えっちゃん
おかしい。おかしい。絶対におかしい。
「秋今日はハンバーグ?」
「うん。」
昨日は赤葦くんにベッドを譲り、
何か盗まれたら怖いから床に敷布団を敷いた。
もともとよく友達が泊まりに来るので、自室には友達用に布団もある。
それに私の部屋は少し広めなので、ローテーブルさえ畳めば、布団は敷ける。
くどいようだが、何かあったら、が泥棒か破壊神な以上、この部屋から出させるわけにはいかない。
し、監視せねばならない。
彼より早く起きる自信あったし。
なのに目覚めてみろ。私はいつも寝ているベッドで眠っていた。
寝ていたであろう奴は、代わりに下で寝ていた。意味がわからんちんだ。
でも、服は着ていた。
「お姫様だっこだったのだろうか。」
「なにが?」
だってさ、昨日は裸だったのに、着ていたってことは、一回起きたんでしょ?私より先に。で、いくら寝ているときの記憶がないとはいえ、互いに寝床入れ替わらないでしょ?
つまり奴は私を移動したというわけだ。なんでなんでwhy?
確かにベッドの方が柔らかいけども。
・・・優しいかよ。
「で、さ。秋。」
「なにー?えっちゃん。」
「昨日の猫人間はどうなったの?」
「へ?」
えっちゃんが続きを求めるなんて珍しい。てっきり信じてないものだと思った。
いや・・・違う。
「宇多川先生の新作っ!気になる!」
「・・・ですよね。」
現実主義者なわりに、お父さんの小説は全シリーズ買ってるんだよね。お父さんも、「秋の大親友なんだから!プレゼントするよー!」と言っていたけど、えっちゃんはちゃんと本屋さんで買いたい、と断った根っからのファン。こんなファンがいて、娘ながらに誇らしい。
だからこそ。
「ネタバレじゃない?」
「はっ!」
誤魔化すように言う。
なんてことだ、とえっちゃんは呟いて、野菜ジュースを飲む。
えっちゃんってば音駒では有名な美人生徒。スタイル抜群、成績優秀、主食はジュース。その横には平々凡々な宇多川秋。
月とスッポン。いや、スッポンに失礼、月と消しかす。
「・・・ネタバレは、いくない。」
「う、うん。そうだね。」
一点を見つめて、えっちゃんは首を振る。
ただ、少し変。
黙ってれば美人。残念美人。
いや、他人にはクールビューティ。
「あ、いたいた!智絵せんぱーい!!」
「んー?」
そして人脈が広い。
生徒会から書道部まで、友だちはたくさんいるので、こうやって呼ばれることも多々ある。
ちょっと抜けるね、とえっちゃんは後輩くんのところへ歩いて行った。
さて、こちらとしてもご飯も食べ終わり、残りの時間なにしようかなって軽く考える。
この間買った小説が、カバンに入ったままだから読もう。そう思ってカバンの内ポケットに手を突っ込む。
かさっ、と身に覚えのない紙を掴んだので、それを先に出した。
ハガキサイズのメモ帳に、英数字とアットマーク。090から始まる11桁の数字と
赤葦 京治
の名前。
あ、これ連絡先か。
なんて何気なく思いながら、登録せねばと携帯を出す。
直接渡せばよかったのでは・・・?
後ろをめくって笑みがこぼれた。
ごちそうさまでした。とすこし右上がりに書かれた字。
「律儀だなぁ」
今日も食べますか?
と本文に添えて、送信ボタンを押した。
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