部活もなく一日中オフの日。
今日は家に誰もいないから、とお呼ばれして2時間。頭上から声がする。
「あのさ、鈴音。」
「ういー?」
「いつまでこの状態なんだ?」
声の主、澤村大地は真下へと視線を向けて、困惑の顔で告げた。
「大地の太ももが固くなるまで?」
「筋肉だらけで柔らかくないでしょうが。」
そこは否定しないが、私はこの膝枕という状況を大いに堪能している。だから退くつもりはない。
「えいっ、固っ?!」
真横にあるお腹を突いてみたけど、思いの硬さにびっくりする。された本人は特に身体を動かさず、ため息だけをもらした。
旭にやると凄くくねくねするのに。
「…あのね、鈴音。」
「なんだい?」
「やめなさいよもう。」
つまらない。旭みたいにくねくねしない。スガは一回やったらもう反応早くてすぐガードされるし。
仕方ないから大地のお腹を何度もつつく。
「シャツはだけてるぞ。」
「大地のえっちー。」
少しめくれてしまった洋服を、優しく直してくれる。大地は言葉を濁したりはしないではっきり言ってくれる。
「そろそろ体制直してくれない?」
「えーーーー。」
「理性持たないんだけど。」
言葉を濁さないから、そういう事もちゃんと言う。いつもははいはい、と流されるけれど、もしかして余裕がないのだろうか。
「そんなこと言って絶対手なんか出さないじゃん。」
そう言ったものの、そろそろ痺れてきたのかもしれない。起き上がって正面に座る。
「スガはちょっと赤くなりながらそうなりそうだけど、大地はこの日までは!ってちゃんとそういうことしないでしょ。」
「さあね。今この状況はとてもいいタイミングだと思うよ。親もいないんだし。」
「ないない。卒業するまではこの状態だって言ってたじゃん。」
そういう所が好きなんだよ。
意志を曲げない。
「…まあそうだけど。」
大地はバツが悪そうに答えた後、咳払いをする。
「他のやつにもこんな事してないよな?」
「酷い!人を尻軽女みたいに!」
「そんな事は言ってないでしょうが!」
誰にでも膝枕をお願いするわけじゃないんだから!大地だからやるんだからね!
「そんな事言うなら旭にもやってもらっちゃうよ!」
「は?」
うわちょっと待ってよ。今のは?がすごい怖かったんだけど、冗談だったんだけど、目が笑ってないんだけど。
「わっ?!」
大地はその顔のまま肩を掴んできた。
幸い後ろにはクッションがあったものの、押された勢いは相当のもの。クッションの段も増してか、顔との距離は十何センチ。流行りに乗るなら床ドンってやつ?ははは。
「だ、大地?」
「なんで旭なんだよ。」
「え?…いやぁ〜」
言葉の綾であって。一番例えやすいし。ちょっと笑えないよね。
「近いよ大地。」
「理性持たないっつったべ。」
「いや、でも。」
言っている割には目がマジなんですが。
目を見つめられて、そらせそうにない。
「大地ぃ。」
「俺だって健全な男子高校生だし?理性飛ぶことくらいあんべ?」
「そんな軽いノリで言わないでよ!」
「んなこと言って期待してるでしょ?」
その言葉に身体中の熱が一箇所に集中してくのがわかる。
「ばかっ!」
「だったらしゃんとする。」
足を蹴れば、痛がる素振りを見せないで、彼はどいた。返された言葉は素っ気なかったけど、目線を合わせてこなかった。
「照れてるー!」
「うるさい!」
この距離感が、今は丁度いい。
「お茶とってくる。
(理性持たないのはホントだし。)」