ねことわたし | ナノ

邪魔者は排除



「なんでまたそうやってさぁ!」

駅前の、レストランの前にて。

「別に俺が好きでやったことだから。」
「それがダメなんだって!」

揉める男女。

7時に駅に着く、と赤葦くんから事前にメールがあり、駅の前で待った。
いつも8時とかなのに、今日は早いな、などと疑問になりながらも、彼は飄々とした態度でやってきた。

着いた瞬間に全力で謝ったら、「あ、うん。」となんとも冷たい返事だった。
せっかく早いから、夕飯を聞こうと思ったのに、彼は外食を提案した。

彼がそう望んでいるのだから、断れまい。普段、外食はしないけど、たまには。
そうして入ったのは、洋食がメインのチェーン店。さくさくと注文する赤葦くんに焦り、「えびぐらひゃん!」と盛大に噛んでしまったが今は忘れよう。
注文を取ってくれたお姉さん、口元ニヤついてたけど、忘れよう。

そこまではまだいい。
ちょっとお手洗いに行ってきます、と席を離れた数分、彼はスピーディーにお会計を済ませていた。
お財布持ってレジに行ったら、「さっき彼氏さんから頂きましたよ。」とあの注文のお姉さんだった。

勘違いしなさんな!お向かいさんだから!男女が2人で行動する、イコール恋人、と思うな!どうせ裏で、「会計済ましてるとか、彼氏くんイケメン!」とかきゃーきゃー騒ぎ立てるんでしょ!そこは同意!

結局そのままなんで払ったの?!を繰り返し発したままお店を出て、現在に至る。

「もう払っちゃったし、良くない?」
「良くないよ!昨日だってケーキ奢ってもらったし!お皿だって!それに・・・」
「うん。」

そうだ。お皿も洗ってくれたし、ケーキもご馳走してもらったんだ。これだけで十分だっていうのに。

それに私は昨日の失礼を速攻で謝りたかっただけなんだ。

「・・・だから・・・昨日のは・・・ごめん。」
「うん。」
「・・・怒ってるでしょ?」

この話題だけ、うん、としか答えてくれない。しかも淡白。

「怒ってないよ。」
「嘘だ!怒ってる!」
「うん」
「どっち?!」

中々大きい声が出て、顔に熱が集中するのがわかった。くそ、ここ最寄りだぞ。しかも音駒生沢山いんだぞ。
彼に目をやれば、顔ごと逸らされた。

「ぐう。」
「ぐう、ってほんとに言う人いるんだね。」
「赤葦くん・・・怒ってる。」
「怒ってないよ?」

からかってるだけ、
そう付け足した顔が笑っているので、肩にパンチしたけど、彼は微動だにしなかった。

「もう!赤葦くん!」
「いじわるねー赤葦くん。」

赤葦くんのものではない声が、後ろから聞こえた。と、同時に面倒臭いな、と言いたげな赤葦くんの顔。
聞き覚えのある声に、恐る恐る後ろを振り向く。

「どうもー、宇多川チャン。」

トサ尾先輩が胡散臭い笑みでこちらを見ていた。後ろにはバレー部集団に、

「秋?」

えっちゃん。

「うううえええっちゃん?!」

えっちゃんバレー部かよ。
そうだ、バレー部マネだよ。

「ちょっと、何その吐きそうな呼び方。」
「野上と宇多川さんって知り合いだったのか。」
「そうなんです、小中一緒で。」

夜久さんがえっちゃんに聞く。
えっちゃんは笑顔で答えていた。
ちょいまち?
これはとてもまずいんじゃないか。
赤葦くんが。

「あー!ブス猫先輩!ちわっス!」

リエーフ・・・!
ちらりと赤葦くんに目をやる。一瞬だというのに、目が合う。目が合った瞬間、右口角を少しだけ上げた。

「何々?放課後デート?リア充だねー、赤葦クン。」

トサ尾のうわ、これすげえ面白そう、という顔。許すまじ。
赤葦くんに目をやれば、また合う。何、何だ。

「秋と赤葦って知り合いなの?」
「え。あ、う。うん。」
「野上ー。聞いたら野暮ってやつだろ。デートだって明らかに。」

不思議そうに聞くえっちゃんに、ちょっと動揺しながら返事してしまえば、トサ尾がニヤニヤしながら、口を挟む。
デートじゃねえし。

「え、デート?違うでしょ?」
「え、・・・ちが」
「そうなんです。これから、家でそういう感じなので、失礼してもいいですか?」

私の言葉を遮り、赤葦くんが微笑して踵を返す。肩に手を当てられ、後ろを向かされる。

「は?!」
「行こう、秋。」

は?!
で、デデデデート?!
秋?!秋と言いましたか?今!!
肯定した赤葦くんに、トサ尾はひゅう、と口笛を吹く。

「中々やんな、赤葦のやつ。」
「ブス猫先輩梟のセッターと付き合ってんすか!!すげー!」
「その呼び方やめろよ、リエーフ。」

モヒカン、リエーフ、夜久先輩が言うもんだから、頭を振って否定しようとしたが、今度は後頭部を抑える。は?!ちょっと!

「秋も恥ずかしいって。」

そう言い、後頭部を抑えながら引き寄せられる。そのまま彼に強く抱きしめられ「むぐ」と声が出た。
彼の力が想像以上に強く、身動きが出来なくなる。

「熱々だねぇ、赤葦。」
「ちょっと赤葦、いつから付き合ってんのよ。」
「それこそ聞くのは野暮ってもんでしょ。」

ちがう!ちがうよえっちゃん!
そう否定しようにも、心臓がばくばくと音を立て、息が出来なくなる。
赤葦くんの体温を感じつつ、何も喋れない。

「じゃあ失礼しますね。」

これ以上は聞かせない、とオーラで訴えながら、彼は解放してくれたと同時に今度は左手を掴まれる。そして、足早に歩き始める。

「あ、あかあ」
「いいから早く。」

それだけ簡潔に告げ、後ろを一切振り返らずに、腕を引かれ続けた。

鳴り止まない心音に、左手に熱を感じながら、下を向くことしかできなかった。








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