一年って早いものだ。
ついこの間入学したばかりなのに、夏が過ぎ、秋が過ぎ、もう、今年も残り少しとなった。
伊達工に入って早半年。
いろんな部活の勧誘を断り、私が選んだのはバレー部のマネージャーだった。
選手ではなく、マネージャー。

もともと工業高校で、女子が少ないここで、部活するにもちょっと心細かった。
女の子がいる方がいい。
友達と同じ部活にしようとしたけども、勧誘していた滑津先輩がとても優しそうだったので、ホイホイ入部してしまった。

実際とても優しいし、茂庭主将も優しい。天使。二大天使。
仕事も慣れてきたし、部員の人たちとも仲良くやっている、つもり。

怖い人とか、多いけど。


「じゃあ鈴音ちゃん。私が時間稼ぐから、例のやつ、お願いね。」
「は、はい!大丈夫です!作並君と黄金川君と吹上君がいるので!」
「・・・女川にもお願いしとくね。」
「はい!ありがとうございます!!」

今日は二口先輩の誕生日なのだ。今は主将と呼ぶべきだろうか。でも二口先輩、「主将はやめろ、照れるから。」ってデコピンしてくるしな。
サプライズバースデーを開こう、という話になっていて、部室の飾り付けを名乗り出たのだ。
たまたま先輩の誕生日を知ってしまったので、なにか渡したいな、と思った。

ひっそりながら、二口先輩が気になる存在になっていて、それは滑津先輩にバレていたみたいで、「じゃあサプライズ開こう!」と提案してくれてのだ。

今日は部活はオフだけど、滑津先輩が、みんなを呼び止めているらしい。
それの飾り付けとかなんという大役!早く放課後にならないかな、と後半の授業右から左状態だった。




・  ・  ・





「これって全部桃谷さんが作ったの?」

折り紙で輪っかを作り、画用紙を切ってHAPPY BIRTHDAYを作った。それを上に吊るし、所々に輪つなぎを飾る。
家から布を持って来て、机に敷く。
本当はもう少し、やった方がいいのかな、とか思ったけど、時間がなかった。つらい。

ケーキは小原先輩が買いに行ってくれた。感謝です。お菓子は事前に買って隠してあるし、飲み物は今吹上君が買いに行ってくれた。

飾り付けも終わったので、あとはケーキとジュースと主役様待ち。


「時間があんまりなくてね・・・ちょっと子供っぽいかな?」

作並君に少し遅れて返事を返せば、彼は凄いよ!と褒めてくれた。

「お菓子とかも買ったんだろ?桃谷凄いよなー。」

出来上がった飾り付けにそわそわしながら、黄金川君が言った。そりゃあ、誕生日だもの。一大イベントだ。

「二口喜ぶぞー。頑張ったな、桃谷。」

女川先輩に頭を撫でられる。
いやいや、と否定はしたものの、これが限度かもしれない。
これ以上やったらバレる。

「でもさー、この頑張り。桃谷ってさー。」
「んー?」
「二口先輩のこと好きなの?」

バレた。

「・・・へ??!!!」

あまりにもドストレートに聞かれ、顔が赤くなる。

「え!えっ・・・えっと、」

主将を祝うのは当然のことだよ!
と、建前は喉をつまり、顔の熱が上昇していくだけ。

「おい黄金、」
「だよな!二口先輩俺も好き!」
「僕も!」

女川先輩の呼びかけを遮り、黄金川君が大声で言う。負けじと作並も手をあげる。
・・・助かった。

「そ・・・そうだよね。」

なんとか返事をしたけど、ちょっと気の抜けた感じになってしまった。

「ライバルが多いな、桃谷」

それに対しての女川先輩はまた頭を撫でながら言って来た。彼には確実にバレたみたいで下を向く。

ここに彼がいなくてよかった、と心底安心しながら、主役が来るのを待った。




・  ・  ・





「「おめでとうございます!二口先輩!」」

こうして始まったサプライズなのだが、しかし、誕生日効果なのか、何をするにもかっこよくてたまらない。
今だって、黄金川君と青根先輩に挟まれた先輩は無茶苦茶にかっこいい。

私なりのフィルターがかかっているのかもしれないが、かっこいい。
かっこいい。

「桃谷が考えたんだ?さんきゅー。」
「かっ・・・はい!」
「(かっはい?)全部鈴音ちゃんが作ったんだよ。」

かっこいい!
滑津先輩に肩を叩かれながら、私ははい!と返事をした。
まじか、すげえな。と二口先輩は告げて、また周りを見渡す。
もしかしてこれ幸せの絶頂期?!私明日死ぬかもしれない。

「だって桃谷二口先輩大好きだもんな!」

そこに身を乗り出す黄金川君。
あ、私死んだ。
公開処刑か。

「え、」

黄金川君の発言に二口先輩は目を見開く。
なんてこった。
今日が命日・・・。二口先輩の誕生日が命日・・・!!

