のううた | ナノ

そして出会った


非現実的な事など起きやしない。ありえない。

氷帝跡部景吾主催で、立海と青学を交えての合同合宿の最中だった。幸村が仮退院だという事で、まあ試合こそ出来ないが、全員が揃って実に充実している。

跡部、幸村、そして手塚はドリンクを口にしながらこのあとの予定を確認していた。この合宿も直ぐに終わるだろうと思っていた。

「跡部!」
「幸村!」
「手塚!」

忍足、真田、大石に呼ばれ、3人は話を中断する。

「何だ忍足、試合中じゃ無かったのか。」

代表して跡部が返事をする。
それがやな、忍足は口を開く。見た目は落ち着いてはいるが、声色は少し動揺していた。
丁度試合が終わり、他校のメンバーと話をしていた所、第2コートが突然光出したらしい。何事かと集まってみれば、その光の中から人影が見えてきた。しかもそれは3人の少女だった、と忍足は告げた。

そんな非現実的な事など、ありえはしない。半信半疑でコートへと、足を進めた。








酷く混乱していた、少女たちも、少年たちも。

「な・・・なんなんだよ、お前ら。」
「どうやって出てきたんだよ!いきなり光の中から出てくるとか!あり得ないだろ!」

宍戸と向日が続けざまに言う。


「・・・ことりちゃん、乃亜ちゃん。」

教子は青ざめた顔で2人を見た。ことりは小さく「まじか。」とつぶやいたが、乃亜は何とも言えない顔だった。

「ほ、本物・・・だよね?」

教子が小さくつぶやく。

「突然光が現れて、その中から得体の知れない女が3人って・・・。まず人間なんスかね、こいつら。」
「あまり近づかない方がいい。下がれ、赤也。」

それに対して、立海は中々失礼だ。より警戒しているようだ
散々な言われように、反抗こそ出来ないがことりたちはびくりと肩を揺らした。


「何事だ、てめぇら。」

跡部を先頭に、部長たちが入ってくる。事の原因、かもしれない幸村もいる。

「大体話は聞いたが・・・光の中から出てきたらしいな。」

手塚が、3人を見つめながら言う。至って普通の女子だ。

「・・・ちょっと待って、手塚。」

そして次に幸村が口を挟む。彼は少し焦った顔で3人に近づいた。


「・・・君は。」

そう言って乃亜の前で立ち止まった。目線を合わせて。見つめてくる。

「な・・なに。」

そんな幸村につい乃亜は後ずさってしまう。つい先ほど見た夢が頭から離れない。あの切ない顔。・・何で今も泣きそうな顔なの?

「どうした幸村。」
「・・あ、いや。なんでもないよ。」

心配した跡部に、我に返った幸村は、すぐにもとの場所に戻った。

「どういう事だと言われてもね。それはこっちも聞きたいんだわ。」

ことりはそう告げて、ため息をした。本当に。
・・・これってさ、トリップだよね?
夢に幸村が出てきて、悲しそうで、彼の言葉を、ただ復唱したら、ここについた。"逢いに来て"と言った彼に、本当に会ってしまった。



