部活も引退し、進路も決まった。
あとは気ままに卒業式を迎えるだけとなった。
とても充実した高校生活を送れたと思う。

告白して振られたこともあったし、逆に告白されてお付き合いしたこともあった。
今そのお付き合いしている人とも、もう直ぐ一年になる。
一つ年下の、バレー部。
次期主将と噂される彼。

出会いは委員会で、きっかけは爽やかなクラスメイト。
  「いんやー、俺としては良いキューピッドになれたべ?」
なんて爽やかな笑顔で定期的に言われるので、彼には頭が上がらない。
なぜバレてしまったのかは置いておいて、だ。
そんな彼らはもう直ぐ大会があるらしく、観に行くための準備もした。

「遠いし、来なくても良いですよ」

なんて少し悲しいことを言われたけど、いくもん。
心の中でそう唱えながら、彼には行かない程で話を進めている。
今日は久々のデート。
練習続きで疲れているだろうし、場所は私の家だ。

「いいんですか、本当にお邪魔しちゃって。」
「いーのいーの!縁下くん疲れてるでしょ?」

どうぞ、と昨日焼いたクッキーと紅茶を出す。
頂きます、と律儀にお辞儀をして、彼は一口つまんだ。

「お口に合うといいけど。」
「美味しいですよ。」

そんな会話をしながら、彼の横に腰かけた。
さっきビデオ屋で借りた映画をつける。
海外の魔法使いもの。
ファンタジーが好き。
なんでもいいですよ、と言われたので、前々から気になっていたそれを借りた。

「魔法かぁ、魔法使いたいなぁ。」
「魔法ですか?」

大学は思い切って東京にした。
行きたい学科がそこしかなかったのと、自分の限界を超えたかったから。

「縁下くんは魔法使えたらどうする?」

ありきたりな質問。
そうですね、と彼は首をひねる。
魔法が使えたら。
そんな非、現実的なこと、ありえないけれど。ありえないからこそ面白いのだ。

「そうですね、先輩と同じ大学に行きたいですかね。」
「縁下くんの成績なら余裕だよー。」

共に進学クラスだし、彼は頭もいい。
それに、同じところ行きます、って言ってくれたじゃないか。

「頑張ります。」
「ゴールデンウィークとか長期休みとか帰ってくるよ?」

なんて言えば、ありがとうございます、と彼は笑う。

「先輩はどうします?」
「どうって?」
「魔法が使えたら、どうします?」

クッキーを口にしながら、彼が言う。
そんなの決まってる。
怒られるけど、

「留年しちゃおっかな。」
「はい?」
「一年留年する。そしたら縁下くんと卒業できる。」

一緒に卒業して、一緒に大学行って、また一緒に卒業して。
これからも続くであろう幸せを、2人で、刻んで行きたい。

「何言ってるんですか、卒業しましょう。」
「言ってみただけー。」

いいですね、それ、とか言ってくれないかなぁ、たまには。
現実主義者だよなぁ。

「先輩と同じ大学に行く。俺に目標を作らせてください。」
「ふふ、それ目標なの?」
「中々重大な目標ですよ?」

縁下くんの言葉に、また笑ってしまう。嬉しい目標だ。

「ねえ縁下くん。」
「はい。」
「もう直ぐ、一年になるね。」

そう告げれば、彼は手に持っていたコップを置く。

「・・・そうですね。」

早いな、と縁下くんは呟いて、カレンダーを確認する。
丁度去年のこれぐらいの時期に、
菅原くんに体育館裏に呼び出してもらって、告白した。
シンプルに「好きです、付き合ってください。」と。
真っ赤になりながら、返事をくれた縁下くんの顔をまだ覚えている。
そうか、もう1年か。

「どこか行きたい所とかあります?」

縁下くんはこちらに向き直してから聞いた。

「特にないかな。」
「無い、ですか。」
「縁下くんといれればそれだけでいいよ、私。」

そう言って笑えば、彼は顔をそらしてしまう。照れているのだって、知っている。

「先輩はずるい。」
「思ったこと言っただけだよ。」

そう答えれば、なんだか腑に落ちない顔でこちらを見た。

「どうしたの?」
「1年経つんですし・・・」
「うん。」

そう言ってこちらを見たまま黙ってしまう。
頬はまだ赤いままで、動かない。

「縁下くん?」
「・・・」
「縁下くーん?どした?」

もう一度名前を呼べば、彼は頭を掻いて、深く息を吐いた。
そしてまたこちらを見た。

「目、閉じてもらってもいいですか?」
「?わかった。」

言われた通りに目を瞑る。
「本当に閉じるんだ」と彼は小さく声を漏らす。
肩に手が当てられるのがわかった。
少し震えているみたいだ。

「縁下くん、」
「もう少し待ってください。」
「あ。はい。」

すごい、まだ震えてる、なんて思いながら目を瞑っていれば、唇に何か押し当てられる感覚。
柔らかいそれがなんなのか、すぐにわかった。
ゆっくり目を開ければ、意外と近い彼の顔。

「・・・いま、」
「・・・もうすぐ、1年、です、し。」

顔をそらしながら縁下くんは言った。
真っ赤な顔に、こちらまで恥ずかしくなってきた。

もうすぐ、であって、まだ1年ではないがそこはいいのだろうか。

「・・・かい」
「・・・はい?」

縁下くんの手に触る。

「・・・もういっかい。」

そう言えば、彼は小さく息を吐いて
先輩はずるい、とつぶやいた。








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