ねことわたし | ナノ

持つべきものは大親友


「秋遅かったね、遅よう。」
「おはよう、えっちゃん。」

結局なんだかんだで3限目についた。
しかもギリギリで、大親友のえっちゃんと会話できたのは昼休み。
今日は作る暇がなかったので、コンビニのパン。チョコパンとメロンパンとコッペパン。甘々ですな。たまにはいいさ。

えっちゃんは珍しいね、と言っただけで、あとは至福のご飯の時間。料理を覚えてからは、コンビニの食べ物はあまり買わなくなった。だってもったいないもん。

「で、どうしたの遅刻なんて。夜更かし?」
「いや、ぐっすり。」

赤葦くんは結局塀をよじ登って部屋に入って玄関から出てきた。内心ご近所さんに見つからないか、ヒヤヒヤしたが、猫一匹すら来なかった。そっか、お向かいさん赤葦さんっていうのか。
丁度赤葦くん側で学区切れてたから、小中違ったのか。前からある家だったけど、気づかなかった。

お母さんがご近所付き合い広いけど、みんな下の名前で呼ぶからな。
奈々さんから梨もらっちゃった7個も!とか、何回なを言うんだよ、とかそんなことしか思わなかったし、漢字難しいから一回見たポッキリで記憶から消してたし。

きっと何回かは見たことあるんだろうけど、別にお向かいの男の子って、あんまり遊ばないし、私読書派だったし。

「実はね、えっちゃん。」
「なに?」

赤葦くんには他言無用、と言われた。一応、音駒高校近いから。といっても通学路は、道路二つ分先だけども。
なんでもやはり昨日のバレー部に知り合いがいるとか。
名前を出すな、と。

「猫人間がいた!!」

無理!黙るなんて無理無理!
聞いてほしいわ。
猫人間だよ猫人間?狼少年とか吸血鬼より俄然面白い!

「・・・ああ、昨日の映画ね。」
「え?!そうなの!ネタバレだ!!」
「再放送の再放送なんだから細かいこと言わないの。」

そういう漫画あったじゃん、抱きついたら変身!!みたいな!

「秋、小説読みすぎなのよ。一旦読むのやめたら?」
「違うもん本当だよ猫人間!朝起きたら人間になってたんだよ!」

小学校からの大親友えっちゃん。えっちゃんなら信じてくれるよね?赤葦くんこの後どうすればいいと思う?確かに屋根で寝ればいいけど、清々しい朝に玄関からお向かいの露出狂を見るとか悪夢でしょ。

私は赤葦くん信じるけどなぁー?初めましてなのに、信じるけどなぁー?いい人だなぁー、私。
とりあえず名前を伏せて、えっちゃんに話す。
えっちゃんはうん、うん、と頷いてくれる。そうさ、持つべきものは大親友!

「あんた、今日もう帰ったら?」
「なんで!」
「気持ち悪いから」
「ええええーーー!!」

ある程度話してから、えっちゃんは深くため息をついてそう言ったのだ。
大、親、友、とは。
冗談などではない。私は、本気だ。
かく言うえっちゃんの目も、本気だ。

「人気作家宇多川恭介先生の娘だもんねー。あんなファンタジー小説に囲まれて過ごしたら常識感覚狂うわ。可哀想に。」
「お父さんの本は確かに面白いけど今回は別件だもん!」
「はいはい、夢だよそんなのあり得るわけないでしょ。」
「えっちゃん!」

やっぱりな。
さすがえっちゃん現実主義者!
仮にえっちゃんが赤葦くん拾ったら、多分110番か、締め出すね。
いや、そもそも、「デブ猫くそ重」とか言ってその場に置いていくな、違いない。
わかったよ、夢だってこと前提で話そう。

「でさ、その猫人間、これからどうすればいいと思う?」
「え?夢なんでしょ?それ、宇多川先生の新作か何かなの?」
「まぁ、それでいいや、そんな感じ。」

感動を共有してもらおうと思ったけど、お父さんの影響力ぱない。えっちゃん、そういうの信じないもんね、映画見ても、よくそんな発想でるよな、とかだもんね。
お父さんの小説は好きみたいだけど。

「でね、その猫人間はこれからどうすればいいと思う?家には帰れないから。」
「一緒に住めば?」
「へ?」

一緒に、住め?

「まあフィクションなんだから、門限云々とかないでしょ?家が目の前なんだから、部屋一個貸すなりリビングなりで寝かせておく。起きたら帰って貰えば?」
「そんな簡単にいくかなぁ」
「だいたいそういう奴って、寝床提供してあげてるんだから、何もできないでしょ。」

確かに部屋貸して殺されたら笑えないけど。彼もまだ前科とか欲しくは無いはず。

多分朝言ってた屋根で寝る、が八割型彼のプランだろう。やだな。朝起きてお向かいさん捕まってたら。で、あれだろ、警察来て、「何か知ってること教えてくれる?些細なことでいいから。」とか聞かれるんでしょ?
ひゃー、鉄砲打たれるしぬる!
とか内心冷やしやしながら、「な、なにもひりません!」とか甘噛みするんだ。わー、なんか想像できるぞー。

で、隣人の人に聞いた、とかニュースでモザイクはかけられるけど、名前は出るんだろ?あ、宇多川恭介先生の家ここなんか!!って家バレするの。知ってるんだからね。怖い怖い。

「わかった!そうする!」
「おー、そうしろ。」

もう諦めたよ、と言わんばかりに軽くえっちゃんは返事して、今日の昼休みは終わった。

結局コッペパンは残した。





prev / next
[ back to top ]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -