のううた | ナノ

火のないところに煙は立たない


教子が来ない。
駅の本屋に行こう、と約束して、下駄箱のところまで来たのに、教子は忘れ物を取りに教室に戻ってしまった。
やはりついていくべきだった。真面目な教子の事だから、断られるのは目に見えてるけど。遅すぎる。無理にでもついていけばよかった。暇だ。

「あれ、崋山先輩、おひとりですか?」
「そんなわけないだろ、鳳。」
「え?どうして?」

鳳と日吉と樺地が挨拶してきた。2年皆で帰るのかな、仲良しかよ、可愛いかよ。

「崋山さんが1人で帰れるわけないだろ。」 
「よし日吉、一回座れ。」

1名を除く。なんて失礼な奴なんだ。かわいくないな。生意気。

「ひ、日吉、崋山先輩に失礼だよ!すみません、崋山先輩!」
「いーのよ、鳳は何も悪くないから。」
「じゃあ俺が悪いんですか?事実なのに?」

俺、何も悪くないですよね、と目が語っている。

「跡部にも言ったけど、アタシ、方向音痴じゃないから。」
「面白い冗談ですね、ハハ。」

こちとら冗談を言ったつもりはないし、ヤツも全然笑っていない。いったいどんな育てられ方をすれば、こんな性格になるんだ?愛情が足りないのか?弟がいる身として、お姉ちゃん心配になるぞ。愛情の裏返しか?

「可愛いとこあるじゃん、日吉。」
「は?意味がわからない。」

意地を張る奴は、愛情が欲しいんだよな。でも甘え方を知らない。誰かさんそっくり。
タメだったら場合によっては放置するけど、日吉は後輩だし。可愛がってあげよう。

「本当にあなた方3人って似てないですよね。」

日吉がため息を吐きながら言う。何を当たり前な事を言っているんだろう。1人1人性格が違うに決まってる。とりあえず、馬鹿にされてるのだけはわかる。

「鳳、日吉、樺地が仲良くても似てないのと同じよ。」
「別に仲良いわけでは。」
「ええっ?!俺は日吉と仲良いつもりだったのに・・・ごめんね、図々しくて。」
「そこまで言ってないだろ。」

日吉ってこんなにツンケンしてて、ちゃんと友達いるのかしら。日吉の方へ目を向けると、視線に気づいたのか目が合った。

「なんですか。」
「べつに。」
「そうですか。」
「ええ。」

そう会話を交わしながらも目を逸らさないのは、アタシも意地っ張りだからだろう。

「なんで崋山さんと日吉見つめ合っとるん?」

互いに逸らさずにいたら、忍足に不思議そうに聞かれた。彼の後ろには滝、向日、宍戸もいた。もうほぼ全員揃っている。

「どうしたの?崋山さん。日吉に何か言われた?」

滝が心配そうにアタシと日吉の間に入る。滝は少し過保護な気がする。

「なんでそうなるんですか。俺がいじめられてるんですよ。」
「え、そうなの?」

アタシがいついじめたんだ、素直じゃないな。日吉の言葉に、3年たちはこちらを見た。

「は、違うから。こんな可愛い後輩いじめるわけないじゃない。」
「か・・・。」
「このサイズ感で可愛いはないんちゃう?」
「そ、そうだよ崋山さん。タッパがどうって。」
「タッパ・・・?なにそれ。」
「え・・・。」

なんで滝がそこまで動揺するのかわからないけど、身体がデカくても可愛い奴は可愛いのだ。樺地だってずっと無言で立ってて可愛い。

「滝、お前何そんな動揺してんだよ。」
「宍戸、触れたらあかんで。」
「は?」
「そ、それよりも崋山さん今から帰るの?」

忍足が何かわからないことを言っているが、一旦スルーしよう。

「教子と帰る予定なんだけど、教室に忘れ物取りに行ったきり帰って来ないの。」
「佐倉さんが?何かあったのかな。」
「いや、崋山じゃねーんだから。」
「向日、今、何か言った?」

何も言ってねーし!と向日が言ったが、絶対失礼なこと言うつもりだったろ。不意にどこからか視線を感じ、目を向けると日吉がニヤついていた。

「何ニヤニヤしてんのよ。」
「いえ、向日さんにも同じこと思われてるんだなって。」
「アタシ、日吉が後輩じゃなかったら殴ったと思う。」
「命拾いしました、先輩。」

なに、今の嫌味たっぷりの先輩呼び?!性格歪みすぎじゃない?!そうね、「下剋上」「下剋上」言ってるもんね。上昇志向が強いことで!

