「あ!タダノブカツ君だ!」

梟谷グループ合同合宿。第三体育館に現れた月島に、桃谷は笑顔で手を振る。

「今日も来てくれた!」

一方の月島は、少し嫌な顔をして「どうも」と答える。

「桃谷、月島だよ。」
「よう!ツッキー!」

そこに赤葦が訂正する。
そして嬉しそうに手を振るのは木兎。
黒尾はドリンクを飲みながら「ういー、」と小さく手を上げた。

「突き島!」
「多分違うと思う。」

赤葦の訂正も虚しく、別の変換をする桃谷。
そして月島の脇腹を突く。

「いっ・・・!ちょっとやめてもらえません?」
「突っきー!突き突き!」
「ちょっと!」

月島の防御も虚しく、桃谷の突きは中々に鋭い。


「桃谷、やめろ。」
「ういー。」

主将、黒尾に制止され、手を止めコートの端に行く。そして鞄からタオルを出して黒尾に渡す。

「ていうかあの人またいるんですか?」
「なんか他のマネージャー達にここにいろって言われたらしいよ。」
「厄介払いってやつですかね。」

月島は面倒臭そうに桃谷を見ながら赤葦に聞いた。赤葦はその問いに苦笑いで返す。

「厄介払いとは何さ!」
「地獄耳かよ。」
「なに?!」
「別に何でもないです。」

今あの人大分遠くにいたのに。
恐ろしい聴力だな。
月島は内心そう思いながらも、口には出さず、面倒だな、と判断する。

「でも確かに何でここにいるんだ?桃谷。」
「だって雪絵先輩に『ちょっと邪魔だから木兎のとこ行ってて』って言われたんだもん。」
「マジか!おまえうるさいもんな!」
「その言葉ブーメランですよ木兎さん!」

ははは、と笑いながら桃谷の肩を叩く木兎。互いに失礼なことを言っているのだが、気にしていない。

「あと首疲れるからちょっと屈んでもらえません?」
「めんどいから嫌だ!」
「後輩に優しくない先輩ですね!」

180センチオーバーの相手に150センチはとても首が疲れる。

「確かに俺は三年生で先輩だが!桃谷は俺の後輩じゃない!だから気は使わねぇ!!」
「力強い言い方が高得点です!許す!」
「まじか!許された!」

胸を張って言う木兎に桃谷は親指を立てる。



「あの赤葦さん、」
「あー・・・いつもあんな感じだよ。」
「そうですか。変わってますね。」
「まぁ、今に始まったことじゃないから。」

少し離れたところで月島と赤葦は言う。

「そんなことより主将!」
「んあ?」
「何でうちには可愛いマネージャーいないんです?」
「しらね。」

割と暴走気味の性格の桃谷を軽くあしらう黒尾。少しでも乗っかってしまうと、話が延々と終わらない。被害者は主に山本。
女子に過剰にテンパる山本が唯一話せる女子。

「生足見たい!」
「女バレ行け。」
「プレーはしない!応援する!」
「じゃあ観に行きゃいいだろ。」

あくまでも短く返答し、黒尾は差し出されたドリンクを口にする。



「赤葦さん。」
「ん?」
「あの人、変だけどしっかり仕事してるんですね。」
「そうだね。桃谷は頑張り屋だから。」
「え?そ、そうなんですか。」

未だ遠くで見つめる赤葦と月島。
得体の知れないものを見る目で見ていた月島だが、 褒める赤葦に動揺が隠せない。

「いや待て桃谷。応援なら俺の応援してくれよ!」
「確かに私は後輩ですが、木兎さんは私の先輩じゃないので応援はしない!」
「何でだよっ!!」
「おー、もっと言ってやれ桃谷。」
「わーい褒められた!」

先ほど言われた言葉を言い返す桃谷。それに気づかず悔しがる木兎。

「いーじゃん応援くらい!俺!エースだぞ!」
「うちのエースは山本だもーん。」
「そしてうちのスーパーリベロに拾われな。」
「うるせ!拾われねぇし!」
「その前にうちの主将のブロックに止められちゃうんだ!」
「止められないから!俺最強だから!な!赤葦!!」
「そうですね、木兎さん。」

