「好きでモテてるんじゃねえよ。」

隣でアイスを食べる鈴音が唐突に発した言葉。

「なに、どうしたの?」

食べ終わったアイスの蓋を閉じて、彼女に向き直る。

「いやー、絶対言わないセリフだよねー、って思って。」

溶けきってしまったアイスを混ぜながら、笑顔で言った。
そうだね、言わないセリフだけども。

「遠回しにモテないと言われてる気分。」
「あははー、細かいことは気にしないのー。」

鈴音は笑いながらそう言って、俺が食べ終わったアイスの容器を奪う。

「力が絶対に言わないであろうセリフゲーム!」
「長い。」
「それでは開始したいと思います!」

まだ始まってなかったんだ
・・・とは言わないでおこう。
1人で拍手をして盛り上がる鈴音。
とても楽しそうだ。

「はい!」
「はい。」

勢いよく手を挙げてこちらを見た。

「はい!はいはい!」
「え?挙手制なの?」
「はいはいはーい!」

こちらの問いは無視したまま、手を挙げている鈴音。
うーん?つまり?

「はい、鈴音さん?」
「『清水先輩の情報が欲しい?五万でいいよ。』」
「そんなこと言わないよ!」
「だから言わないゲームだよ!」

挙手するから名指ししてくれってことみたいだ。名前呼んだ瞬間、なぜかドヤ顔で鈴音は言ってきた。
言わないから。
清水先輩の情報とか。
なんの情報だよ。無いよ。

「はい!」
「はい、鈴音さん。」

一度ハマったら飽きるまでやめないからな。付き合ってあげよう。

「『次期主将?ま、俺の実力だったら当然だろ?』」
「思ってないから!言わないから!」
「だからー。言わないゲーム!」
「それでもそういう発言自体やめなさい!」

主将なんて絶対向いてないし、俺は一度逃げたし。実力なんてないし誇れやしない。
田中みたいなスパイクも、西谷みたいなレシーブも出来ない。

「はーい!」
「今度はなに?鈴音。」
「『鈴音なら俺の横で寝てるよ。』」
「やめなさいっ!」

つい机を叩いて立ち上がってしまった。
意味わかって言ってるのか?

「お昼寝日和だよねー。」
「へ?」

溶け切ったアイスを混ぜながら鈴音は言う。
そうか。眠いのか。

「ていうか力選手も何か言ってよー!」
「俺が絶対言わないゲームでしょ?そしたら発言した時点で言っちゃったことになるけど。」

そう答えれば、混ぜていた手を止めて、こちらを見る。
そして俺が食べた方のアイスの容器を叩く。

「正解!」
「それボタンじゃないよ。」
「縁下スイッチ。」
「はい?」

何か閃いた顔でうふふ、と笑う。怖い。この子と付き合ってもう一年くらい経つけど、たまに発言が飛びすぎててこわい。

「縁下スイッチ、え!
『選べよ。優しい俺か、ドSな俺か。』」
「・・・まだつづいてるの、それ。」

教育番組とか子供向けの番組であったよな。
お父さんスイッチ。
あのお父さん、たまに堅物っぽい人とか出てて、すごいな、と感心する。

見た目で判断するのは良くないことだけど。

「縁下スイッチ、ん!
『ん?甘えたいの?しょうがないな。』」
「縁下スイッチ、の!
『のぞき?ベストプレイス知ってるけど?』」

・・・発想が酷すぎる。
のぞき?なにを覗くんだよ。
誰を覗くんだよ。

「縁下スイッチ、し!
『白色って、なんか燃えるよね。』」

楽しそうに話す鈴音に、麦茶を差し出す。
ありがと!と短く返事をし、麦茶に口をつける。

からん、と氷の動く音。

「んー!麦茶おいしい!」
「飽きたんでしょ?アイス。」
「正解!」

またアイスの容器をぺこんと叩く。
どうも夏は暑いから、アイスが食べたくなる。ここ最近食べているから、飽きるのも分からなくもないけれど、言い出しっぺは本人だ。

そして極め付けにはクーラーの効いた涼しい部屋。
暑いと騒ぐから、いつもつけている。

最高にリラックスできる環境で、鈴音はいつもの変人ぶりを最大限に発揮している。

「あ!
力が邪魔するから、た、忘れちゃったでしょ!」
「じゃあもうおしまいでいいんじゃない?」
「だめでーす!」

ゆるく続くこの会話に、つい笑ってしまう。

「ちょっと!なに笑ってるのさ!」
「ごめんごめん。で、思い出した?」

少しにやけ顔のまま聞けば、鈴音はまだ!と元気に答える。
た。か。
た、だろ?

「じゃあ、俺に言わせてよ。」
「お!よしきたどーぞ!」

笑顔で言う鈴音の手を握る。
普段こんなこともしない。
恥ずかしいから。まわりの目が気になるから。

深呼吸をする。
言ってもいいものか。
重たくならないか?重いかもしれない。

「た・・・」
「うん、」

西谷とか、サラッと言いそうなんだよな、呼吸するみたいに。サラッと。

「ただ・・・」
「うい。」

簡単だ。簡単な言葉だ。
今の思いを伝えるだけ。

ドン引きされないか?

ーーただ、愛してる、
      と伝えたいだけです。

喉元を突っかかったまま、その言葉はでなかった。

「・・・無理。」
「えー!気になるよー!」
「内緒。」

片付けてくる、とアイスのゴミを手にして部屋を出た。
戻ったらしつこく聞かれるだろうけど、絶対に言ってやらない。








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