「さて、会議を始めたいと思います。」

部活が終わり、女子マネージャーでファミレスに入り、桃谷が不意に発した言葉である。

「え?何々?何の会議ー?」

本日二つ目となるパフェを頬張りながら、白福が問う。

「第一次梟谷総選挙!」

桃谷は親指を立てながら、目の前に座る2人のマネージャーに告げる。
手に持っていた紅茶を置いたのは雀田。

「総選挙?」

それって会議なのか?などと疑問を抱いたが、突っ込むのはやめる。
そう!と元気に答える桃谷。

「最近総選挙たるものが流行ってるじゃん!」
「大分前だよそれ。」
「すみませーん、わらび餅ソフトひとつー。」

紙とペンを出して、桃谷は続ける。近年、アイドル界などで繰り広げられている総選挙。

「ラインナップはこちらです。」

木兎を筆頭としたスタンディングメンバー。

「あんた鷲尾書けないの?」
「小見なら書けるんだけどね。」
「それ書けないとやばいでしょ。」

小、見、と開いた下のスペースにでかでかと書く桃谷。

「名前が簡単っていいよねー。」
「バランス悪く見えるから嫌いって言ってたよ。」
「すみませーん、単品ホイップ追加でー。」

白福は店員を呼び止め、追加注文する。

「で、我が梟谷男子バレー部でもやろうよって話。(わらび餅にホイップかよ。)」

内心うげえ、と嗚咽を漏らしながら桃谷は告げる。

そうね、と雀田は呟く。

「えー?じゃあ私は、赤葦かなぁ?」

先に口を開いたのは白福。
ホイップを口にし、「おいしっ」と呟く。

「赤葦ね、はい、赤葦に1票。(おい、単品で行くのか?!ホイップ!単品でかよ!)」

白福の行動に、ものすごくツッコミを入れたいが、そこには触れないように、桃谷は赤葦と書かれた横に一を書く。

「かおりんは?」
「そうねー・・・鷲尾かな。」
「え?!鷲尾?!」
「え?なんでそんな驚いてるのよ」

雀田の発言に対し、腑に落ちない顔で鷲尾の横に一を書き足す。

「鷲尾かぁ。木兎で来るとおもったわー。」
「木兎?ダメダメあの末っ子くんは。疲れる。」
「わー、かおりん超絶キレキレストレート。」

鷲尾も悪く無いが、
やはりエースとセッターか!とか盛り上がるところだとおもったのに。

「そういう鈴音はどうなのよ。」
「かおりー、聞くまでもないでしょー。」

それもそうね、と雀田は白福に同意し、紙に線を引こうとする。

「わたし?わたしは赤葦だよ。」
「「はぁ?!」」
「はん?」
「あ、すみません、欲張りピザ一つ。」

ペンを置き、だん、と机を叩いて立ち上がる雀田。

「あんた何言ってんの?!赤葦?!そこは彼氏でしょ?!あと雪絵食べ過ぎ!」
「えー、秋紀は彼氏だけどかっこいいのは赤葦でしょ。」
「いや末っ子木兎で際立ってんじゃなぁーい?あと別に食べ過ぎじゃないもーん成長期だもーん。」
「かおりんの言葉を代弁してあげるね。
『豚になればいい』と思うの。」
「悪いけど、豚は筋肉質なのよー、脂肪じゃないから、痛くもかゆくもなぁーい。」
「じゃあアザラシになっちゃえっ」
「アザラシ好きよー。鈴音みたいでー。」
「え?なにどういうこと?」
「ちょっと話すり替えないで!」

話が脱線して行く中、立ち上がったままの雀田が話を戻す。
デザート4品締めにピザ(ビッグサイズ)を食べる白福も白福だが、
お付き合いしている異性を一番かっこいいと言わない桃谷も桃谷だ。

「落ち着いて、鈴音。」
「え?かおりん、見て、わたしこんなに冷静。」
「冷静に私の頬をつねるのー?」
「怖い、雪声ドス効いてる。」

白福に伸びた桃谷の手を外す雀田。

「ていうかさぁ?3人じゃ総選挙無理でしょ。」
「今の所赤葦二票だよ。」
「あんた本当に赤葦なの?」
「かっこいいじゃん、2年のくせに。」
「あんた褒めてんだか腹立ててんだかわかんないわ。」

赤葦の横がTの字になる。
そして運ばれてきたピザを白福は美味しそうに頬張る。

「鈴音さんはね、木兎、髪下ろせばイケメンだと思うの。あと騒がなければ。」
「それもう木兎じゃないじゃん。」
「あ、じゃあ赤葦足して割る?赤葦8割。」
「それただの赤葦ー。」

