澤村視点






バレーが楽しい。新しいことを学んだ。今日は帰りに何しよう。
何気ない日常っていうのはこんなに幸せなんだな、と最近思う。
バレーは楽しい。
俺たちにはもう後がない。
やばい、と追い詰められる一方で、成長していくチームに自信と希望が強まる。
3年生、というのはやっかいだ。
進学クラスなのだから、もちろん進路という壁がある。行きたいところは決まっているが、不安はある。
同時にこの烏野にいれるのもあと1年無いという名残惜しさ。

あいつらと過ごす限られた時間を、大切にしたいと思う。本当に。


「おーす、大地。」
「おう、おはよう、スガ」

部活のないテスト期間。いつもよりゆっくり登校できる、優雅な朝。隣を歩くスガは、頻繁にあくびをする。

「どうしたスガ。あくびばっかりだな。夜更かしか?」
「古典がよくわかんねーの。」

成績は良い方。しかしそれは当然裏で努力してるわけで。寝不足にもなる。

「まあちょっとややこしいよな。」
「明日までテストだし、バレーしたいわー。」
「日向みたいな。」

もってこぉぃ、と眠そうにクオリティの低いモノマネをしてみせる。
よく見てみれば、目がほぼほぼ開いていないし、シャツも半分出てしまっている。

「身だしなみ、ちゃんとしなさいよ、スガ」
「大地母さんみたいだなぁ 」

父さんは許すが母さんは許さない。性別が違うだろ。なんだよ烏野の父って。同い年だし高校生だし誕生日ならスガが一番先だ。

「あれ?菅原君に澤村君!」

校門に差し掛かったところで、クラスメイトと会う。桃谷。生徒会に所属する彼女とは何かと話す。

「おはよー。」
「お。おはよ。」
「おあよー、桃谷さん」

我慢しきれずにあくびをしながら挨拶してきたスガに、桃谷は笑って返した。普段のスガなら絶対にやらない、彼女の前では。

「眠そうだね、菅原君。」
「そー、美術がしんどい。」

・・・ん?古典じゃないのか?
そもそも美術は今回範囲じゃないぞ。
スガに目線を送るも、やばいあいつはほぼ目を閉じていた。

「今日・・・美術、ないよ?」

すごく深刻な顔で、桃谷は聞いた。

「おー、」
「お・・・おー?菅原君、寝ぼけてる?」
「ねーよ、パッチリ全開だっつーの。」
「ご、ごめんなさい・・・?」

長い間共にすると、相手の性格や好みが分かってくる。
確実にスガは半分寝てるし、話もあまり聞いていない。多分睡眠時間3時間、あたり。目の前のこの副生徒会長に好意を寄せているし、逆も然り。
桃谷もなんだかんだ1、2年と一緒だったのだ。向こうもひっそり思っていること、知っている。

互いによく話す異性ナンバーワンなのだから、わからないものだろうか・・・。

かくいう自分には、今好意を寄せている相手がいない。あいつらの言う、どきどきする、が全くわからない。

「んー?桃谷さん寝癖じゃぁーん、」
「え?!うそ!」

奥手な菅原に、控えめな桃谷。こいつらいつくっつくんだよ、などと思いながらも、陰ながら応援はしているのだが。
奥手であるはずの菅原が、桃谷を寝癖とからかい、さらに頭を撫でていた。
絶対にやらないし、そういうことできない、と常に恥ずかしがっていたのだが、今は躊躇いがないみたいだ。

「え。す、すが、わらくん、」
「桃谷さん髪ふわふわなー。」

ふわふわー、と呟きながら何度も何度も頭を撫でる。一方の桃谷はされるがままで硬直してしまっている。

「は、恥ずかしいよ・・・菅原君。」

周りを気にして小さい声で言う桃谷。時間も時間で登校中の生徒がちらほらこちらを見る。幸いにも、バレー部やクラスメイトもいないのが救いだった。
まあ、桃谷は副生徒会長だから、知られてしまっているが。

「照れんな照れんな、可愛い奴め。」

スガ、絶対夢見てるな。
普段言わない言葉をさらっと言って、こりなく撫でる。さすがにいつもと違いすぎるスガの行動に、桃谷はこちらを見る。
寝てないらしいよ、と目で訴えたら、なんだかんだ悲しい顔をしていた。

「ほ、他の生徒も来てるから、・・・撫でるの・・・やめよう?」
「やぁだよ、照れんなってば、」
「そ、そうじゃなくて、ね?」
「大丈夫大丈夫、桃谷可愛いから。大好きだからいーの。」
「え」

笑いながら言うスガに、口を開けて止まる桃谷。

スガ、それ多分告白、俺でもわかる。

「マジで好きだわ、鈴音。」

目をつむったまま笑顔でスガは言った。フォローできまい。
桃谷の顔は見てわかるくらい赤くなっていく。終いには涙目で、「さ、先行きます!!」と猛ダッシュしてしまった。

副会長が校内を走り回るなど、言語道断、教頭に見つからないことを祈る。
そこまで追い詰めた当の本人は、必死に目を開けようと、顔の中心に力を入れていた。


「ひでぇ顔」
「大地よりマシだべ。」
「桃谷走ってっちゃったよ。」
「なんで?」

マジか。こいつまじか。

「お前が可愛いとか言って頭撫でくりまわした挙句に大好き、とか言ったからじゃないの?」

え?と小さい声を漏らした後、閉じていた目が徐々に開いていく。本当こいつマジか。

「ゆ、夢じゃ、な」
「いだろうなぁ、ほら痛いでしょ?スガ」
「いでででで、」

見る見る顔が青くなるスガの腕をつねる。わざと痛くしたからこの奥手が。


「ご、ごめん、大地、」
「おう。早く追いかけな。で、もう告白してくれば?」

どうせできないんだろうなぁ、スガ。
普段は口籠るから。

「お、おう!そーする!!」


それだけ告げてスガは全速力で走った。
見つかるなよー。
全く。両片思いが。
早くくっつけっての。もどかしい。
んで



「末永く爆発しろっての」






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