「東峰先輩。」
「ん?どうしたの?」

半年前、一度バレーを離れてしまった先輩。今では、行くぞ、春高!オレンジコート!
と澤村先輩と同じことを言っている。
あの時。何て言葉をかければいいのかわからなかった。
辛いのだろう、それしかわからなかったし、マネージャーでも、経験者でもない私には何も言えなかった。

「バレー、楽しいですか?」

愚問、だろうな。投げかける。
東峰先輩の事、好きだと気付いたのは学年が上がる前。伊達工戦。エースだという東峰先輩は、何度も何度もボールを弾かれていた。
観客たちの、「いくらリベロが凄くても、攻撃があれじゃあ、」という言葉。

凄く心が痛かった。東峰先輩だって頑張っているのに。よく知らないくせに。
もう一本、もう一本、と呼ぶ声
最後には呼ばなくなった。
そのあとは、なんとなく怖くて、バレー部行けなくて、それとなく木下君に聞いたら、来てない、と知った。
西谷?って人と揉めて、彼もその時謹慎処分になった。

2人とも、戻らないんじゃないかと、思った。東峰先輩に会うのが、怖かった。
でも木下君から、2人が戻った、と聞いて、こっそりインターハイ予選、見に行ったっけ。
見つかっちゃったけど。

「おー。すげーたのしい。」

東峰先輩とは、本屋さんで知り合った。届かなかった参考書を「こ、これですか?」と控えめに聞かれたのが最初。
先輩は優しいくせに周りの声に弱い。東峰はやばい、の噂延々と引きずって、話しかけたら怖がられる、と思っていたのかもしれない。

こんなに優しいのに。

「バレーやってる先輩は、かっこいいですから、また見れてよかったです。」
「え・・・そ、そう?」

最後バシッと決める。周りからの信頼もあって。あの、集中した表情。
どれもこれもかっこいい。
普段は小さくなって控えめにしてるけど、

「普段もバシッとしてくれると、かっこよさ倍増だと思いますよ。 」
「あはは・・・そうかもね。」

先輩はそれだけ言った。なんだかんだ日課になってしまった帰り。互いに早く終われば、坂ノ下前で待ち合わせ。
嫌じゃないし、逆にうれしいけど、先輩はいいのかな?

「ところで、さ。桃谷、さん。」
「はい?」

先輩はいつも何かしらくれる。肉まんだったり、ぐんぐんバーだったり。今日はいちご牛乳だった。
毎回頂けない、と断っても、いいから、とあの優しい笑顔を向けられる。

「白鳥沢、戦、・・・見に来てくれる、かな。」

先輩はまた、控えめに言った。
毎回見に行っているのに、なんで今更聞くのだろうか。当然見に行く。来るなと言われても、勝手に行くさ。

「当たり前じゃないですか。」
「そ、そっか・・・さんきゅ。 」

そう言って、先輩はハハハと笑う。そしてまた黙ってしまう。今の話の流れで、黙る要素はないと思うんだけど。
いつも他愛のない話をするのに・・・。例えばバレー部の話、昨日のテレビの話、友達の話。
あの十字で道が別れてしまう。先輩と一緒に帰れる距離。あと数メートル。
今日は、そんなに会話してない。明日もするだろうけど、やはり毎日たくさん話したい。

「・・・じゃあ、私こっちなので。」
「お・・・おー。」

さようなら、と手を振って右に曲がる。ああ、もう少し、話したい。

「ぜ、絶対!来て欲しい!」

先輩が声をはりあげる。
びっくりして振り向いてしまった。
別れた場所から、一歩も動いていなかった。

「い・・・行きますってば。」
つい勢いに負けて、言葉に詰まってしまったが、私は嘘などつかないぞ。

「勝って!桃谷さんに!好きだって!伝えるから!」

先輩は大きい声で告げた。
元々身体が大きいから、そのボリュームは想像以上だ。

「・・・・・・え?」

それより、今、・・・なんと?

「・・・あ。」

私の返事に、先輩は声を漏らした。そして自分が何を言ったのか、思いだしたのか、先輩の顔が見る見る赤くなる。心なしか、涙目だ。


「東峰先ぱ」
「い、今のナシ!い、いや、ナシじゃないけど、」

大きく両手を前に振る。風が吹きそうなぐらい激しく。相手の方がリアクションが濃いと、見てる側は落ち着くよね。

なんというか、

「・・・わかりました。」
「・・・へ?」

可愛いなこの人!
小動ぶ・・・大動物か!
草食系男子!ですな!

「ちゃーんと勝ってくださいね!宣言通り!」
「え」

もうそれ、告白じゃん。宣言したんだから、実行してくださいね。

「勝ってください!私、ちゃんと観に行きますから!」


そう答えれば、先輩は頬を掻きながら、恥ずかしそうに、おー、と答えた。




ふらいんぐげっと
((先言っちゃうとか、かっこわる。))  ((今更どきどきしてきた。))







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