「本当にそれ好きですね。」

日曜日、夕方。
人のベッドを陣取り、先輩は人形をつついた。

「んふふー。」
「・・・なんの笑いですか。」

かれこれ1時間、ベッドに寝そべったまま、その人形を撫でたり突いたり叩いたり。
終わったら抱きしめたり、投げつけてきたり。

「へへへ、だってかわいーもん!」

先輩はとても上機嫌に答えて、人形に対してねーっ、と同意を求めた。もちろん返事などないのだが、またんふふ、と笑った。

「わかりません。」
「えー?あ。・・・わかったー!妬いてるでしょー?」
「無機質な物に妬いてどうするんですか。」

全然わかってないし、どうしたらその発想にたどり着くのか理解に困る。いや、困らない。

「妬かないでくだしゃい!イチバンハモチロンアナタダヨー!」


両手をつかんでこっちに向かせながら彼女は言った。謎の片言裏声で。


「・・・はぁ・・?」

以前、ゲームセンターに行った時に、とても欲しそうに見つめていたものだから、その時でも良かったが、日を改めて取った。
それはそれは大げさなくらいに喜んでくれたのでとった甲斐はあった。

それが一ヶ月前。

うちにそれを持ってきて、置いといてー!と言ったのがその二週間後。
そして来るたびその人形を抱きしめ、可愛がる。頭に乗せたり肩に乗せたり頭に乗せたり。


「あぁ!?まつ毛出てる!!」
「・・・はい?」

普段から言動が不思議な事が多いが。慣れてきたが。理解はできるが。

唐突すぎる。

「それはまつ毛じゃなくてほつれてるだけですよ。その発想はなかったです。」

見事に目の刺繍の糸が少し出ている。

「えええどどどどうしよう?!」
「・・・切ればいいじゃないですか。」
「私不器用なの知ってるでしょー!」
「・・・あとで切っておきますから。」

危ないから割るな、といえばプレッシャーで割ってしまうタイプ。緊張にも弱い。

先輩は聞いて安心したのか、またその人形を撫でる。

「そういえば、無機質な物に妬いてどうするんですか、ってどういう意味?」

変なとこ思い出して、しかもなかなかにしつこい。でも、居心地は悪くない。

「そのままの意味ですよ。」

ほら、気になる!の顔だ。
すぐに顔に出る人だから。それがまたいいのだけれど。

「どこぞの主将さんなんか来られたらひねり潰しますよ、もちろん。」


無機質な物には、妬かないが。
出る杭は打つ。

まだ理解してないであろう先輩の隣に腰掛ける。足の上に乗せた人形を撫でてみる。

「どうしてこれが好きなんですか?」
「え?どうしてって・・・あ!賢いところ?」

両手で抱きしめながら、ぽつりぽつりとつぶやく。

「優しいし・・・かっこいいし。安心するし。」
「大好きなんですね。」
「うんっ!とっても!!」


出る杭を打つまでもない。
きっと見もしない。彼女は見もしない。



「その人形。名前なんでしたっけ?」


聞いて数秒。




先輩は恥ずかしそうに俺の名前を呼んだ。






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