「その子たちはあたしらが話をするよ、あんた達は練習だ!」

竜崎が言う。後ろには榊もいた。テニス部の痛い視線を浴びながら、3人は竜崎の後をついて行った。










「さっきね、上から見ていたんだけれど、あんた達、どこから来たんだい?」

竜崎スミレはお茶をすすって言う。3人は何も言わなかった。いや、言えなかった。

結局外は手塚に任せて、今、会議室にいる。何故か跡部と幸村もいる。榊は何処かに行ってしまった。

何やら息の詰まる感覚に、教子はことりと乃亜に目で訴える。



「・・・夢、 」
「学校で!!」

ことりが説明をしようとしたら、乃亜が慌てて口を挟んだ。

「学校で・・・あたしとことりが眠っちゃって・・・帰りが遅くなるから、教子に起こしてもらったら・・・急に体が光出して・・」

ゆっきぃ本人の前ではとても言えない。それに間違ってはいない。
あの夢が、実際にゆっきぃの心情だったのかはわからないが、言えるわけがない。

不意に幸村に目線を向ける。目が合い、乃亜はすぐに逸らした。



「・・・なんだい、それは。」

困った顔で竜崎が言った。



「今調べて来たんですが、この子達、本当に違う世界から来てるみたいですね。」

榊が入ってくる。手には乃亜達の生徒手帳、そして学生鞄。教子が あ、と小さい声をもらした。

「少しばかり調べさせてもらった。不安がらせてすまないね。」

榊ってダンディなんだな、と心の中で乃亜は思いながらも、「いえ。」と短く答えた。そして3人は鞄を受け取る。

「・・鈴ノ宮学園中等部・・?どこだいそれは。」

「無いんですよ。そんな学校も、崋山ことり、佐倉教子、荒波乃亜、なんて人間も。」

竜崎と榊が話し合う。あるわけが無いのだ。ふいに乃亜は鞄を見た。・・・無い。とっさに榊を見た。

「あと、こんなものが入っていましてね。」
「だめっ! 」

「「・・・あ。」 」

乃亜の鞄にあったもの、それを榊は取り出して告げる。



「人間じゃないのは・・・私たちみたいですね。」

「・・・テニスの、王子・・さま?」

竜崎は立ち上がって、榊が持っていたそれを手に取った。


テニスの王子様公式ファンブック20.5


そう書かれたそれを、竜崎はパラパラとめくる。

「・・・あたしらは漫画だったわけかい。それにしても随分と白紙なんだね。」

そう言いながら、竜崎はこまめにページをめくり出した。白紙?そんなことない。乃亜は首を傾げる。

「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

「だめっ!!」

手を伸ばした跡部を押しのけ、乃亜は本を奪い取る。それに対して跡部はアーン?と言った。
乃亜は直ぐにファンブックに目をやる。白紙?そんなわけない。その横で、教子、ことりが覗き込む。そして驚愕する。

キャラクターのプロフィール以外、すべて消えているのだ。テニスの試合、そしてプレーに関する所、全て。乃亜の顔が青ざめる。


「え?え?!朝見た時、そんなこと無かったよ!試合・・・全部消えてる。」

「試合の結果まで載ってたのかい?そりゃあそうか。漫画だからねぇ。」

「ご、ごめんなさい。」

乃亜が頭を下げる。なんて言えば良いのか、正直わからない。

「 まぁ、頭を上げなさい。・・・漫画だ、なんてすぐ信じられないし、私たちは生きている。・・・それに、君達が現れる、なんて載っているかい?」

榊の質問に乃亜は首を横に振った。

「そうだろう?君たちが来た、というのはまずあり得てはいけないのだよ。しかも、漫画の世界に。・・・つまり。」

この世界に異変が起きた。冷静に榊は告げる。

「この本通りに進んでいない、ということは、次元が違うんだよ。本来、原作通りに進まないのなら、その物語は狂って止まる。」

漫画家が描くから、その漫画は増えていく。その漫画家が描く所だけが読者に読まれるし、存在する。3人の少女が現れる。
載っていないのなら、作者はそれを描いていない。
描いていないなら、存在しない。描いてないことが起こる、と言うことは、つまりここは漫画ではない。無理があるかも知れないが、そう思いたい。


「それに・・」

榊は、ことり、教子の頭をそっと撫でる。2人はびくりと肩を揺らす。

「体温、感覚はあるだろう?」

紙じゃない。作りものなんかじゃない。





「よくわからないねぇ。」

竜崎は首を傾げている。それはこっちも同じだ、と。全員が思っているだろう。

「まぁ、とりあえず、私たちはちゃんと生きていて、家族も仲間もある。もちろん子供の時の記憶だって。漫画だとか、関係ないんですよ。」

榊は言って笑った。紅茶をすする。




「ただ、この子達の世界には、偶然私たちがモデルになった漫画がある。」

そう言うことにしておきませんか?榊は苦笑いで告げた。

「それより、元の世界に戻る方法・・・わからないだろう?」

榊はまた、苦笑する。

「私が調べてあげるよ。面倒も見る。学校は氷帝でいいね。」

また紅茶をすすって言う。榊太郎、彼も負けず劣らずの御曹司、どうやら調べてくれる上に面倒も見てくれるらしい。

「ありがとうございます。」

ことりが深くお辞儀をすれば教子、乃亜も続けてお礼を言う。

「あと、テニス部のマネージャーになってもらう。私は顧問だし、知っているのはテニス部レギュラー。何かと都合が良い。」

「マネージャー・・」

教子がつぶやく。正直まだ落ち着かない。この人は冷静だけど、もっと衝撃は無かったのだろうか?榊のみがぽんぽんと話を進めている。みんな、それでいいのだろうか。

「跡部、幸村君、とりあえず他の部員達には、素性を調べたら、存在しなかった。違う世界の人間で、まだ未成年だし、私が保護する、とだけ伝えるように。」

榊が言うと、跡部と幸村は二つ返事で返す。そしてちらりと少女たちを見る。

「氷帝のマネージャーをやってもらうが、合宿は3日。まだ帰れないから、今日からやってもらおう。あと、それ。私が保管しよう。」

そういって榊は乃亜の持っていた本を預かる。



「漫画のことは他言無用。絶対に言わないこと。言ったら、身元不明の不信人物として、警察に突き出す。」



榊はそう不敵な笑みをした。









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