「お前らすげぇ仲良いけど付き合ってんのか?」
「「「は??」」」

宍戸の言葉に、日吉ならまだしも、滝とまで声が重なった。忍足は吹き出して、鳳は口を開けている。

「・・・なんでそうなるのよ。」
「いや、すげぇ見つめ合ってるし、仲良さそうだしよ。」
「ハァ・・・宍戸さん。・・・ハァ。」
「そんなにため息吐くなよ、若。」

こんな彼氏嫌だわ。付き合うなら優しい人、絶対。
優しくて、頼りになる人。甘やかしてくれる人。アタシを見てくれる人。

たとえば、

「宍戸、もっと考えてから発言したほうがええよ。」
「そうですよ、宍戸さん。俺はもっと思いやりのある人がいいです。」
「ちょっと日吉。崋山さんだってすごく優しいじゃない。」

「崋山先輩・・・大丈夫ですか?」
「・・・え、」

鳳に聞かれて、自分が頭を触っていることに気づいた。

「う、ううん。かゆかったから。」

慌てて手を戻す。アタシは今、何してたんだろう。
なんで、撫でられてること思い出してるのよ。
幸村は、妹感覚でやってしまっただけで。

「と、とにかく遅いわね、教子。」

余計なことを考えるな。付き合うとか、彼氏とか今はそういうのはいい。

「じゃあ俺が迎えに行ってくるよ。」

滝が笑顔で言う。滝って本当に保護者みたいだ。乃亜のことも、教子のことも気にかけてくれる。

「いや、滝、俺が行ってくるわ。」
「は?待てよ侑士。だったら俺が行くし。」

忍足と向日が続け様に言うが、滝は大丈夫だよ、と短く答えた。

「ついでに教室寄りたいから。」
「そ、そうなん。」

どことなく忍足が残念そうにしている。そんなに教子のところ行きたかったんだな。よく一緒にいるし、波長が合うのかな。勉強も一緒にしてるの見たことあるし。

「つーかよぉ、跡部はまた生徒会室に篭ってんの?」
「作業が捗るらしいで。」
「と言うことは荒波先輩もまた一緒なんですかね。」

最近の跡部は生徒会室に篭ることが増えた。今までは部室や家に持って帰ってきていたのに。資料を持ち歩くのが面倒だし、静かで落ち着くからだと。
そして作業が速いから、と毎回乃亜を呼んでいる。正直サボり癖があるから、戦力になっているのか心配になる。

「あの2人の方が付き合ってそうな雰囲気だよな。」
「ぶふっ」
「し、宍戸さん大丈夫ですか?!」

向日と言葉に宍戸が飲んでいたお茶を吹き出し咳き込んだ。

「何言ってんだよ岳人!あ、あ、荒波と跡部がつ、付き合ってるわけねーだろ!」
「わかんねーじゃん。荒波、顔はいいんだし。跡部だってなんだかんだ面倒見てるしよ。」
「生徒会でコソコソいちゃついてるってことですか。」
「ええ?!あ、跡部さんと荒波先輩が?!」

宍戸が顔を赤くしてまで動揺しているのに対して、日吉と向日は冷静に話している。
たしかに跡部は乃亜のこと気にかけてるけど、それは、監視してるからじゃないの。漫画のキャラだと口を滑らさないように。それに、生徒会長で部長でしょ?俺様のものは俺様のもの。俺様の部員は俺様のもの。ってことで気にかけてるんじゃないの?

「仁王仁王うるさいのに跡部と付き合うわけないじゃない。」
「・・・仁王。そういえばそんなこと言ってたな。」
「とりあえずよかったやん宍戸。」
「お、おう。って違ぇよ!」
「亮・・・お前マジか。」
「は?な、何の話だよ。」
「俺、あの人謎すぎてムリですね。」
「そういえば荒波さん、サッカー部に告られとったよな。」
「は?!なんだよそれ。」

もう告白されてるのね。
ここでもきっと、荒波無双ってわけだ。



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