ねことわたし | ナノ

残念な猫と音駒生




「重たい・・・」

右手にもった買い物袋とスクールバッグを地面にそっと置く。
お米がないから買わなきゃ、と5キロを買い、たまには贅沢に、とオレンジジュースと牛乳、更には安かったから小麦粉砂糖塩までを一気に買ってしまった自分を恨む。

スーパーは駅の目の前で、家から20分もかかるから、と欲張ったのが敗因だ。まだあと15分はある。
おまけに教科書とか辞書とかもカバンに詰めてきた。よりによってな。


やはり明日の卵特売日にそれらを買えばよかった。どうせ明日も行くもん。
お母さんはいつもこうやって考えて買っていたのかな、尊敬。・・・いや、でもあのぽけぽけのお母さんだ。


「やだあ!明日が特売日だったのに今日買っちゃった!明日も買うからぁー、秋ちゃん明日は卵パーティしましょう!」

とか言っちゃう人だ。尊敬、ではないかもしれない。お父さんも「やったー!卵パーティ!!」とか喜んじゃう人だから、せめて2人がいない間はうまく食費をまとめよう。明日は買わない。卵だけ。本来の目的だけ。


「・・・今日はスペインだったっけ?」

父と母は、現在、「「遅れたハネムーンと題して世界一周旅行してきまーす!!」」中である。なにやら欠かさず買っていた宝くじが当選して、一生生活には困らない金額を手に入れたとか。

もう喜んで贅沢三昧の毎日ステーキ(うげえ)パーティだった。
2人で10キロも太った!と何故か誇らしげにいちゃついていた。


結婚して16年も経つのに、今でも「恭介くん」「美咲ちゃん」呼びのバカ夫婦。娘としてとても恥ずかしい。

今では名称が変わった授かり婚、ってやつで。私を産んでから必死に生活をしていたらしい。
といってもお父さんは爆発的に今有名な作家さんだから、そのキツキツの生活はそんなには長くなかったみたいで。

金銭感覚がちょっと変。

料理も変。


16歳と18歳とかとんでもない年齢だったから、お料理できないのしかたないかもしれないけど、なんでルー入れてるのにカレーの味しないんだか。なんで麻婆とかもと混ぜるだけなのに美味しくないのか。
おかげで料理は私の担当で、得意にはなった。いつでも嫁げる。その気はないけど。
16歳とか、高2でしょ?今の私と同じなんだ。それで、なにもわからないで子供産んだんでしょ?怖いわホラーだわ。

だから、落ち着いた今、旅行してくればいいよ。・・・世界一周の発想はなかったけど。
だってたっぷり1年だってさ。寂しくはないけど、別に。県内におばあちゃん住んでるし。
来年まで帰ってこないし、それあと何ヶ月あるの?って話だけど別にそれだけ。

お母さんとお父さんのことは大好きだ。なんだかんだでこんなに愛してくれたんだし、1年くらい2人でゆっくりしてくればいいと思います。
万年新婚夫婦だけど、同じくらいに2人に愛されてるし。毎日今はどの国にいるのかメールがくる。
写真付きで。

ただ、どれも2人のどアップいちゃいちゃだから、どの国かさっぱり景色写ってないのが残念なところ。さすがマイマザー。
そんなこんなで最近のそれを考えているわけだけども腕が痛すぎて持てそうにない。

一旦置いてく?どうする?いや、置いてっちゃダメだろ。買い物したら重たくなるからって、先にちょっと優雅にカフェ入っちゃってたから、とてもいい時間なんだ、今。

補導されるような時間帯ではないけど、ロードショーが始まる時間。今日の魔法使いシリーズ見たかったなぁ、あ、予約してたわセーフ。

じゃああと5分休んだら行こう、って考えた辺りから、すごい騒がしい声が聞こえてきた。
あのジャージは見たことある。同じ音駒生。なんかやたらでかいけど、バスケかな?バレーかな?





