先日、渡が彼女ちゃんと1周年を迎えたらしい。昨日は金田一に彼女ができた。国見は中学から付き合っている人がいる。京谷は幼なじみといい感じだ。多分付き合う。

「彼女ってどうやってできるわけ?」

それを踏まえた上での矢巾の発言である。松川先輩には大学生の彼女さん。花巻先輩はもう直ぐで付き合うらしい。岩泉先輩は本人自覚がないだけでお相手がいらっしゃる。

「俺、渡より先に彼女作る自信あったんだけどなぁー。」


はぁー、と負荷するため息を吐き、机にうなだれる。口にこそ言わないが、1周年ってことは1年付き合ってるんだよ?なんで知らなかったんだろう。1年前から負けてるってことだよ?2人はそういう会話するまでの親しさではないのだろうか・・・。


「どう考えても矢巾が渡に勝てる要素なくない?」
「お前ちょっとストレートすぎじゃね?」
「渡ってば、勉強できるし優しいし、紳士だし。」

彼女ちゃん超絶羨ましい。あんな彼氏欲しい。末長くお幸せに!
だが矢巾は何か不満があるみたいで、こちらを睨んでくる。

「なによ。」
「べっつにー。はぁー。彼女欲しいわー。コンビニで売ってねぇかな。」
「不良品ならあるんじゃないかな。大丈夫?矢巾のお小遣いで買えるかな?」
「は、ふざけんな。こう見えてめっちゃ貯金してっから。」


いやそもそもコンビニじゃ買えないし、売っていても買わないし。
まず第一にお金で手に入れた交際相手ってどうなの?相性とか、価値感とか。『手、繋ぐ?500円ね』とか毎回入金システムだったらどうすんのさ。お金なんて直ぐなくなるよ。レンタル彼女ってややつか。ないない、ありえない。


「渡は仕方ないとして、金田一に負けるなんて。」
「金田一は性格いいもん。」
「おいちょっと待て。その言い方じゃ俺が性格悪いみたいだろ。」

また不満そうに言ってきたので「あはは」と愛想笑いを返した。今一度矢巾は不意ため息を吐く。

「ため息ばっかりしてたら幸せ逃げちゃうよ。」
「彼女がいない時点で俺の不幸は決まったようなもんだろ。」
「及川先輩だって彼女いないよ。大丈夫。」
「大丈夫じゃねーし。及川さんモテるし彼女なんてすぐできるだろ。」

たまたまだよ。
たまたま今、レギュラー陣皆色恋してるだけ。矢巾が今彼女欲しくて欲しくてたまらない時期なだけ。

「大丈夫だよ。及川先輩どうせすぐ別れる。」
「お前なんつーこと言うんだよ。」
「え?あの人誰でも良いってタイプじゃないの?」

答えれば、矢巾はうぐ、と言葉を詰まらせた。おいおい、後輩なら真っ先にそんな事ないって否定しなきゃ。ふっかけたのは私だけどね。


「すぐ別れちゃうのはアレだろ・・・。バレーと私、どっちが大事なの!とな聞いてくる系だから・・・。」
「俺、鈴音ちゃんならいつでもウェルカムだよー。とか言ってたけど。」
「・・・。・・・、及川さん。」

矢巾はがくりと肩を落とし、もう何度目かもわからないため息をする。
なんだか少し可哀想になったので、肩を軽く叩いた。そしたらジト目でこちらを見てきた。そして何かを小声で呟く。

「なに?矢巾。」
「・・・お前、及川さんと付き合ったりしてないよな。」


何を突然言うのかと思えば。
及川先輩はない。良い先輩であり、主将ではあるが、全くもってそう言う対象ではない。
なので、いつでもウェルカムと言われた時も、丁重にお断りした。好きでもない人とは付き合えない。付き合ってから芽生える恋、とか信じないタイプ。想っている人いるし、心変わりなんてありえない。

「ないない。」

及川先輩はありえない。というか彼以外ありえない。

「お・・・俺とか・・・どーよ?」
「ねーよ。」

思えばこの関係も高1の時から変わってない。同じクラスで他愛ない会話をして、部活に行って。

「そ・・、だ・・・だよな!」
「あ、ごめん。今何か言った?」
「は?!」
「聞いてなかった。」

なんかもう部活仲間、が定着してしまっていて、一歩、踏み出せない。勇気が出ない。多分、彼にとっては恋愛対象ではないのだろう。


「いや・・・だから。その。」
「うん。」


だって対象になっているなら、彼女欲しい、なんて相談しないよね 。

「だから・・・俺とか、」
「はい。」


「っ言えるかっての!聞いとけのバカ!」
「バカって・・・!矢巾なんて一生彼女できなきゃいいんだよ!」
「うるせ!」

彼との距離が縮まるのはまだまだ先の話。・・・だと思う。









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