「フラれたー!」

短い春だった。青城に来て早1年。困った時は優しく教えてくれた先輩。
少しでもいけるんじゃないかと思った自分を恥じたい。

とりあえず誰かに聞いてもらいたくて、渡君と矢巾君とファミレスに来た。
渡君と2人で来てしまうと、彼女さんと喧嘩になってしまったら悪いので、矢巾君も誘って。京谷君には断られてしまった。

「かわいい子がタイプなんだって。」

たしかにかわいくはないけれど、そんなはっきり言わんでもいいよね。

「桃谷さんかわいいと思うけどな。」
「は・・・え・・・渡」

渡君が首を傾げながら言う。そんな渡君を矢巾君は勢いよく見ていた。

「渡君は優しいなぁ。いつも私が求めてることを言ってくれる。ありがとう。」
「お世辞じゃないけど・・・自信持って。」

中学から彼女さんと付き合っているらしい。円満なのは、この性格の良さが関係あるんだろうな。

「お、俺も・・桃谷、かわいいと思うよ。」
「矢巾君のは嘘くさい。」
「は?!なんで!」

何故か矢巾君は渡君を睨んだ。

「矢巾君、この間も烏野のマネージャー褒めてたし。」

かわいい人見るとすぐ声かけに行っちゃうし。なんか可愛いって言えば済むと思ってそう。

「本当に優しくていい人だったんだよー。」

委員会の後に一緒に帰ったりしたし、廊下ですれ違ったらちょっと話してたし。
それでいけると思っちゃったんだもんな。

「誰だよその人。」
「え?先輩だよ。」

瞬間、矢巾君と渡君が目を合わせる。そして2人して私の方を見た。

「・・・及川さん。」
「・・・信じてたのに。」
「え、違うよ。委員会の先輩。」

2人して及川さんだと思ったのかな?たしかに及川さんはモテるけど。全員が及川さんを好きってわけじゃないから。

「・・・だよなー!及川さんなわけないか。及川さんとじゃ釣り合わないもんなー。」

今度はどことなく嬉しそうに矢巾君は言った。

「・・・なにそれ。それはそれでむかつく。」

イケメンの及川さんと私では天と地ほどの差だって言うの?わかっているけど他人に言われると腹が立つ。

「矢巾・・・言葉は選んだ方がいいよ。」
「そうだよ、渡君もっと言って!」

矢巾君はいつも少しムッとするようなことを言ってくる。以前もムカついてつい泣いてしまったことがあった。その時はすごい謝られたけれど。

「は?!なっ・・・釣り合わねーのは確かじゃん!及川さんとは!」

あくまで主張は曲げないんだね。
いいよ、べつに。事実だし。そもそも及川さんじゃないからね。



「えー?なになに?及川さんと誰が釣り合わないってー?」

後ろを見たら、及川さん、岩泉さん、花巻さん、松川さんがいた。自主練終わりで寄ったのかな。慌てて立ち上がるも、先輩達はいーよ、と止める。
店員さんにお願いして、隣の席に先輩達は座った。

「3人でご飯って仲良いねー。」

及川さんが笑顔で言う。

「ま・・まぁ。」
「いいえ!今日は仕方なくです。」

未だに矢巾君の事が腹立たしかったので否定する。そしたら矢巾君が私の方を見てきたけど気にしない。

「渡君と2人きりだと彼女さんに申し訳ないから仕方なく、です。」
「・・・まじか。」
「んー・・・どんまいっ」

及川さんは矢巾君の肩を叩きながらウインクをした。

「で、なんの話してたの?及川さんと釣り合わないって。」
「あ・・・それは・・・」

渡君が困ったような顔でこちらを伺っている。大丈夫だよ、済んだ話だし。

「フラれたんですよ、私」
「え?!フラれたの鈴音ちゃん。」

及川さんは最初の2人以上に驚いていた。先輩達の視線が集中してるのがわかった。

「鈴音ちゃん可愛いのにー。」
「及川さんは女の人なら誰でも可愛いって言いそうです。」
「わー、なんて素直なマネちゃんだろう。」

及川さんは言葉の割にはニコニコしていた。

「それで、相手は誰なんだって話になって、2人が及川さんだと思ったんですよ。」
「お前女なら誰でもいいとこあるもんな。」
「いや、ないから。俺だって人選びますから!」

