木葉秋紀は焦っていた。
夏が終わる。
残すところ10日もないのではないか?
携帯のカレンダー機能を睨みつける。

思えば、部活、部活、合宿、部活、合宿と、強豪よろしくルートしか歩んでいない。
いや、部活が嫌なわけじゃない。
強豪校のレギュラーでいれることも誇らしく思っている。しかし。
しかし、だ。

意中の女の子を一度たりともデートに誘えていないのに、そんなんで夏を満喫したと言って良いのだろうか。いや、良くない。

今年はもう高校最後の夏だぞ。噂じゃ大学は別みたいだし、絶対に何かしらのアクションを起こしておかなければ 「  木葉くんは、良いチームメイトだったよ 」 と桃谷の天然スマイルが炸裂してしまう。
良いチームメイト止まりは避けたいところ。



「・・・週末の、・・・夏祭り、だな。」

手帳を鞄から出して、確認をする。
赤いペンで丸く囲う。
少し雑な字で、祭り、と書き込んでふと指が止まる。
誘い文句はどうしようか。まだ誘えてもいないのに、手帳に印をつけるなんて、自分、相当痛いぞ。

( 来週、夏祭りあんじゃん?行く相手いないなら、俺とかどーよ? )

・・・違う。
まず行くかわかんねーじゃん。 なに上から目線してんだよ。
つーか、マネちゃんズで行くのか?この場合。いいチームメイト止まりの俺では力不足だし眼中になさそうだ。

( 週末空いてる?祭りあんだけど、一緒に行かね? )

・・・無理だ。
そんなのドストレート中のドストレート、俺が言えるわけねー。木兎や小見じゃあるまいし。あー、赤葦もいいそう。鷲尾も、猿も。ん?だいたい全員じゃね?ていうかそもそもあいつらは、それを言えちゃうスペックあるからだろ。平々凡々にはきついっつーの。

( 俺と夏祭り行ってくださぁい!金魚すくいに射的にたこ焼きフィーバー!!君の瞳にバキュン☆フゥー!! )

「っだぁ!没!没だ没!!
必死かよっ!浮かれ野郎かっつーの!今年こそは誘いたいっつーの!浮かれたいっつーの!これじゃあお祭り大好き野郎じゃねーか!ちげーから!桃谷誘いたいだけだから!夏の思い出作りたいだけだから!」

いいか秋紀考えろ?お前桃谷のこといつから好きなんだ?そうだ。マネージャーになった時からだ、つまりは1年の春からだ。入部した初日。なにあの子超可愛いんだけど、とか一目惚れして目で追っていたじゃないか。1年の時はマネちゃん同士で固まりあってて近づけなくて、2年でレギュラー取ってからきちんと話すようになって、3年に上がったら同じクラスで、教室でも会話できるようになったじゃないか。いいか?同じクラスってことはだぞ?部活終わって教室に入るまで一緒に行くことを許された地位にいるんだぞ?ただ残念なのは一向に席が近くにならないことだ。

隣同士。いいじゃねーか。
あれだろ?わざと教科書忘れたりなんかして、桃谷ちょい見してくんね?とかナチュラルに机くっつけるあれだろ?俺、置き勉派だけど。


「くっっっそ!だからせめて夏祭りくらい行きてーよ桃谷と!!」

「そ、そうなんだ。」

・・・は?
今桃谷の声聞こえなかったか?
いやいやないない。だってあいつ裏庭で食うって言ってたし?スキップして出てったし?高3でスキップとかまじ可愛いわ。

「木葉くんって、お祭り好きなんだね。」
「桃谷っっ?!!!」
「は、はい、桃谷、」

お前飯行ったんじゃなかったのかよ!つーかなぜ前の席に座る。なぜ座る?座るってことはしばらくいんの?ここに?!

「おま・・・飯、行ったんじゃ・・・」
「あー・・。なんか、木兎くんもくるー、とか、小見くんもくるー、とか、じゃあ赤葦くんも呼ぼー、ってなって、じゃあ全員呼ぼうよ!って事で、木葉くんを呼びに来たのー。」
「へ・・・へぇ、」

さいですか。
気のせいじゃなかったわけだ。

「聞いてた?」
「うん。」
「いつから・・・?」
「っだぁ!没だ没!!くらいからかな?」

・・・全部聞かれてんじゃねえか。つか声に出てんじゃねーか。バレてんじゃん。桃谷誘って浮かれ野郎になりたいのバレてんじゃん。

「ふふっ」
「え・・・どした。」

こちとら血の気が引いて来てんのに、笑ってやがるよ。魔性の女め。

「そんなに夏祭り行きたかったんだね。木葉くんってばかわいいなぁ。」

魔性の女め!

「行こうよ!」
「へ?!」

ま、まじかよ!
行ってくれんの?!俺と?

「ちょうどみんな裏庭にいるし聞いてみようよ。」

魔性の女!!!
ちげーよそうじゃないから!
そうですよね?!桃谷そんな子だったね。鈍感の天然ちゃんだったね?だから男子からの熱烈アプローチにも全く気づかなかったわけだけどさ!ここで違うと否定しろ。
みんなで行くならいつでも出来んだろ。木兎とかに言えば話は秒で広がるし。
そうじゃないんだ。

「とりあえず、裏庭でご飯食べようよ。」
「・・・がう。」

違う。
このまま流されてしまったら、多分、俺はもう彼女を誘えないだろう。高校時代の同じ部活の部員とマネージャー。

それはいやだ。

「どうしたの?木葉くん。」
「・・・お・・・、・・・りで、」
「ん?」
「ふ、ふ。2人で・・・いきたい」


よし、・・・言えた。
かっこよさとか、まるでないけど。
流石にわかるだろ?桃谷。

けれど、桃谷が口を開く気配はなかった。それどころか俯かれた。

「・・・桃谷」

消え入りそうな声で名前を呼んだ。
これあれかな、公開失恋かな。
やべえよこの後ご飯とかまじ断るから。
ていうか、こんなあっさり終わるもんなの?俺の片思い。

「ふふっ」
「へ?」

桃谷はまた笑った。
慌てて彼女の顔を見る。

「浴衣、着て来なきゃ。」


 ー楽しみだね!


ちきしょう眠れなくなるだろうが。













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