桃谷先輩は俺に優しくない。

「あ、こら五色、タオルとか散らかしっぱなし。」

ミーティングを終え、部室の端でボーッとしてれば、全く、と桃谷先輩はタオルを持ってきてくれる。

「あ!す、すみません!」

慌ててそれをカバンにぶっこむ。
カバンの中が凄く酷いことになっているが、見られないように急いで閉めた。

「先輩とかも使う共同スペースなんだから、あんまり散らかさないの。」

先輩はそう言って椅子に腰掛け、部誌を広げる。トントン、とシャーペンを机に叩きながら、んー、と唸り声を上げる。

「鈴音ちゃんってさぁー?工に厳しいよね。」

天童さんが、先輩の肩を叩きながら告げる。そうだ。厳しい。俺は褒められて伸びる子なんだ。この対応は酷い。

「そんなことないですよ。レギュラーでも1年は1年。後輩ですから、先輩の邪魔になるようなことはやっちゃいけません。」

先輩はそれだけ言って、部誌を書き始める。
おぉー!と天童さんは感激したような声をあげた。ダメですよ!俺を褒めてくれなきゃ!

「いやでもねぇ、鈴音ちゃん。工、見ての通り褒められて伸びる子だから、『んま!こんなに散らかして!さすが次期エース!肝が据わってるわ!』くらい煽てなきゃ。」

・・・それは違う。
しかも何だその教育ママゴンみたいな喋り方。そんなんじゃ俺のモチベーションは上がらない。

「それは違うと思いますよ、第一私はそんな喋り方しません。」

天童さんに目を向けることなく先輩は言う。そうかなぁー?と天童さんは唸って、俺の方を見る。

「いや、大丈夫。単純だから。」

って本人の前で言うのかよ!聞こえてるし!そもそも天童さん目があったじゃないか。

「天童先輩達が甘やかしてるから、私まで甘やかす必要はないですよ。」

十分ですよ、とペンを止めることなく先輩は言う。わかってない。俺はエースになる男。
『褒め殺し』くらいしてくれないと本来以上の力は発揮できない。

「賢ニ郎化してるよね、鈴音ちゃん。てゆーか賢ニ郎も太一も工に厳しすぎ!俺たちいなくなったらどうすんの?!」

そう!さすが天童さん!もっと言ってやってください!少し遠くで片付けをしていた白布さんと川西さんがこっちを見る。
あ、その顔わかる。

「飛び火きたんだけど、桃谷。」
「すぐ調子乗るからほっとけばいいんですよ。」

・・・ひどい。
川西さんは桃谷先輩のカバンを持ったままこちらに歩いて来る。白布さんは睨んでくる。

「牛島さん並みのスパイクが打てるようになったら何度でも褒めてやる。」
「うぐっ」

何も言い返せない!
つい正座に座り直してしまう。
おかしいな?説教されてるわけじゃないのに。

「あ、2人とももう行く?待って、もう終わるから。」

桃谷先輩が慌てて部誌をしまう。
それを確認してから川西さんが「ん」とカバンを突き出した。2年の先輩達はとても仲が良くて羨ましい。

「ねえ今日ケーキ屋さん行こうよ。新作出たから!」
「この間行ったばっかじゃん。」
「白布の行きたかったお店今度付き合うから!あ。川西はモンブランでいい?」
「おー。」

・・・温度差!何でだ!先輩めちゃめちゃ笑ってる!俺の時はツンケンしてるのに!
白布さんも白布さんで「わかったよ。」とか答えてるし。

丁度目の前に立つ先輩を見る。

「五色もいく?」
「え!」

まさかのお誘いに大きな声が出てしまう。
先輩が・・・優しい?
いつもだったら「ちょっとでかい図体で立ち止まらないで」とか「たかだか三枚ブロック抜いただけでしょ?」とか「無駄に張り合うからお腹痛くなるんでしょ。」とか!

「いいんですか!」
「たまにはいいよ。」
「え、やだよ。」

し ら ぶ さ ん !!
そんな顔歪ませて言わなくても!桃谷先輩はこんなに優しいのに!

「行きます!!」
「きゃあ?!」

勢いよく立ち上がれば何かに当たった感触がする。

「・・・」
「あらあら。工ってば。」
「へ?」

目の前の先輩がスカートを抑える仕草をしている。そしてなぜかそっぽを向く白布さん。

「・・・。」
「このラッキースケベやろう!」

スカートを抑えたまま固まる先輩に、俺の肩を叩く天童さん。さりげなく先輩のカバンを持つ川西さん。

「・・・えと?」
「ありゃりゃ?わかってないね、工は。」
「事故だったってことにしとけよ、桃谷。」
「履いてないのも悪いよな。」

意味がわからない俺をよそに、天童さん、白布さん、川西さんは告げる。
事故・・・?履いてない・・・?

「・・・見、ま、した?」
「真っ赤だねー。だよねー。そうなるよねー?」

次第に天童さんが面白いな、って顔をする。
他の先輩達は目すら合わせてくれない。

「・・・桃谷、先輩?」
「ここは覚先輩が教えてあげよう!」
「い、いいですよ!」

先輩が慌てて天童さんのところに寄る。しかし時すでに遅し。

「ピンクの可愛らしいフリフリだったよー。」
「!!!」
「・・・ぴ?」

ー鈴音ちゃんの下着。

天童さんの発言と同時に先輩は「あああー!」と行って部室から出て行ってしまった。




・・・やらかしたかもしれない。





恥じらいから解読せよ
(五色が立った時にスカートめくれたの。)(お前以外全員見ちゃったわ)(アンラッキーだったね。)







back |

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -