「楽しかったぜ!」
10月10日。
いつも通り部活をやった後に、西谷の誕生日会を開いた。
結果は大成功だった、と思う。
澤村先輩の指示で縁下と早めに抜けて準備した甲斐があった。
彼はすごく喜んでくれたし、プレゼントだって渡した。悩みに悩んだ結果、スポーツタオルになってしまったが。
「サンキューな、桃谷。」
「え?何が。」
「準備してくれてたんだろ、力と。」
「喜んでもらえてよかったよ。」
私が勝手にやったことだ。
せめて飾り付けとかの準備をしたかった。
好きな人の誕生日会の準備ができるなんて、最高じゃないか。輪つなぎなんて張り切って作り過ぎちゃって、縁下びっくりしてたし。
「飾り付け全部お前が作ったんだろ?ホント1つのことにのめり込むよな、お前。」
「それは西谷もそうでしょ?」
バレー、と付け足す。
謹慎中も、やってたでしょ。青アザたくさん作って。私の中じゃ、もう相当レベルが高いプレーヤーなのに、立ち止まることなく、上を目指す。・・・みんなに言えることだけど。
それでも、私は西谷が1番かっこいいと思ったんだ。かっこいい。そう思って、目で追って、それがどんな感情なのか気づく。
「違いねーな。」
西谷はそう答えて笑う。
誕生日会は思った以上に盛り上がり、中々にいい時間になっていた。
元々方向が同じなこともあり、彼が送ってくれることになった。
「もう家までそんなに遠くないから、ここでいいよ。」
十字路で足を止める。
2人で帰れるのはすごく嬉しいんだけど、今日は主役なのだ。
わざわざそんなことしなくていいのに。
「あと15分は遠いだろ。」
「でも大丈夫だよ。せっかくの誕生日なのに、悪いよ。」
「俺が好きでやってることなんだから、お前が気にすることじゃねぇよ。」
西谷はそう言って、私の手を握った。
「え?!に、西谷、」
「桃谷頑固だから、中々折れなさそうだし。」
「え、な、なにが。」
「こうやって、手引っ張ってけば桃谷が嫌がっても送ってけるだろ?」
また笑って西谷は言った。
手を握ったまま西谷は歩き出す。
嫌がるわけがないのに。
「・・・帰り遅くなっちゃうよ?」
「俺はいーんだよ。」
なんて返せばいいだろう。
強く握られた手は、握り返すべきなのだろうか。
手を引っ張るだけなら、手首掴めばよかったんじゃないの?
手、暖かい。
「・・・ありがと。」
「おう!」
胸の高鳴りを、なんとか抑えようと下唇を噛む。凄く、どきどきしている。
ねえ西谷、どんな気持ちで手を握ってるの?
「桃谷の手、あったかいな。」
西谷は小さく呟いて、指を絡めた。
手がびくついてしまったが、されるがままなにも出来ない。
「なぁ桃谷。」
「え!う、あ。はい!」
少しペースを落としながら、西谷は口を開いた。こっちはもう心臓が持ちそうになくて必死なのに。
「もっかい、言ってくれよ。」
「え?」
「もっかい、誕生日。祝ってくれ。」
中々珍しいリクエストに、少し間を空けてしまう。そしてゆっくり息を吐いてから彼のご要望に答える。
「お誕生日、おめでとう。」
「おう、サンキュー。」
満足そうにまた彼は笑った。
胸が締め付けられる。鼓動が早まる。心臓が、出てしまはないだろうか。
「今日誕生日だから、わがまま言ってもいいか?」
「、わ、私に出来ることなら。」
出来ることなんて限られている。でも、それしか返せない。
「独り占めしたい」
「・・・え?」
「桃谷のこと、独り占めしたい。」
ゆっくりと吐き出される言葉とは裏腹に、握る手が強まるのを感じる。
「え、・・ひ、独り占め、って。」
「俺、千鳥山の時からお前のこと好きだったんだけど。」
「え。」
足を止める。
それはどういうこと?
「わかんねーか?いつもドリンクとか、タオルとか、桃谷の所に取りに行ってたろ。」
握った手は離さないままで西谷は告げる。
「よく登校する時に出会すのも、偶然じゃなくて調べてたし。」
「え。でも。」
「ずっと片思いかと思ってたけど、わり、力からなんとなく聞いた。」
咄嗟に逃げようとした手を、さらに強く握られる。
「自分で言うのもなんだけど、俺、待てない性格だからよ。」
「好きだ。」
なんの裏の言葉も隠していない純粋な言葉。速まる鼓動と手の温度。
「わ、わたし、」
中学で試合を観て、かっこいい、と思った。
烏野を受けるとこっそり聞いて受験した。
清水先輩みたいな人が好きらしく落胆した。
何度鏡を見ても似てる要素なんて全くなくて、絶望して、この想いは消してしまおうと決意した。
でも。
今、
「なぁ桃谷。」
「は、。はい、」
「答えを聞かせてくれ。」
握られた手を握り返そうとしたものの、力が入らない。だって清水先輩。
好きなんでしょ?
「桃谷。」
「ま。まって、」
情報が追いつかない。
さっきなんて言ったの?ー好きだ?
千鳥山の時から?それ一年以上前じゃないか。
ずっと片思いかと思ってた?
それは、私の方じゃないの?
「着いたぞ。」
「・・・へ?」
前に目を向ければ、桃谷と書かれた表札。西谷は手を離す。
「あ」
「じゃあな。」
「え、」
まだ何も言ってないのに。
「待って!まだ何も、」
「その顔見ただけで答えは十分わかったぜ。」
おやすみ。
西谷は頭を撫でてきた。
そして背を向け走って行った。
「・・・ずるい。」