「おい、走んなリエーフ!」
「いやいや、大丈夫っス!捕まえるだけっス!!」

は?捕まえる?
なんのことかわからないけど、前を見れば、ちょっとビッグサイズな猫とビッグサイズな外国人。

真っ直ぐ走ってくる。


待て待てここ狭いから、その勢い危ないから!ていうか足長いからめっちゃ速い!!



「っよし捕まえたブスね」
「ばかリエーフ前!!!」

こおおおお!
という声と同時にダブルビッグが私のカバンにつまづいた。・・・って

「えええええーー??!!」

な、なにしてくれてんだこの外国人。
猫守りながら3回くらい転がってったけど?!ていうかそれ私のカバンなんですけど?!足長いから跨ごうとしたのかな?!ん?今踏んづけたよね?!それ何入ってると思ってんの教科書ノート辞書だけども?!

「いっっってえええ!!」
「だから走るなって言ったろ!馬鹿か!馬鹿だったなこの馬鹿リエーフが!」

ベージュ色っていうのかな?ベージュさん(仮)が外国人に蹴りを入れている。せめて起き上がってから蹴って。

せめて私に謝罪してから、さ。

「すみません!!鞄!今!鞄踏みましたよね?!本当にすみません!!」
「夜久さん痛いっスよ!俺怪我人!!」
「うるせえ!お前も謝れ!!」

強く後頭部をつかんで下に降ろす。覚えたぞ、リエーフな。リエーフは痛い痛い!と悲鳴をあげる。
私の鞄の方が痛かったよ。絶対。2m級に潰されたんだから。即死だよ。


「だから走んなっつったろ、馬鹿が。」
「・・・足跡。」

今度は変な髪型の人と金髪・・・いや、プリンが言う。
そうです、足跡ですよ全くね!!

「す、すみません、またげると思って。」

ほら跨ごうとした。

「・・・いや、もう大丈夫です。」

それよりも、よく見たらこの集団すごい怖い。なんか不良みたいなのいるし。大体が2m級だし。なんか、隠蔽工作して私のこと消しにかかりそう。

「いや全然大丈夫じゃないですよ・・・その・・・後輩が本当にすみません。」
「やっくん頼もしー。」
「お前も謝れよ黒尾!主将だろうが!」
「いや、もう本当大丈夫なんで。」

怖いから帰るわ。本当に。
とりあえず買い物袋を手にする。
持ち上げる同時にゴトゴトっと重い音がする。袋がやけに軽い。

「・・・え。」
「・・・破けちゃってますね」

袋、破けちゃってる。すっぽ抜けーってか。
マジかよ。あれか。耐えられなかったのか。マイバッグじゃなくてマイエコバッグの方か。お前、無事ちゃうんか?踏まれてなかったでしょ?わがままさんなの?「もう持てなーい!」って・・・わがままさんなの?!

「めっちゃ買ってんじゃん。」
「女の子が持つにはいささか量が多いんじゃないですか?」

主将さんと、坊主の人が言う。
うるさい買いすぎたんですよ自覚ありますよ。

「か、カバンに入れるんで大丈夫です!」

早く帰ろう。
なんか人数多すぎて疲れるし。
鞄に入れればなんとか持って帰れるよね。米はもう抱えてさ。

「教科書とか持って帰ってんだ。偉いなー。」
「はあ?普通持って帰るだろ?黒尾。」
「クロに関してそれはないと思う。」
「研磨ひでー。で、これじゃ鞄に入んないっしょ。えーと・・・宇多川・・・チャン?」
「!なんで名前・・・。」

Mr.トサカはニヤニヤしながら生徒手帳を開いた。ぐぬぅ。なんだこいつ。プライバシーという言葉を知らないのだろうか。
なにやってんだよ、とベー(以下略)さんが言う。そしてまたすみません、と謝る。
この人お母さんポジションなのかな?

「いや、うちの学年にいねえし後輩かなーって。2年か。研磨たちと同じか。」
「え!タメかと思ったのに!」

ははん。リエーフは1年生か。後輩コラ。

「髪切っちゃったの?ツインテ似合ってるのに。」
「もう!いつまで見てるんですか!返してください!」
「ゴメンネ。」

この人謝る気ゼロだ!!疲れる!すごい疲れる!早く帰りたい本当に早く帰りたい!!