鈴音は木兎の横に赤葦+8、と付け足す。

「じゃあ後ろのボーイズに聞いてみる?」

ね、ボーイズ。と雀田たちの後ろの方を見る。つられて後ろを振り向けば、総選挙のメンバー、数人が静かに座っていた。

「え、ちょっとやだいつからいたの?!」
「木兎やけに静かだねー。」
「割と序盤からいたもんね!」

雀田、白福、桃谷の順で口を開く。触れられている男性陣は、無言でジュースを飲むだけ。

「ねぇ、秋紀は誰派?」
「・・・俺に聞くなよ。」

背を向けている木葉の肩を叩きながら桃谷は言う。それに対して目を合わせることなく、気まずそうに木葉は答える。

「いるなら声かければよかったのに。」
「いやこっちだってかけたかったけど、桃谷が喋るなってアピるから。」

雀田が声をかければ、小見が答える。
総選挙が始まる少し前から来ていたのだが、黙って話を聞いていた。
木兎が静かなのも珍しかったが、
木葉と木兎のダメージが大きい。

「それはいいけど、これどうすんの。しょぼくれ以前の問題なんだけど。」

木葉が赤葦の横で頭を伏せたままの木兎を指差す。

「おやおや木兎はへこんでらっしゃる。」
「えー、めんどくさあーい。」
「雪絵、ストレートすぎるわよ。」

試合でしょぼくれたらとても面倒だが、試合が関係なければ、女子マネは放置である。

「あかーしばっかじゃん。そこは嘘でも木兎!って言うところ!な!赤葦!」

だん、と机を叩き、世話の焼ける末っ子エースは叫ぶ。

「嘘でもいいんですか木兎さん。」
「嘘だったら言う必要ないじゃーん。」
「あとで嘘だよって言われたらあんた余計へこむでしょ。」

ポテトを食べながら言う赤葦、ピザを食べながら言う白福、紅茶を飲みながら言う雀田。

「言葉の綾だろー!喋るときは食べないのー!真面目な話なんだからー!なー!鈴音ー!鈴音なら優しくしてくれるだろー!」
「ごめんね、木兎。私、秋紀にしか優しくしない主義なの。」
「彼氏の特権かよー!」

そう言って、赤葦のポテトを雑に掴み口に入れる。

「泥棒ですよ。」
「赤葦私にも頂戴。」
「あなたが食べると全部なくなるので嫌です。」
「木兎が食べてもなくなるでしょ!」
「あんたは食いすぎだって言ってんの!」

木兎の届かないところにポテトを移動する赤葦。さっきはハンバーグを半分持ってかれた。強奪か。先輩の特権か。どちらにせよ解せない。

「で、秋紀は私だけに優しければいーの!」
「っ、おま。・・・ばっ・・・。でもかっこいいのは赤葦なんだろ。」

木葉の隣に桃谷は座って言った。だが先ほどの赤葦かっこいいが、大分傷ついたのか、素直に喜べない。

「ま、赤葦はかっこいいじゃん。」
「鈴音そこはやっぱり木葉だよ、つっーとこだろ!」
「顔は赤葦。」
「真顔で言ってやんなよ。」

見かねた木兎と小見がフォローに入る。
しかし桃谷の意見は変わらない。

「すみません、俺、彼女いるんで。」
「知ってますぅ、音駒の二年生でしょー?あの超絶可愛い女の子でしょー?黒尾と孤爪のガードよく崩れたよね。」
「ま、頑張りましたので。」

ついこの間の夏合宿でやっと結ばれた相手がいる。何度か会う機会があり、連絡したり、2人で遊んだりしたが、嗅ぎつけた幼馴染2人(主にトサカ)に妨害を受け、一年かかってしまった。
付き合いたてほやほやだ。

「ま、まあまあ。で、総選挙?俺はもちろん木兎だと思うぜ?お前、年下からめっちゃモテてるよな。」

慌てて小見が話を戻す。

「マジで?!え?まじ?俺、後輩人気高いの?!」
「まぁ、エースってかっこいいよね。」
「ヘイヘーイ!俺さぁーいきょー!」
「(最強に軽い)」

一瞬で調子を戻した木兎は、また赤葦のポテトを強奪する。

「はいはい、木兎に残りの奴ら全員アンド無限ね。おめでとう木兎。」

雀田がノートにでかでかと記す。

「木兎のことは嫌いでも、バレー部のことは嫌いにならないでください、と。」

名前の横にセリフを付け足して、桃谷はノートを閉じる。

「いやぁー!実りのある会議だったね。」

ねーよ、
2名を除いて、みんな心の中で呟いたのであった。







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