「気持ちは嬉しいけど・・・」
ごめんね。
イケメンというのは、振る時もイケメンなんだな、なんて冷静に考えながら、「いえ・・・ありがとうございました。」と力無く答えた。
振られた。
ただそれだけ。
彼はいわゆるイケメンさんで、私は同じ学校で周りと同じ服を着ただけのモブ生徒。
名前すら知られてはいない。
敷居が高かった、それだけ。
そもそも両思いになる確率が無いに等しかったのに、告白に踏み入った自分はなにを根拠にそうしたのか。
「あれ?桃谷さん。」
「・・・渡くん。」
渡 親治。今年も同じクラスになった男の子。席も高確率で隣。
話しかけやすいし趣味も似てるので、よくおしゃべりをする。
「珍しいね、こんな時間まで。勉強?」
相変わらず爽やかな笑顔で渡くんは言った。今日はオフじゃないはずだ。
なのに教室に戻ってきたってことは、部活動が終わる時間になってしまっている、ということ。
下校時間になっている、ということ。
放課後、部活の迷惑にならないようにすぐに呼び出した。つまりはもう数時間も自分はここで惚けていたんだ。
逆に数時間誰もこない、というのも問題だけど。
「・・・うん。まあね。渡くんは部活終わったの?」
「・・・そうだね。」
少し間があったものの、渡くんはそれだけ言って机からプリントを取り出した。ああ、忘れ物か。
「・・・何かあったの?」
少し、控えめに聞いてきた。
それに対して、笑って流そうと思ったけど、眉が下がってしまい不恰好な笑みだけでてしまう。肯定しているみたいだ。
「・・・あのね、」
このまま我慢もできそうにない。
なんとか振り絞った一言も、震えて、より一層みっともない。
「うん。」
「振られ・・・ちゃって・・・」
絞り出せば絞り出すほど心が痛いし、彼を引き止めている気持ちになる。
「そう・・・なんだ。」
案の定彼は手を止め、こちらを見つめてくる。貴方までそんな悲しい顔をしてしまったら、堪えるものも堪えられない。
「わかってはいたんだけど、」
本当に、なんで告白してしまったのか。
別に告白シーズンでも、仲良くなったわけでも、誰かに押されたわけでもない。
ただ遠くからみて、憧れて、好きになって・・・。
「会話・・・したこともなかったのに、」
落ち着いて。
渡くんが困ってしまう。
深呼吸。深呼吸だ。
「・・・初めまして、の状態なのにね、好きです、なんて、」
イケメンに似合うのは美少女だけ、だと相場が決まっている。
私は美少女には程遠い。背も普通、スタイルも普通。成績だって可もなく不可もなくで、委員会にも入っていない。隣に立つことすら許されない。
「きっと迷惑だったよね、部活前に、貴重な時間なのに、」
「そんなこと、」
「多分これ、好きとか、好意とかじゃなくて、さ。」
試合を見れば見るほど、彼を知れた気がした。彼を見に来る女生徒はたくさんいたし、どの子もすごく美人。そこの遥か後ろから、気づかれないようにひっそり見てた。
そんなさえない女子、目にも入らない。
「憧れ・・・だよ、憧れっ」
段々何言ってるのかわからなくなってくる。
困った顔の渡くんと、下校を促すアナウンス。無理だよ1人になれない。
気持ちではわかっていても、心が痛いんだ。
もう、あの人には話しかけられない。
「そんな顔、しないで、桃谷さん。」
それはこっちのセリフだよ。そんな泣きそうな顔しないで。
「・・・へへ、」
「俺が言ってもムカつくかもしれないけど、・・・きっともっと・・・」
「・・・渡くんみたいな人、が良かったなぁ、」
いつも笑顔で聞いてくれるし、優しいし。
いや、優しすぎるし。
「え・・・」
「渡くん、みたいな人と、付き合いたいな。」
性格だっていい。
きっと彼は小柄な可愛い女の子と付き合うんだろう。というかそうであってほしい。
彼は恥ずかしがり屋さんなとこあるし、それを上回る彼女さんとか見てみたい。
「お・・・おれ・・・」
迷惑かもしれないけど渡カップルののろけ話聞いて、ああ、ちくしょう恋したい、とか奮起したい。
恥ずかしそうに彼女の自慢話とかしてよ。
「おれ、」
「ごめんね、引き止めちゃって。」
「いや、」
下校を促すアナウンス。そうだね、帰ろう。
今ならもうあんまりいないし、赤くなった鼻も見られないし。
明日朝練あるだろうし、引き止めては、ダメ。
「・・・桃谷さ、」
「帰ろっか、」
すごく不恰好に笑えば、
彼は泣きそうな顔で「うん」と答えた。
ヒーローにはなれなかった