「・・・あの。えと、宇多川さん。」
「あ、は、はい!なんですか?」

ベージュさんが控えめに呼んできた。
無造作に落ちたままの牛乳や小麦粉を持つ。

「良かったら、家まで運ばせてくれる?」

持てないでしょ?
と困ったように。
私今すごく欲張った自分を悔いています。
それはとても申し訳がないと思うんですが。

「いや、それは悪いですよ!」
「いやいや、かわいー学校の後輩なんだし、うちの馬鹿リエーフのせいでもあるし。」
「そうだね。それに、その猫まで抱えるの大変でしょ?」

多分三年生であるだろうこの2人まで砂糖やらお米を持つ。いや、でももういい時間だし。・・・ん?猫?

「に"ゃーご」

・・・なんて鳴き声だ。
・・・しかも顔が、か、か、かわいくない!!全然かわいくない!!すごい目つき悪いし?!え?

「ひっでえ鳴き声。」
「おい黒尾、そんな失礼なこと言うなよ。」
「え・・・いや、」

飼ってないよ、猫なんて。
ていうか、なぜ鞄の中に入ろうとしてるの?君のサイズは無理だよ。ましてやすでにパンパンだし。

「それにしてもよくこんなにデブらしたっスね。猫バカっスか。」

リエーフが猫の前で指をさす。
だからうちの猫じゃないし。
いてっ、と引っかかれてしまっているが、あの猫ちゃんもおこなんだろう。

「すごい懐かれてるんだね。」
「え・・・いや・・・」

なぜに私のカバンですやぁ、と眠っているのか。寝るの早っ?!こんな猫見たことないけど。
うち動物飼ってないし。お父さんは飛んで馬欲しいって言うし。

「持ちきれないほど買い物しちゃうし、猫ブサイクだし、変わってるね宇多川チャン。」
「別に変わってるほどではないと思いますよ。ただ買いすぎちゃっただけで。」
「いやー、ツボる面白い。ので、紳士な僕が家に運んであげましょう。」

うわー、胡散臭そう。

「なんだよその顔。今胡散臭いって思ったろ。」
「そ、そんなことないですよ。」
「無理にとは言わないよ。ただ今出来ること、これくらいしかないし。」

この主将さんは恐らく性格悪いけど、ベー(略)さんはいい人みたいだ。
まだ補導される時間でもないし。
この人たち、絶対引かない気がする。特に主将さん。
大丈夫大丈夫、今日だけだ。

「じゃあ・・・お言葉に甘えて。」
「ありがとう!」
「そう来なきゃな。そしたら俺と夜久だけで十分か。研磨も来るだろ。」
「そうだね。3人いれば大丈夫だね。リエーフ達は俺が連れて帰るから。」
「えー!俺もブス猫触りたいっス!!」

いや、ブス猫ブス猫うるさいよ。
研磨と呼ばれた男子はこくりと頷く。主将さんが猫をつかむ。うお、という唸り声と共に、私に差し出す。

「愛しのにゃんこは宇多川チャンが抱くってことで。」

「は・・・はぁ・・・?」

だから私の猫じゃないんだけど。
とは言わずに受け取る。・・・が。
重い!!こいつ米より重いんじゃないか?ビックサイズだもんね!よくテレビ番組とかでデブ猫ちゃんにダイエットさせようと頑張る面白動画あるけど、サイズはまさにそれ。
多分歩くのしんどい系。

「引き腰になってんじゃん!!」

ぶひゃひゃひゃひゃひゃ、と笑うトサカ。とてもムカつくでございます。
しかし、目を覚まさないな。死んだのか?

「に"ー」

・・・猫って寝言いうんだ。どうしよう。重たい。
いや、・・・仕方ない。こんな見た目じゃ確かにリエーフみたいなのに追い掛け回される。とりあえず今日はうちに連れて帰ろう。
また追いかけ回されて怪我したら大変だし。

「えー、と。先輩方、ありがとうございます。」
「いや、悪いのこっちだから。」

これが、彼と私の出会い。







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