「おまえなぁ!」
「・・・あい。」
部活も終わり、着替えも終わり、寮に戻る少し前。
男子更衣室の前で正座させられております。どうもマネージャーの鈴音です。
「うげっ!何してんの鈴音チャン!」
天童がわかりやすいオーバーリアクションをしてくれる。なんか嬉しい、ありがとう。
「なんか若利にやらかしたらしいよ。」
飽きないね、と獅音が笑いながら先に行ってしまう。置いてかないで。
続々と出てくる男子たちに目をやるが、奴らはすーっと静かに去って行く。
「なにやってるんですか!鈴音先輩!」
「うわ、またやってるんですか。」
五色も白布も歩いて行ってしまう。
先輩を助けないなんてそれでも後輩か。
女の子助けないなんてそれでも男か。目の前を歩く白布のふくらはぎをばしん、と叩く。
「いっ・・・?!」
「あ、いい音。」
「・・・鈴音。」
「ごめんね!白布!」
もっと筋肉かと思ってたけど、中々いい音だったので、素直に感想を述べたのに、仁王立ちのやつに睨まれた。ちなみに白布にも睨まれた。可愛くない。
「・・・ちゃんと飼い慣らしとけよ。」
「え?なに?白布。」
「なんでもないです、お先です。」
再度私に冷ややかな目を送り、白布は歩いていってしまう。
「白布ってさー、可愛いんだけどさあ、」
「はぁ?可愛くねーだろ全然」
ところでいつまで正座をしていればいいんですかね。仁王立ちのあいつを見るが、全く気配に気づかない。
「ちょっと瀬見!」
「どぅお?!」
横腹にチョップを入れる。
だってやりやすかったしー。見事に身体がくねってて、写真撮ればよかったと後悔。
「っ鈴音、」
やったことに後悔。
「おまえたち、まだ帰らないのか。」
「あ、おう!ちょっとな!」
「いひゃひゃ!」
牛島が更衣室から出た今、私は瀬見に両頬を引っ張られている。虐待ですセクハラです。
「随分と楽しそうだな。」
「ほっははほうひへほほうははひほ!」
「そうか?」
首を横に傾げながら牛島が言う。うん、動きは可愛い。
「ふひひははふへへほ!」
「瀬見は意味もなくそんなことをするやつじゃないから、容易に助けられないな。」
「ひひゃひんはほ!」
「まあ見たらわかる。」
「・・・なんで会話できてるんだ。」
確かに!言語理解力やばいね牛島。
私全部は行だったけど。
とりあえずまだ引っ張る瀬見を睨みつければ、う、と言う唸り声とともに離してくれた。ほっぺがパグになるとこだった。
おかえり張りのある私の頬。
「若利に、ちゃんと謝れよ。」
「ごめんね、牛島。」
「はやっ?!」
ことを辿れば部活中。仕事もなくなり暇になったんです、私。そしたら丁度暇した牛島がいたんですよ。
あいつ、なかなか表情筋変わらないじゃん?ちょっと、ちょっとした好奇心ですよ?リアクションみたいじゃん。
だから後ろから、膝をかくーん、としたんですよ。
いやぁ、背が高いから苦労した苦労した。
そしたら綺麗に膝カックンされて、膝からドーン、と下に落ちたんだよ。
普通ならば、かくって折れて体制崩れる程度だったのに、床にどーんって落ちたんだよ。もう綺麗にどーん、って。
それを見かけた瀬見に、その時怒られ、鷲匠監督にも怒られた。あの人こえーんだから。
「若利はうちの大事なエースだぞ、怪我したらどうするんだよ。」
「これくらい問題ない。」
「いやでも若利、綺麗に下に落ちたし、膝痛そうだったろ?」
それはそれはとても漫画みたいにね、どーん、って正座したから、後ろに立ってた私、牛島の化身みたいになってたから。大役。
「膝は痛かったな。」
「ほら見てみろ!」
「あああ、ごめんね牛島。」
ですよね。再度謝っても、牛島は問題ない、を繰り返すだけだった。
「それだけのために残らせたのか。」
「いやそれだけってそんな簡単に言うなよ。」
「そんな弱くないぞ、俺は。」
「わあ、かっこいい牛島。」
「だからってまたやるなよ。」
瀬見は深いため息をついて、「若利がいいならいいけど、」と告げた。そして私の頭を叩く。
「いた!瀬見ってば乱暴だよね!」
「発端はおまえだろ!」
「そんな乱暴だと好きな子に嫌われるよ!」
キッ、と瀬見を睨みつける。
こいつは人をよく叩いてくるから、勿体無いよね、顔はいいんだから。顔は。
「え」
なぜか困った顔をしながら、やつはこっちに歩み寄った。
「な、なに?」
「嫌われるかな、俺。」
「女の子は乱暴者嫌いよ。」
再度言えば、今度は頭を撫でてきた。
「え。なに。」
「ごめんな、殴って。」
身の変わりよう、と言うべきなのか、撫でる手はとても優しいものだった。
「そうそう、そうやれば女の子はときめくと思う。」
瀬見にはいつも怒られてばかりなので・・・いや、原因は私にあるが、突然撫でられると反応に困ってしまう。
ふーん。と告げてまた撫でてくる。
「瀬見?」
「ときめいた?」
「は?」
ちょっと意味がわからない。
今のは?って言った時、すごい顔をしたんだろう、と自分でもわかった。
「っおまえにはこっちのがいいわ!」
「いひゃい!」
なぜかまた怒り出す瀬見に頬を引っ張られるのであった。
瀬見は変なやつだ。
なれないことはするもんじゃない(乱暴者!)(うるせ!)