「えっ・・・と、その」

高揚と絶望が混合して今よくわからない状態だ。赤くなる顔をごまかそうと口に手を当てたけど、何も隠せていない。
さよなら私の青春。さよなら片思い。

「ちょっと黄金、」
「俺も大好きっス!」
「あ、ぼ、僕もです!!」
「おーおー、さんきゅーな。」

滑津先輩の言葉を遮り、黄金川君と作並君が言う。それを軽い感じで二口先輩は返す。

「ケーキもさんきゅー。」
「ちょっと1人で買うの恥ずかったわ、けんじくんでお願いします、とか。」
「罰ゲーム的な?ゆたかくん、って書いて貰えば良かったんじゃねーの?」
「それな。お前の誕生日に俺のケーキな。」

小原先輩と笑いながらケーキを口にする。・・・うん。多分私の話は流れたな。
よかった。

「ねえ鈴音ちゃん。」
「はい?」

私はというと、先輩から遥か離れた端っこの席。滑津先輩と女川先輩に挟まれている。


「この際だから告っちゃえば。」
「へ?」

滑津先輩が笑顔で言う。

「それなー。勢いでガッと行こうぜ、桃谷。」

女川先輩までもがそう言ってジュースを口にする。

「む、むむむ無理無理無理ですよ!絶対無理!何が何でも無理!」
「否定激しいなぁ。」
「そうだよ、鈴音ちゃん。勇気勇気。」
「そ、そういうのじゃないんで!見てるだけでいいんですよ!」

そう。マネージャーとして、特等席でプレーを見てるだけでいい。
あの人かっこいい!と騒ぐ他校生に、私の主将だ!馬鹿め!と優越感に浸れればいい。それでいい。

これ以上近づいたら、心臓止まるよ絶対。

「遅れてごめん!」
「すげえな、飾り付けまでしてあんじゃん。」
「おつかれー。」

それからいくらか時間が過ぎ、三年生の先輩方が部室に入ってきた。

「あれ?茂庭さん!げ。鎌先さんもいるし。」
「げ!とはなんだ二口!先輩が祝ってやりに来たんだろうが。感謝しろ。」
「うわー、お呼びじゃないんで大丈夫っすー。」
「よぉーし、二口。俺からはコブラツイストだ。」

立てぇ!と鎌先先輩は二口先輩に駆け寄る。青根先輩が立ち上がり、首を横に振る。「ダメっすよ鎌先先輩!今日は二口先輩の誕生日っスよ!!」と黄金川君が叫ぶ。

「相変わらずだなぁ。」
「元気そうじゃん、皆。」

茂庭先輩と笹谷先輩にジュースを注いでから気がつく。もう半分しかない。
これでは足りなくなってしまう。

「どうしたの?桃谷さん。」
「ジュース切れたので買って来ますね。」
「いいよ私が行く。」
「いえ!私が行きます!!」






・  ・  ・





買い過ぎた。
コンビニは歩いて五分の距離にある。走ったのでもっと早く着いたけど、2リットルを8本は多かっただろうか。
いや、バレー部いっぱいいるもん。足りる。・・・足りる?
店員さんに「持てますか?」とか聞かれたけど持てるもん。行きは急いだから戻りは休み休みでも時間内だもん、多分。


「うわー、すげー買ったな。」
「いや、大丈夫ですよ持て、って二口先輩?!」

コンビニを少し離れた所で一休みしていたら
、前から二口先輩が歩いてきた。
つい姿勢を正してしまう。

「ど、どうしてここに?!」
「あー。手伝おうかな、って。」
「だ、ダメですよ!主役なんだし!」
「いーって。便所って言ってきたから。」

便所・・・って。
二口先輩はそのまま地面に置いていた袋に触れようとする。

「ダメですよ!」
「うおっ?!びびった。」
「二口先輩は!主役ですから!私が持ちます!」
「いや、さすがに重くね?手伝うわ。」
「ダメったらダメです!」

両手を広げて彼の前を立ちはだかる。これに意味があるのかはわからないけれど、先輩には諦めたような顔をした。

「あのさ、桃谷」
「はい。」
「黄金川が言ってたことなんだけど、」


ーー二口先輩大好きだもんな!!
先ほどの言葉が脳内をよぎる。
結局それだけで私の顔がまた赤くなる。
顔ってそんなに頻繁に赤くなるなるものかな。おかしいよ私赤面症なの?!

「あれってさ、どういう意味?」
「え・・・」

私だけを見つめて困った顔で二口先輩は告げる。どうしよう。告白するべきなのだろうか。でも、

「俺さ、今日誕生日じゃんか。」
「あ、はい!おめでとうございます。」
「もし、そういうことだったら、最高の日だけど、そうじゃなかったらトラウマになると思うんだわ」
「は・・・はい?」

それだけ言って、二口先輩は目をそらしてしまう。先輩との身長差が30センチはあるから、背伸びをして見ようとすれば、パシっとでこを叩かれる。

「いたっ、」
「っみんな。」
「す、すみません。」

でこを叩かれた状態で先輩は止まる。マジですか。

「先輩、」
「喋るな。」
「え、」
「見るな。止まれ。」

唇を噛み締めて現状を維持する。
先輩の手が少しあったかい。

「・・・きだ。」
「え?」
「だから!好きだ!」

おでこにあった手が離される。
そのまま見上げれば、先輩にしては珍しく真っ赤な顔だった。
赤い顔とさっきの言葉。

「え・・・」

つられて赤くなる私の顔。もういい、赤面症でもいい。あだ名トマトにするからいい。

「で?」
「え」
「だから・・・好きなんだけど。」


二度目の言葉に、私は笑顔で返した。








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