桃谷には1つ疑問があった。
目の前で部誌を書いている音駒主将を見つめる。真っ白だった紙は、慣れた手つきで文字が刻まれていく。

「・・・なに、桃谷。」
「ん?べつにー。」

今日の練習内容や反省点、個々に対する課題。もう書く内容なんてなくないか?と思っても、彼の手は止まらない。さすが主将だな、と感心する。

「そんなに見られると書きづらいんだけど。」
「大丈夫だよー。気にしないで書いててー。」

一度手を止めて、彼はこちらを見た。見上げれば、多分目が合うんだろうけど、頬杖をついたまま、部誌に目を向けていれば、彼も何も言わずに部誌に続きを書き始める。
この部誌を書いたら、戸締りをして、部誌を職員室に持って行って、今日の部活は終わる。忘れ物はないかと部室を見渡す。

「あ。」
「どしたー?」
「夜久君、タオル忘れちゃってるね。」

床に無造作に置かれたタオルを手に取る。それを綺麗に畳み、机の端に置いて又席に着く。

「いつものとこで飯食ってるらしいから持ってくわ。」

黒尾君はタオルに目を通して告げ、又、部誌を書いた。

「ありがとう。お願いします。」
「桃谷もくるか?」
「あー・・・ご飯?いいよ、私が行ってもあれでしょ。」

たまに数名でご飯に行くらしい。まぁ大体はスタメンなんだけど。今日もみたいで、黒尾君は部誌を書いてから合流。
ちなみに私はバスの時間に余裕があるのでここで時間を潰していた。

「来たらみんな喜ぶと思うけどな。」

リエーフとか、と付け足して、彼は部誌を閉じる。

「えー?本当?それは嬉しいけど、ボーイズトーク的なものがあると、私がいたら話づらいじゃん。」
「・・・そういうのって普通はガールズトークじゃねぇか?」

いやいや。
ガールズトークがあるならボーイズトークもあるでしょうに。

「俺、もう行くけど、桃谷どうすんの?」
「あ!じゃあ私も出ようかな。」

ブレザーを着る彼を見て、慌てて立ち上がる。気がつけば自分の方が、ノートやら小説やらを広げていて、片付けが済んでいない。鞄に投げるように入れて、急いでチャックを閉める。

「別にそんなに急がなくても大丈夫だから。」
「いやいや、お待たせするのは申し訳ないので。」

急いで鞄を肩に掛け、開いた手でブレザーを持つ。

「へへへ。お待たせ。」

笑って隣に小走りで向かえば、何かが落ちる音がした。

「あぁ!携帯ちゃんが!」

携帯を取ろうと慌ててしゃがむも、黒尾君が先に拾ってくれた。

「ありがとー。」
「おう。お前そそっかしいんだから慌てんなよ。」
「これでもしっかり者なんだよ?」
「自分で言うほど説得力ないワード上位だよな、それ。」

黒尾君はそう言って鍵を閉める。

「じゃあ、鍵と部誌、私職員室に持ってくね。」

受け取ろう、と手を彼の前に差し出した。

「は?なんで?」
「え?だって、これからご飯行くんでしょ?私まだ時間あるから、よかったら持ってくよ。」

特に私は急いでいない。
人を待たせているわけでもない。
むしろ時間も潰せるのだ。素晴らしい。

それなのに、黒尾君は部誌を渡してくれない。

「別に俺が持ってくわ。急いでねぇから。」

私の手はスルーしたまま、職員室へと足を進ませる黒尾君。急いで後ろをついて行く。足が長いのもあって、歩幅が違って、なぜかこちらは小走りだ。

「いいよ!私持ってくよ!マネージャーだし!」
「いや、いい。仕事終わったろ。」
「ええー・・・じゃあ一緒に行く。」
「はぁ?2人で行く必要はねぇだろ。」
「黒尾君だけに届けてもらったら、フェアじゃないからね!」

そう言って、ほぼ小走りになりながら、彼が持つ部誌の方へ手を伸ばす。届きそうなギリギリのところで、彼は部誌を頭の上に上げた。空振った手を一度下ろし、黒尾君を見る。同じく彼も私を見ていて、しばらく目が合った。
数秒見つめたのち、彼が腕を下ろしたので、急いで手を伸ばす。

「ぶふっ。」
「・・・意地悪だね。」

黒尾君はまた頭上に部誌を上げた。2度目の空振りに、とてつもない虚しさを感じた。

「だからさー、俺が持ってくから。」
「いやいや、借りは作りたくないので!」
「はぁ?借りとか、別にそんなんじゃねぇから。」

会話の最中も、部誌を取ろうと何度も手を伸ばしたが、一度たりとも取れなかった。

「どっちかくれてもいいじゃん!」

勝利する気配がないので、とりあえず彼の肩を叩いた。

「届ける場所一緒なんだから、別々に持ってっても意味ねぇだろ。」
「黒尾君は意地悪だ!」

もう一度、意地悪、と強調すれば、軽めに頭を叩かられた。

「これが意地悪だというなら、思い込みが激しすぎるとおもいまーす。」

届かない、とわかっておきながら、ずっと届かない位置に持ってって、それ見て喜んでるんだから、意地悪だ。いじめだ。

「わかったよ!」
「なにが。」

疑問が解決した。

「黒尾君、モテるじゃん?」
「知らね。」

いつものあの髪型、寝ぐせらしいが、あのままで学校に来るのに、何でモテているのか。
見た目?見た目かな?寝ぐせ直さないほどにはちょって面倒臭がりさんなんじゃないの?
それなのに、なぜモテるのか。
そしてモテるのに、なぜ彼女がいないのか。

「わかったよ。黒尾君がモテるくせに彼女がいない理由。」
「初耳ですが聞きましょう、何故。」
「意地悪だからです!」

力強く答えた。名推理だ。
しかし彼は不満なのか、深いため息をついた。そして私を見て、また頭を叩いた。

「さっきも言ったけど、これを意地悪って言うなら思い込みが激しいからな。」
「暴力的なのも追加しとくね!」
「へいへいすみませんね。」

軽く流されたのは納得がいかないけれど。彼がモテるのは本当のこと。
ただ本人が気づいていないってことは、奥手な人が多いのかな?
背が高くて、主将もやっていて、面倒見も良い。

「あんさ、桃谷。」
「うん。」
「好きなやつにモテなきゃ意味ねぇだろ。」
「・・・たしかに。」

そりゃあね、両思いがやっぱり1番だよね。
いるんだね、好きな人。
その人には好かれていないのかな。

「両思いって、そう簡単じゃないもんねー。でも向こうも黒尾君のこと好きかもしれないじゃん?」
「いや、それはない。」

黒尾君は戸惑うそぶりもなく言い切った。
好きな人、彼氏とかいたりするやつなのかな?

「その人彼氏いるの?」
「いや、いねぇと思うけど。」
「ん?じゃあまだチャンスあるじゃん。黒尾君のこと好きかもだよ?」
「それはない。」

やはりはっきりと言い切る。自信があるのかな?そこは希望持とうよ?うん。

黒尾君を見つめていれば、何故か彼に睨まれた。

「ん?なに?」
「べつに。」

どことなく機嫌の悪い黒尾君から部誌を貰い、一緒に職員室へと足を進めた。






  (揺らぐなら何度もアプローチするっての。)  (どんな人が好きなのかな?)










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