくなる寂しさ。

この間、熱が出た。
いつもは慌てふためく母に、自分が泣いてしまう父。これほどに、寂しいと思ったことはないだろう。

「・・・そうだね。」

改めて自分が愛されているんだな、と実感する。早く会いたいな。電話しちゃおうかな。

「ちょっときて。宇多川さん。」

でもせっかくの2人きりを邪魔したら悪いかな。ごちそうさま、と両手を合わせた赤葦くんの隣へ行く。

「どうしたの?気持ちわるい?」

なんて体調の心配をしたのに、彼はなぜか頭に手を置きだした。

「・・・え?」
「いいこだね。」

体調のことは関係無しに、彼は頭を撫でてきた。その手つきが異様に優しくて、なにも言い返せなくなる。

「ど・・え?ど、どうしたの?」
「宇多川さんは優しい。」
「え?いやいやいや。」

熱のせい。
赤葦くん熱があるから。変なことしてるんだ。明日になったら「俺が?そんなことした?」とか不思議な顔で聞いてくるんだ。
わかっているのに下を向いてしまう。

「赤葦くん・・今日変だよ。」
「・・・そうだね。」
「・・・熱のせい、だよ。」
「うん。」

熱のせい。
赤葦くんはそう繰り返して、優しく頭を撫でた。

熱の、せい。







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