ねことわたし | ナノ

カレシくんと大親友


「気になる人、いないっていったよね?」
「・・・えへへ」

みなさまこんにちは。
本日はお日柄も良く、絶好の洗濯日和です。
できませんでした。

「昨日のあれ。赤葦だよね?」
「・・・うん。」

授業も終わり、今日は牛丼を作ろう!という私の細やかな楽しみは打ち砕かれた。この、大、親、友によって。

いつも通りの授業を受けて、いつも通りのご飯を食べて、いつも通りに帰るところだったのに、えっちゃんに手を掴まれた。すっげえ痛いの。
「ちょっと付き合いなさい?」と笑顔で言われたけど、これ、絶対零度の笑みだったから。はひ、とか情けなく返事したよ。
要件なんて分かってたし、逃げられないのもわかってる。

いや!そもそもに言った本人は途中で猫になっちゃったからね?!なんのフォローもなく!結局鞄と服持ったよ!
鞄1つじゃなかったからとても重たかった。
で、今朝は今朝で、何も言われず、「じゃあ」の一言。淡白。
せめて口裏合わせるとかさ?!だって絶対絡まれると思ったもん、現に大正解。

「付き合ってるんだ?赤葦と。」
「・・・へへ」

もうね、なんだろう。
えっちゃん獲物を狩る目なんだよ。
なんだっけ、ハブに睨まれたカエル?ま、そんなん。

「私にはまだ早いー。とか言ってたよな?」
「えっちゃん口悪いよ。」

ちなみにここな、体育館。
すでに何人か来て、準備している。

野上様や、あなたマネージャーなんだから、仕事しなさいな。

「いつから付き合ってんの?」
「えー、うーん。・・・付き合おうって言われた日・・・から?」
「は?」

すっげえ怖いんですけど、豆腐メンタルだから死ぬんですけど、ほんと。
えっちゃん立ってて私正座なんだけどね?スカートじゃん、体育館冷たい。
そんでもって、視界の端でリエーフがこっちに走りそうなのを、小さいのと大きいのが抑えてんの。1年生かなー?
見せ物じゃない。本当に。

「赤葦のどこがいいの?」
「え?どこが?」

どこがいいって、

「どこだろうね。」
「聞いてんのこっちなんだけど・・・。」

えっちゃんの声はいつもの3倍は低い。これは本気で怒っている。の、だけれど。
そこまで怒られる理由がわからない。

付き合っている(らしい)のを隠していたから?

いや、まぁ、そりゃあ、私もえっちゃんが誰かとお付き合いしてるのに黙ってたら、「言えよう!」ってなるけど。「言えYO!」とかめっちゃ軽くくらいだよ。
それなのにこの子ってば。人1人殺しそう(失礼)な目をして!
そんな子と親友組んだ覚えありません!
好きな人取られたような目して!
好きな人・・・取られ・・・

「えっちゃん!!!」
「な、なによ。」

そっか。なんで気づかなかったんだろう。そうだよね。
赤葦くんを知っているのだから、面識あるんだろうな。バレー部だし?練習試合とか?
そうやってこつこつとお話しして距離を縮めてきたのに、わ、私という邪魔が入った・・・と。
それはそれはとても申し訳ない。
横取りしたのね。

「ごめんね!大親友なのに全く気づかなくて!!」
「え、なに」
「うんうん。すらっとした体型してるし、力持ちだし、なかなか優しいし!」

ケーキ奢ってくれるし、お皿まで洗ってくれてさ。おまけにベッドで寝かせてるのにポジション変わってるし。

「なにか勘違いしてない?秋。」
「なんでだろう。」

何故わざわざ寝る場所を取り替えてるのか。・・まさか!
下で寝てたのに移動させて、わたしが混乱する姿を見て楽しんでいるのか!!
性格悪いな!!

「聞いてる?秋」
「んあ?きいてるきいてる」

危ない危ない。
仮にもえっちゃんの好きな人。悪く考えてはいけない。

「えっちゃんが思ってるような仲じゃないよ、私達。」
「・・・え?」
「それならそうと言ってよね!えっちゃん。」
「だからなにが」
「赤葦くんのこと好きだったんだね!!」

親指を立てて笑顔で告げる。
想像以上に声が響き、静まり返る体育館。
目の前の大親友はこれ以上に無いほど冷めきった顔だった。
わたし今死んだ、って心の中で呟いたもんね。宇多川 秋 16歳 没。
・・・あれ?なんかデジャブるような。

「お前は馬鹿か?」
「え」

えっちゃんがこめかみに指を当てながら、睨みつけてくる。鬼怖い。

「あたしが?赤葦?赤葦のどこがいいの?ちょっと理解できないわ。」
「えぇ・・・」

私の両腕を掴むえっちゃんの力は笑えないほどに痛い。そのまま二の腕ちぎられそうだ。わあ!二の腕だけスリムになっちゃった!ってアホか。

ふ、普通だったら「だ、誰が赤葦なんか!ばっかじゃないの?!」って真っ赤になるんじゃないの?これって、「私の方が赤葦と仲よかったんだからね!自惚れないでよね!ブス!」ってやつじゃないの?

