のううた | ナノ

ちょっとラブコメするってよ。


親愛なる弟よ、姉はいつもあなたのことを思っているわ。悩みがあるならお姉様にいつでも相談してきていいのよ。そういえば来週の土曜日は何の日か覚えてる?当然覚えてるわよね。いいの、そんな気にしないで、まるで私が催促してるみたいじゃない。本当、気にしないで。本当だからね。

「こういうのどうかな?」
「・・・ソープフラワー?」
「石鹸でできてるんだよ。」

昨日、勉強をしていたら、上機嫌の姉が部屋に入ってきて、マシンガントークで誕生日をアピールしてきた。気にしないで、の続きは『かーらーのー?』が忍足家のお決まりのパターンだ。
中学生の弟に一体何を強請ろうというのだろうか。とは思ったものの、自分はしっかりプレゼントをもらっているので、そろそろ姉孝行しなければいけないかもしれない。
日頃の感謝というやつだ。

「今はパッケージされてるけど、いい匂いなんだよ。見た目も可愛いし。」

買うのはいいが、女子の好みがわからない。クラスの女子や、跡部、滝などの意見を参考に、箇条書きしたリストを眺めていたら、偶然通りかかった佐倉さんに見られてしまった。
なぜか話が盛り上がり、実に自然な流れで一緒にプレゼント選びをしに行くことになった。
そのため、俺はすごく浮かれている。引くほど浮かれている。ありがとう大感謝祭だ。

「佐倉さんはこういうの買うん?」
「いや、買ったことはないかな。可愛いけど、なんか、私が持つのは違うかなぁって。」

しかも聞いてくれ、2人きりだぞ。日曜のオフに、女子と、2人だ。これってもう完璧にデートだ。デート以外異論は認めない。この浮かれに浮かれた気持ちの吐き出し口はもちろん跡部だ。怒られた。この高揚感を共有できないのは、跡部がまだ恋を知らない純情ボーイだからだろう。顔がいいのに可哀想なやつだ。
まさか自分が、ちょっと気になる女の子と2人で買い物に行くなんて、お姉様様だ。

「似合うと思うで。」
「ああいう可愛いものは、やっぱり美人さんや可愛い人が持ってるイメージがあるから、私はイメージと違うなぁ。」
「佐倉さん、かわええのに。」

内心浮かれ野郎だが、表情はあくまでいつも通り。ポーカーフェイス、ありがとう。ついこの間、動揺してしまったが、今の荒波さんなら、もしまた見られても黙ってくれるはずだ。

「も、もう。忍足君・・・お世辞が上手いんだから・・・。」

お世辞ではなく本心なのだけど。けれど佐倉さんは、恥ずかしそうに赤くなった顔を両手で覆ってしまうあたり、効果はあったみたいだ。あとはなにかな・・・と俺に背を向けているのも、顔を隠すためだと思っている。

「美容セットやコスメとかもいいみたいだよ。ただ、好みがあるから大変かも。」

今、彼女は俺(の姉)のためにプレゼントを選んでくれている。きっと他にもやりたいことがあっただろう。それでも大事な時間をくれたのだ。本当に優しい子だ。
もしも俺が、彼氏だったら、彼女が可愛いと言ったものを全て購入してプレゼントしてあげたい。サプライズ、とか言って。きっと跡部だったらサラッとやってのけるのだろう。しかも様になるのだ。
一緒に映画も観に行って、こっそり手なんて繋いだりして。心配だから、と家まで送って。
まぁ、実際は跡部家のリムジンでバビュンなのだろうが。

「・・・あかんわ。」
「ん?何か言った?忍足君。」
「なんもないよ。」

佐倉さんが来て、まだ2ヶ月しか経っていないのに、どうやら俺は凄く彼女のことが好きみたいだ。他にも女子はたくさんいるのに、どうして彼女だったのだろう。
異世界人フィルターなのか、それとも佐倉さんだから気になるのか。本当に、恋というのは突然やってくる。