花巻さんが笑いながら言えば、及川さんも笑いながら言い返していた。

「そしたら矢巾君が私と及川さんじゃ釣り合わないって。」

私は矢巾君を睨みつけた。彼は肩を揺らしていた。

「えー?鈴音ちゃんなら大歓迎だけどなぁー。俺。」
「ごめんなさい。」
「まっつんには言ってない!」

何故か松川さんが返事をしていてつい笑ってしまった。

「及川だけはやめておけ。」
「あ・・・はい。」
「ちょっと岩ちゃーん?!」

先輩達は、これは冗談で言ってるんだよね?笑わせようと・・・岩泉さんは冗談って感じしないんだけど。

「及川と付き合うと取り巻きにいじめられそうだよね。」
「そんなことないでしょ、俺超守るよ。」
「その割には長続きしないよな。」
「やめて!気にしてるから!」

及川さんこの間彼女さんと別れたらしい。なにがいけなかったんだと思う?なんて聞かれたけど、さっぱりわからなかった。イケメンでもダメなことろがあるんだなー。

「いや、でもさ、失恋にはやっぱ新しい恋じゃね?」

花巻さんがポテト片手に言った。

「いや・・・しばらくいいかなーって、思ってます。」
「そうですよ、花巻さん。桃谷まだ傷ついてますから。」

渡君も否定してくれたけど、花巻さんは首を横に振った。

「試しに付き合っちゃえばいーのよ、試しに。深いこと考えないで、デートしてみてさ。そしたら新しい恋も芽生えるって!」

そんなこと言われても、私の好きだった人は違う人なんだから、そう簡単に新しい恋なんてできないよ。

「おい花巻、無茶言うなよ。そんな簡単に割り切れねぇだろ。」
「いやいや、岩泉。力量じゃね?相手の?いつも見せる姿とは別のギャップの部分見せたら桃谷もクラっとしちゃうって。」
「つまりそれ及川さんってことだね?!」
「及川はだまってようネ」

そもそも好きでもない人と、お試しでも付き合いたくない。デートだって嫌。
どんな感情で接すればいいのかわからない。

「ちょいちょい傷ついてんだけど、一旦置いといてあげるよ!で、マッキー、肝心の相手は誰なのさ。」
「んなもん決まってるべ。」

花巻さんはそう言ってから、矢巾君に目を向けた。

「・・・へ。」
「嫌です。」
「はぁっ?!」

即答した私に矢巾君は声を荒げた。
及川さんと松川さんが吹き出しているのが見えた。

「え?いーじゃん矢巾。次期主将だし、狙い時よ。」

渡君の方は目をそらしていた。

「嫌ですよ!矢巾君、いつも嫌な事言うんですもん!」
「はぁ?!それはお前がトロトロやってるから!」
「ほらそう言うとこ!!!」

私は矢巾君を指差して睨みつけた。そうだ。そんなゆっくりやってると、明日になるぞ。とか。鈍臭い、きびきび歩け、とか。
人が黙々とやっているとやたらと首を突っ込んでくる。

「・・・あれ?」
「・・・あちゃー。マッキーどうすんの、これ。」

迷子になるからウロウロするな、とか。他校に色目使うな、とか。自分はすぐに鼻の下伸ばすくせに、意味がわからない。

矢巾君は、「それはっ・・・」と何か言おうとしていたけど、もごもご口を動かしているだけでよく聞こえない。

「いや、桃谷。矢巾ってほら、言葉足らずだから。」

松川さんがフォローに入ったけど、言葉足らずってどう言う事だろうか。

「つまり、迷子になるからウロウロするな、の続きは迷惑だから。って事ですかね?!」

矢巾君はない。絶対にない。他校に色目使うな、の続きはブスのくせに。かな?!色目なんて使ってないのに。

「桃谷さん、一旦落ち着こう?」

渡君が私の肩を軽く叩く。
一方矢巾君は俯いている。

「・・・おーい、矢巾生きてっかー?」

松川さんが矢巾君の目の前で手をひらひらと動かしているが反応はない。

「・・・鈴音ちゃんってさ、もしかして矢巾のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです。割と高い確率でいらいらするだけです。」
「それほぼ嫌いだろ。」

岩泉さん、違うんですよ。たまに腹立つこと言ってくるんです。そこがイラッとするんです。試合してる時とかはかっこいいと思いますよ。

「いやいや、桃谷、こうじゃね?迷子になるからウロウロするな、の続きは心配するから、じゃねーかな?」
「あはは、まさか。」
「うわー、超笑顔。」

そういうまどろっこしい人好きじゃないの。なんで、一回嫌な気持ちにさせてから持ち上げようとするのかが理解できない。
仮に彼がツンデレとかそういう類だったとして、ツンデレだからしょうがないねー、なんて広い心は持ち合わせていない。
だって一回腹立っちゃうから。

「本当に、矢巾は無理?」
「すみません。」

くどいようだけど、今はそういうこと考えたくない。私今日フラれたんだよ?!なんでそれで矢巾君と付き合わなきゃいけないの?どうせ最終的には「お前が付き合えるわけねーじゃん、ブスなのに。」とか言ってきそうだもん。

すると矢巾君は無言で立ち上がる。

「・・・だから言葉は選べって言ったのに。」

渡君がため息をついている。
矢巾君がこちらをちらりと見たが、私は目を合わせないようにした。

「おれ・・・お先に失礼します。」

どこか悲しそうな声色で矢巾君は肩を落としながらお店を出て行った。
先輩達は誰も止めず、ただ、無言で見つめていた。








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