「あ、あ、赤葦くんのこと、好きで、私が取っちゃったから・・・」
「そんなわけないでしょ!?あんなののどこがいいの?!趣味悪!」
「えぇ・・」

宇多川もうわかりませぬ。
赤葦くんってなに、性格悪いの?え?私そんな人泊めてるの?
ほらな、やっぱりだ。窓割る気だ。

「よっしゃぁー!やるぜー!試合ー!」

赤葦くんにショックを感じていると、ドアの方から銀髪の人が入ってくる。髪型すげえな。
それよりも見たことのないジャージ。

「っておお!!!マネちゃん増えてる!」

4番さんはそう言って、オーバーなほど驚いている。その後ろには見たことある顔・・・。

「え」
「おやぁー?赤葦の彼女の宇多川ちゃんじゃない?何々?試合見学?お熱いねえー。」
「ころ・・・違いますよ!」

この、一個上の、先輩、本当、ムカつく。

「お前今殺すって言おうとしたろ?」
「いえいえ。まさか。」
「なに?!あかーし彼女出来たの?!聞いてねーんだけど!」
「まぁ言ってませんからね。」

あ か あ し く ん !!
4番さんの横から赤葦くんが冷静に答える。そして目が合った。これが、梟谷のユニフォームかぁ。ってそこじゃない。

「なんで赤葦くんがいるの?」
「いや、・・・、秋、こそなんでいるの。」

名前を呼ばれて妙に胸が高鳴る。
昨日付き合ってます宣言をしてしまったのだから、名前呼びを続けているのだとわかっていても、照れる。
私もそうだが、赤葦くんもこんなとこで出くわすなんて思ってもみなかったんだろうな。
少し、バツが悪そうだった。

「へーい、あかーしの彼女ー!俺木兎光太郎、あかーしの素晴らしーい先輩だ!」
「はいはい木兎は素晴らしいよ、俺は尊敬に値する先輩、木葉秋紀。」
「言ってろ言ってろ。俺はなりたい先輩No.1小見春樹、よろしくな。」
「なに言ってるんですか先輩方。」

・・・濃いな、梟谷。
どうも、と短く答える。
そういえば試合って言ってたけど、練習試合?えっちゃんに目をやれば、何故か睨まれる。

「・・・鬼」
「はぁ?!」
「な、なんでもないよ!」

めっちゃ怖い。機嫌悪すぎ。
とりあえず前にいた梟谷軍団がいなくなったことに安堵し、壁側による。

プリンの人がちょっとびっくりして離れてった。なんかすみません。っていうか、この人一年の時に突然金髪にしてきて目立った人だよね。・・・たしか

「けんま」
「・・・なに」
「あ、・・・いや、ごめんなさい。」

名前は合ってたけどすごく嫌そうな顔された。っていうか耳良いな。ちょっと離れてたじゃん。

「孤爪は名前呼びするんだね。」
「いや、たまたま。って赤葦くん!」

いつの間にかやってきた赤葦くんが、小さい声で告げた。

「昨日といいごめんね。」
「え?」
「しばらく付き合ってる程で話し合わせてくれる?」

困ったように言われると、断れなくなる。
わかった、と短く返事をした。

「で、赤葦。秋のどこが好きなわけ?」
「えっちゃん・・・」

えっちゃんが喧嘩腰で赤葦くんに聞く。赤葦くんはさっきの困った顔などなかったように冷静ないつもの顔をした。

「可愛いじゃん。」
「は?!」
「それは大前提でしょうが!こんな珍獣みたいに可愛いの秋以外いないでしょ?!」
「珍獣・・・?」

えっちゃん今なんて言った・・・?

「っ。珍獣みたいで可愛いじゃん?」
「・・・赤葦くん」

吹き出しながらこっち見て言わないでよ。なんで珍獣。

「ちょっと、復唱しろなんて言ってないでしょ!」
「料理が上手で気配りできるとこ。」

珍獣はないと思うんだよね、珍獣は。人間だし、私。珍人?いやいや、そもそも別に珍しくないもん。普通だもん。

「あんたなに!もう秋の手料理まで食べたの?!」
「家が近いし、ご馳走にはなってるけど。」

そうだよ、ちょっと特殊なお父さんとお母さんの元で生まれただけの普通の女の子だもん!

「で?いつから付き合ってんの?」
「・・・付き合おうって言った日・・・から?」
「似たようなこと言ってんなよこのバカップルが!」
「なに、野上。・・・妬いてる?秋取られて。」
「はあ?!」
「せめて絶滅危惧種にしてよう、レア感増すから。」

絶滅危惧種だったらなんか自分から言えるじゃん。って思ったのに、2人ともなんて顔してるんですか。

「秋、あんたって本当に人の話聞かないよね。」
「え?珍獣じゃないの?」
「秋の料理ができて気配りができるとこが好きだ、って言ったんだよ。」
「!」

なんでちょっと笑顔で言うんですか。あ、そういう彼氏ってことですか。なかなかできてる感じですか?!
ってことは、素で照れたらだめだ!
こちらとしても何か言わなきゃ。

「優しいし、女の子らしくて、可愛いじゃん。」
「!・・・赤葦くん、」
「ちょっと。堂々と惚気ないでよ。」

あ。めちゃくちゃ惚気て話を早く終わらせよう作戦?

「あと、」

思い出したかのように赤葦くんはこちらを見て告げた。

「いいにおい」
「ばかー!」

とりあえず右手が出た。







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