「あとはぬいぐるみとかかな。」
「・・・弟からぬいぐるみもらうってどうなん?」
「え・・・ダメかな。」

そういうのは、可愛い弟だから許されるのだと思う。鳳とか。

「佐倉さんやったら何もろたらうれしいん?」
「私?」

彼女は三姉妹らしいが、もしも弟がいたとしたら、弟から何を貰ったら嬉しいのだろう。単純に彼女は何が欲しいのだろうか。
多分、なんでも嬉しいと言う。

「私は何でも嬉しいな。私のために選んでくれたんだもん。それだけで嬉しいよ。」

口を開けば友人2人のことばかり。自分の友人が、いかに良い人間なのか、それを一生懸命話してくる。友人らのことは自分たちの目で見て判断するから、2人のことばかりではなく、もっと自分のことを曝け出してもいいのに。

2人にそんな、引け目を感じなくても良いのに。

「そこをなんとか絞り出して欲しいわ。強いて言うなら。」
「え?うーん・・・。」

佐倉さんは眉間にシワを寄せて考える。しかめっ面になるほど難題だったのか。

「あ、」
「おん。」
「参考書。」

参・・考・・書・・・?
誕生日のプレゼントに参考書?確かに受験生には必須かもしれないが。ソープフラワーは?美容セットは?ぬいぐるみは?1ミリもカスってないじゃないか。

「あ、あれ?変なこと言った?」

思わず吹き出してしまい、不思議そうな顔をした佐倉さんと目が合った。

「いや、変なことは言ってへんよ。堪忍な。」

佐倉さんらしいと言えばらしいが、もっと女の子らしいものを勝手に期待してしまっていた。ついおかしくてまた吹き出してしまうと、彼女は顔を赤らめてしまった。

「さ、参考書は・・・さすがに、ないか・・・?」
「ま、まぁ。ええんちゃうかな。」
「姉にも色気のないものだなって言われたことある・・・。」

実際に強請ったんかい参考書。

「いや、十分かわええよ。」
「かわっ・・」

実体験ってのがもうなんと言うか、彼女っぽいなと思ってしまった。きっと勉強勉強うるさい家庭だったのだろう。頑張ったのだろう。
それなのに、仲の良い友人2人も負けず劣らずの優等生。周囲が認める容姿の2人。

「俺は、佐倉さんが1番可愛いと思うで。」
「・・・へ?」

俺は自分の友人が、ファンクラブできるほどのイケメンだろうと、礼儀正しくて気配りもできる紳士だろうと、引け目を感じたことはない。友人に対して何を張り合うのだ。言いたいやつには言わせておけばいい。

けれど、女子というのは気になったりしてしまうのだろうか。誰々の彼氏はイケメン、頭がいい、天秤にかける必要があるのだろうか。
たった1人、大事な人に好かれればそれで良くないか?

「お、忍足君。そ、そんなか、かわいいって言わないで。」
「なんで?」
「か・・・かわいいとかは、その。・・・乃亜ちゃんやことりちゃんに使われるもので・・・。」

かわいい、かっこいい、優しい、頼もしい。
そんな褒め言葉すら、使われるのに資格がいるのだろうか。彼女は、自分も整った顔をしている自覚はないのだろうか。

「そないなこと言われたら、俺も一生かっこいいとか言うてもらえへんね。跡部に対して使われるもんやし。」
「そ、そんなことないよ!忍足君はかっこいいよ!」
「・・・ほんまに?」
「あ・・・えと、今のは・・・。」

佐倉さんは更に顔を赤らめた。お世辞だとしても、真っ赤になって言うのは反則だ。まるで事実を述べられているかのようだ。

「おおきに。世辞でも嬉しいわ。」
「お、お世辞なんかじゃ・・・わ、私はかっこいいと・・・思う。」

顔を真っ赤にさせるくせに大胆なことを言う子だ。かっこいいは言うくせに、かわいいは受け取らないのか。
毎度、囁いてやろうか、自覚するために。
なんて。こっちの心臓が持たない。




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