「白布、川西、残念だったねー。」

昨日、白鳥沢と烏野高校で試合があった。
うちのバレー部は、全国大会常連校だった。
それが、破られてしまった。負けることがどれだけ悔しいか、わたしは知っている。だから、私は触れないでいようと思った。

「あー、まぁ、仕方ないっしょ。」

川西君が歯切れ悪そうに返していた。
私だって、試合に負けた時はそっとしておいてほしい。それなのに、彼らと話す大貫さんは、烏野マジムカつくー!と話を引っ張ろうとしていた。白布君は何も答えるつもりがないみたいで、大貫さんと目すら合わせようとしなかった。

今は昼食の時間で、普段は食堂に行く白布君と川西君が、珍しく教室で食べているものだから、チャンスと言わんばかりに話しかけに行ったんだろう。私も、負けた日の翌日は、食堂で会ったら気まずいから行かない。
なんて声かけていいかわからないもん。

「でさでさ白布。
次主将なんでしょ?凄いねー!」

大貫さんはお弁当をつつきながら言った。
川西君が、うちのクラスまで来てるのだから、友達同士の食事を邪魔出しちゃいけないと思って私は席を退いたのに。
大貫さんはそこに腰かけている。
つまり、白布君の隣。
傍から見れば、3人でご飯を食べているみたいだ。

数名が小声で批判しているのが聞こえる。
誰の目から見ても、大貫さんが白布君を狙っているのは明白だった。
白布君がどう思っているのかは、わからないけど、彼は名指しされても尚、答えるつもりはないみたいだった。

ご飯も食べ終わってしまい暇なったが、鞄の中から携帯を取りに行こうにも、大貫さんに睨まれるとわかるので行けない。

「こわい三年生いなくなるし、あたしマネージャーやろっかなー。」

それでも気にせず話しかけ続ける大貫さん。
すると白布君は無言で席を立った。

「賢二郎?」
「え、どこ行くの、白布。」
「太一、俺ちょっと行ってくるわ。」

相変わらず大貫さんを無視して話は続いていた。

「あー・・了解。じゃ、俺帰るわ。」
「え、ちょっと白布待ってよ。」

歩き出そうとした白布君の腕を、大貫さんは掴もうと手を伸ばした。しかしその手は触れることはなかった。

「悪いけど、俺あんたとよろしくするつもりないから。」

今までに聞いたことのないくらい低い声だった。川西君が、呆れたような顔をしながら出て行く。
冷たく言い放たれた大貫さんは、しばらく黙っていたが、段々、顔を赤らめていた。あれは多分、怒りだろう。どこからか、せせら嗤いが聞こえる。
しかし、白布君は全く気にする気配もなく、こちらに歩いてきた。

「ちょっと来い。」
「うわっ?!」

それだけ言って、腕を持ち上げられる。慌てて立ち上がればよろけてしまった。

「あ、ごめん。」
「ううん、大丈夫。」

開いた手でランチトートをとる。そして引っ張られるがままについていく。

「ちょっ!!なんで桃谷なのよ!!」

大貫さんは怒鳴るように言った。

「自分で考えれば?」

彼は尚も冷めた表情で言った。大貫さんは教室でまだ叫んでいたが、何を言っているかまではわからなかった。








「なんっなの、アイツ。うるせぇ。」

たどり着いたのは屋上だった。出入り口の裏に回って、彼は乱暴に腰を下ろした。その時にはもう腕も離されていたので、私は静かに隣に座った。

「でもあれは怖かったよ。」

あんな目で見られたら、私、泣くな。流石に大貫さん可哀想だったな。

「鈴音、もしかして可哀想とか思ってんの?」
「そりゃあ、結構人もいたし。」

そう答えれば、白布君は大袈裟なくらい深いため息をついた。

「大体鈴音が席離れるのが悪いんじゃないの。」
「だ・・だって、昨日の今日なのに、部外者の私がいたら気まずくない?川西君。」
「別に気にしないだろ、太一は。」

そうかなぁ。川西君とは初対面じゃないし、何回か喋ったことあるけれど、部活に関しては部外者だ。一緒に練習をした部員でもないし、マネージャーでもない。熱量が違うのに、口は挟めない。だってさ、先輩たちとの最後の試合になってしまったんだよ。それなのに、大貫さんときたら。

「ていうか、鈴音はなんとも思わないわけ?」
「何が?」
「彼氏が他の女子と話してんのに、なんとも思わないの?」

そんなもの。

「・・・めちゃくちゃ腹立つって思う。」

ぶはっと白布君は吹き出した。なんだよ、思うよ。思いますとも。

「じゃあもう隠さなくて良いだろ。めちゃくちゃ腹立ってんなら。」

白布君は笑いをこらえようとしているが、口元が緩んでいる。全然堪えられていない。

「嫌だよ、大貫さん怖いもん。」
「いや、流石にもうバレてるだろ。」

付き合い始めたのは一年前だった。元々は同じ中学で、よく話はしていた。
流石に彼が白鳥受けてたのは知らなかったので、見かけた時は驚いた。
推薦と違って一般はすごい難しいと聞いていたから、凄いな、と思った。

一般枠だから、彼は中々有名人だった。
付き合い始めた時に、目立つのが嫌だったので内緒にしようと言ったのは私。
そしたらまぁ、彼のモテることモテること。しかも白鳥の女子って可愛い子が多いから、何度心が折れそうになったか。

「ていうか俺もお前が他のやつと話してるの見る腹立つから。」
「え・・・へえ?」
「にやにやすんな。」

白布君もやきもちとかあるんだ。
なんか意外だな。照れるな。

「おい、にやにやすんな。」
「ご、ごめん。」
「しかも大貫、いろんな男子に色目使ってるらしいし。」
「え?!うそ!」

なにそれ最低。
人の彼氏だけじゃなくて他の男子まで。

「私はいつも白布君で心臓もたないのに。」
「は?」
「他の男子まで狙ってるの?!何それ?私の白布君はブランド扱いなのかな?成績優秀、バレー部主将だから?!むかつく!いーよ、売られた喧嘩は買ってやる!」

悪いけど、彼は頭いいだけじゃないんだから。いつも優しくて、気にかけてくれて、些細なこと覚えてくれてたりして、そしてなによりかっこいい。
白布君のどこを好きなのか具体的に言ってみろっつーの!

「ちょ、まてまて。」
「何?!」
「心臓、持たないんだ?」

白布君はニヤニヤしながら言った。



しまった、声に出てた。

「そ・・・そんなこと言ってないよ。」
「わ、た、し、の白布君、ね。」
「言・・・ってない言ってない。」

首を横に振って否定してみても、彼の口角は上がったままだ。

「鈴音って本当に可愛いやつだよな。」

そう言って彼は頭を撫でてくる。

「あ・・頭を撫でるのは、辞めて、欲しいな。」
「なんで?」
「は、・・・恥ずかしい、から。」
「やだ。」

ぶは、と彼はまた吹き出した。いつもは優しいけど、たまに意地悪になる。でも、嫌ではない。


「ねえ鈴音。」
「・・・うん。」
「俺のこと、好き?」

濁すことなく彼は聞いてくる。
それがとても照れ臭くて、思わず俯いてしまう。

「鈴音。」


「・・・好き。」

短く言うと、腕を引かれる。そしてあまりにも簡単に私は彼の腕の中に収まった。






「俺も。」



耳元で囁かれ、私は下を向くしか出来なかった。




その後、私達が付き合っているということは、瞬く間に広まり、彼の先輩たちに絡まれたのはまた別の話。










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