「雨、止まないね。」

今年は夏前に台風が発生しなかったせいか、夏真っ盛りで台風祭りになった。
なんとか走って帰ろう、と2人で全速力を出したのだが、髪はビチョビチョ、スカートはへばりつくし、最悪もいいところだ。
早くお風呂に入りたいけど、朝行く前に浴槽のお湯抜いてきちゃったし、両親は夜中まで帰らない。
あーあ、シャワーか、風邪引くかも、なんて今のことより先のことを考えていた。

「桃谷の家、あとどんくらい?」

本屋の屋根の下で、花巻がへばりついたシャツを捲る。

「まだまだ。走ってもあと15分はかかるね。」
「うげ?!こんなに走ったのにかよ。お前んち遠いのな。」
「制服の可愛さと名前だけで青城選んだからね。」

青葉城西って名前可愛くない?
なんかもうリッチな感じ。

白鳥沢は違うんだよ、うん。
しかもあそこは更に遠いし、しぬわ。

「俺んちもう直ぐだからとりあえず雨宿りしてく?」
「まじ?いいの?」
「いーよいーよ、この感じじゃしばらく止まないだろ。」

イケメンかよこのピンク頭!
じゃあお言葉に甘えて!なんて答えたら花巻はこっちを見つめてきた。

「メイクぐちゃぐちゃな。」
「そりゃあこんな雨ならね。」
「当てたパーマも落ちちゃって。」
「セット時間かかったのに。」

天気予報、本当天気予報見とけばよかった。たまたま早く目が覚めて、たまたま暇で、なんか凄く手間かけたいな、とか思う日あるじゃん?そう、それなのよ今日。
つけまとマスカラはつけてないけど、アイラインがドロドロに溶けている。黒い涙かよ。

「んで、ビチョビチョの制服、と。」
「うん。寒い。」
「ピンクの下着とか、お前可愛いのつけてんじゃん。」
「よしそこに座れ殴らせろ。」

なにを冷静に見てやがるんだ。ピンクで悪いか似合わないってか。
ワイシャツ一枚で文句あんのか?

「いやいや、相当濃くないと透けないだろ、ショッキングピンク?」
「・・・強めの女アピールしてるから。」

何でこいつ座んないの?それとも目か顔パンがいいのかな?腹パンは硬そうだからいい。

「桃谷」
「なによっ」
「むらむらしてきた。」

目線を変えずに、さらりと花巻は言ってのける。

「・・・は?」
「いや、なんつーの、その濡れた髪といい、へばりついたスカートといい、ショッキングピンクといい。刺激的だよな。」
「ごめんちょっと意味わからないから日本で喋って。」
「濡れた髪といい、へばりついたスカートといい、牡丹色の下着。」
「それはさっき聞いたから!」

やばい、危険な香りがする。
ちらりと花巻を見たが、顔色ひとつ変えていない。目線も変わらない。

「いつまで見てんだよ。」
「いや、もう少し頑張れば更にその奥まで」
「殴るよ。」



「で?うち寄ってく?」
「寄るかバカ!」


翌日ヤツは頬を腫らしてきたが、自業自得だろう。







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