いつの間にか話に混ざる赤葦。

「ほーら!うちのセッターが言うんだから間違いないもんねー!」
「うちの研磨だって、なんか、その、す、凄いことするから!」
「桃谷、研磨が嫌がるからやめなさい。」

若干のメンバー自慢が始まる中、月島だけが輪に入らず遠くから眺めていた。

「いったい!おでこべしんって!おでこ!」
「わり、つい。」
「つい?!主将が女の子に手をあげるなんて!」
「桃谷女に見られてないんじゃねーの?」
「待て待て木兎。
マネージャーも部員も仲間、女子だから優しくする、とか平等じゃないだろ。」
「でも私悪いこと言ってないのに叩いた!」
「叩きやすかったから。」
「それは理由になりません!」

黒尾に叩かれた額をさすりながら、桃谷は赤葦の隣に移動する。


「ねえ、赤葦、大丈夫かな?おでこ、ある?」
「待て待て、無くなったみたいな言い方すんな。」
「大丈夫、かわいいよ。」
「よかった。おでこなくなったら大変だからね。」
「そんな簡単に無くならないだろ!」
「木兎にやられたら死んでたかもな。」
「木兎さんサイテー!」
「待って!俺まだ何もしてないから!
って!その前にさっき赤葦なんかさらっと言ったよな!!!」
「いえ特には?」

内心心の中では大胆発言したな、と思っていたメンバー達だったが、木兎は我慢ができず、話を掘り返す。

「え?!あかーし可愛いとか言っちゃうタイプだったっけ?!」
「えー?深い意味ないんじゃないですかー?女子の言う『パセリかわいい!』と一緒ですよ!ね、赤葦!」
「パセリは別に可愛くないけど、桃谷は可愛いと思うよ。」
「え?!」
「こらこらうちのマネージャー口説くのやめてもらえません?」
「何言ってるんですか、黒尾さん。メンバーみんな平等なんですよね。だったら俺が付き合っても特に問題ありませんよね?女子だから贔屓するの良くないんですよね?過保護すぎるのもよくありませんよ。」
「言うねぇ、赤葦。」

割と本気トーンで言う赤葦。赤葦の隣にいた桃谷を自分の後ろへと下がらせる黒尾。

「え?!待って赤葦!俺ちょっとよくわかんない!」
「俺、桃谷のこと好きなんですよね。」
「・・・。」
「え?!マジか!ガチでか!?」
「はい。」
「待て待て赤葦クン?」
「なんですか黒尾さん。」
「桃谷息してねえけど。」

当然の告白に、桃谷は固まったまま動かない。

「大丈夫?桃谷キスする?」
「はぁ?!」
「おおおお落ち着け黒尾!あ!か!あ!し!付き合ってない人とキスはしちゃいけないんだぞ!」
「そうですね。大丈夫ですよ、そのうち俺の「ひゃああああ!つ、月島にする!私!月島にする!」

黒尾の元を離れ、携帯をいじっていた月島の腕を掴む。突然の出来事で、月島は逃げようと腕を動かす。

「ちょっと!何するんですか!」
「うるさい!1人だけ安全圏にいてさ!」
「安全もなにも僕関係ないじゃないですか!」
「関係ないよ?!でも私月島と付き合う!決めた!」
「すみません僕は嫌です。」
「ドライ!」

赤葦の突然の告白に動揺を隠せなくなった桃谷は、1番害のないだろう月島に頼み込む。

「僕桃谷さんのことよく知りませんし。性格的に無理です。」
「なんでよ!知らないとか言いながら性格無理とか意味わかんない!これから知ってけばいーじゃん!」
「いや、会って数日で好きになれませんから。」
「なんで!私の何がダメなの?!」
「お前別れ持ちかけられた彼女かよ。」
「桃谷俺じゃダメなの?」
「赤葦は黙って!」

嫌がる月島の腕をがっちりと押さえつける。

「私だって脱いだら、こう・・・すごいんだよ!」
「ボキャブラリー・・・」
「いや普通だから。」
「別に関係なくないですか?」
「そうやって大きければ正義みたいな発言嫌い!」
「いやあなたが言ったんでしょう。」
「収まるくらいが丁度いいだろ。」
「でも桃谷別に普通じゃね?」
「サイテー!夜久先輩にチクる!」
「ねえ桃谷、返事」
「え、え。うう。月島ぁ!」
「無理です。」




それからこの言い合いは、たまたま通りかかったマネージャーに止められるまで続いたとか、続かないとか・・・。







back |

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -