ねことわたし | ナノ

少年の葛藤




昼休みが終わる10分ほど前、
ズボンのポケットから振動を感じた。

「あかーし今日居残り練付き合ってくれよー!」

などと無駄に叫ぶ先輩を無視し教室に戻ってから、携帯画面を開く。


【宇多川 秋です。】

というタイトルに、下の名前は秋さんなんだ、と初めて知る。
今日も食べますか?
というなんともシンプルな文章に、
迷惑じゃなければ、
とこちらもシンプルに返した。

慣れた手つきで新規登録をし、携帯のロックをかける。



猫になっている間、最初のうちは起きていられるのだが、突然がくんと意識が落ちてしまう。普段より睡眠時間が取れてる分、体は軽いのだが、目覚めたら又、彼女の布団をお借りしていた。

変態扱いされたら困るが、
洗い立てのシーツの匂いとか、アロマなのか香水なのかわからないが、ふんわりと部屋中から良いにおいがした。

確かに、部活にはマネージャーがいるし、クラスでもそうやって香水とかつける女子がいるから、慣れてはいるが、布団は正直しんどい。

嗅覚が麻痺するというか、長時間至近距離はダメだろう。時計を見れば身体は戻ったばかりの時間帯で、起きる前に着替えてしまおう、ととりあえず静かに起きあがる。


枕元に畳まれた服が置いてあって、心の中で感謝を述べ、音も立てずに着替えた。

ついうっかり時計を落として音が出てしまったが、彼女は微動だにしなかった。



・・・しかし。ベッドを借りるのはさすがに申し訳ない。廊下とか、リビングとかあったろうに。けれど、彼女の優しさなのだろう。

小さな寝息を立てて眠る彼女の肩を、軽く叩いてみる。ん、と小さく唸るだけで、それ以外はなかった。

だから一か八かの賭けにでた。
一旦布団をめくって、彼女をそっと抱き上げる。やはり所有者が使ったほうがいい。

お姫様抱っこ、と言われるそれをやり、彼女をベッドに移した。
以前、白福先輩が、「お姫様抱っこされたぁーい。」と猛烈にアピールしてきて、何回かやらされたので、なんとか無事に運ぶことが出来た。感謝。

でもやっぱり髪が長いからなのか、微かに香るシャンプーとか、規則正しい寝息とか。
これが理性を狂わせる、とかいうやつか、
すこし密着しただけだというのに、鼻に残るのは柔らかいにおい。

相変わらず寝息を立てる宇多川さんの、髪を軽く触る。これはただの好奇心、だろう。
指に絡まることなくすり抜ける黒髪。

さらさら、というやつか。
そう感じて慌てて手を離す。
なにをやっているんだ、自分は。




・ ・ ・





猫になっている間だけ、家で寝る?と親切に聞いてきた彼女はすこし変だ。
普通は忘れてしまおう、とか思わないのか。

うん。と短く答えた自分も変だろうが、お向かいさんなんだし、とても助かった。
昨日だって自力で起きれなかったのに、次は起きれるなんて、言い切れない。
通報されて終わる。
親は放任だが、さすがに警察のお世話になってしまったら話は別だろう。

宇多川さんのご両親は今不在みたいで、それは助かるがそんな簡単に同世代の異性を部屋に招くのもどうかと思う。
痴漢だったり、襲われたり、身の危険は無いのだろうか。
泥棒扱い破壊魔扱い、と変な方向に考えがいっていて、そういう思考の持ち主なのか、俺は男として見られていないのかどっちなのか。

この状況で気にするのもあれだが、どちらにしろ俺の将来が危ない。


とにかくこのままでは全部だめだ。
自分は3年生の先輩方を差し置いて副主将をやらせてもらっている。
それにあのへいへい先輩は放置しすぎると面倒臭い。

「宇多川さん・・・か」

小さく呟いて、次の授業の準備をした。





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