のううた | ナノ

だからきらいなんだよ

今日の授業が終わり、忘れたプリントを撮りに教室に戻ると、芥川君が残っていた。普段は真っ先に教室から出ていくのに、なぜか彼は椅子に座ったままだ。

「芥川君どうしたの?忘れ物?」

芥川君は目が合ったけど、何も言わず頬杖をついていた。もしかしたら聞こえてなかったのかもしれない。

「私プリント忘れちゃって。」

芥川君に見せながら言うと、彼は視線だけ寄越してくれた。

「・・・何かあったの?具合悪い?」

いつもの芥川君なら何かしらのアクションをしてくれるのに。もしかしたら寝起きで脳が働いてないのかな。

「教子ってさ。」
「う、うん。」
「悩みとか無さそうでよね。」
「え?」

どこか冷たい目をしていた。私、悩みがないような顔してるのかな。授業も部活も結構必死なんだけどな。

「この世界楽しい?」
「え、う、うん。」

やっとこの世界にも慣れてきて、皆ともいい関係を築けていると思う。まだまだ至らないこともあるけれど、最初よりは迷惑はかけてないと思う。

「3人って仲良いんだよね。」 
「ことりちゃんと乃亜ちゃんのこと?」
「そう。」
「私は、2人のこと大事な親友だと思ってるよ。」

ことりちゃんと乃亜ちゃんの幼馴染まではいかなくても、とっても大事な親友だと思っている。たしかに少し疑問はあるけれど、全てを曝け出すことが親友というわけでもないと思う。誰にだって言いたくないことの一つや二つあるはず。

「じゃあことりや乃亜の好きなものとかわかんの?」
「ことりちゃんは、甘いもの全般と卵焼きが好きだよ。乃亜ちゃんはメロンが好きだって。」

そう答えたものの、芥川君の視線はどこか刺々しくて、何故か罪悪感に苛まれる。

「へー、そうなんだ。」
「う、うん。」

聞いておいて素っ気なさすぎないかな。もしかして好きな食べ物じゃなくて、教科とか趣味とかの話だったのかな。芥川君、ことりちゃんや乃亜ちゃんのこと知りたいのかな。

「もしかして、他のこと?私でよければ2人の事教えようか?」

もちろん、2人が怒らない程度の答えられる範囲でだけど。それよりも芥川君なら普通に2人に聞きそうだけどな。やっぱり向日君が言ってたみたいに話しかけづらいのかな。ことりちゃんとか。

「教子って何も悩みなさそう。」
「う・・・それ2回目だよ。」

そんなに私脳天気そうに見える?

「教子ってさ、ことりや乃亜と違うよね。」
「そりゃあ、そうだよ。」

性格も価値観も違う。1人1人みんな違うのだから。
私はあの2人にはなれないし、2人だって私にはなれない。私も私でしかない。

「傷ついたことも無さそうだよね。」
「・・・どう言う意味?」
「教子もことりも乃亜も一方通行で、かわいそ。」

言っている意味がわからない。傷ついたことがあるかないか、なんて、彼に言う必要もないし、言いたくない。私だって触れて欲しくないことはある。

「芥川君、もしかして私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ。」
「じゃあ何か怒ってるの?」

乃亜ちゃんが宍戸君や向日君と言い合っているように、私のことをよく思ってない人もいると思う。家族にだって鈍臭いとよく言われてきた。
もしも嫌われていたら悲しいけど、それを隠してまで接して来られるのはもっと嫌だ。嫌いならキッパリと嫌いと言ってほしい。

「2人の親友って豪語すんならさ、もっとじっくり見た方かもいいよ。」
「・・・あんまり言いたくないけど。なんで芥川君にそんなこと言われないといけないの?」
「教子が何もわかってないから。」

本当は私のこと嫌いだよね?
少なくとも芥川君よりは2人の事を知っている。

「乃亜の態度が原因で、宍戸や向日と喧嘩した時、乃亜の事注意しなかったよね。和を乱してるの、明らかに乃亜だよね?皆が怒るような事してるの、乃亜でしょ?」
「そうかもしれないけど、本当はすごく優しいんだよ。」
「その、本当の部分見せてねーじゃん。教子がそう言いふらしてるだけで。」

この世界にきて、環境にまだ慣れてなかったんだよ。私だって落ち着かなかった。

「親友なら、嫌われないように導いてあげるべきじゃないの?悪いものは悪いって言うでしょ。」
「それは、ことりちゃんが注意してるし・・・」
「ことりが注意して、教子は何?甘やかす?乃亜を注意して嫌われたくないから嫌なポジションは全部ことりにやってもらう?」
「そんな事ないよ!!」

ことりちゃんが既に注意してるんだから、私まで言う必要ない。2人で責める必要はない。

「教子は自分が怪我しないように、安全なところで2人を見守ってるよね。」

2人がいなければ、私はずっと1人だった。初めて出来た大切な友人を失うのが怖くて、2人に強く言えなかった。それに何も不満なんてなかったから。

「ただ2人に合わせるだけ。だから2人と違うんだよ。」

友達を失うのが怖い。それは当たり前の感情じゃないの?私は2人がいないと何も出来ない。2人がいるから、毎日が幸せなのに。

「・・・どうして、そういうこと言うの。」

崋山と荒波の腰巾着。学校ではそう噂されていた。モテる2人にピッタリくっついて、自分も人気者になろうとしてる、と。そんなつもりなんてないのに。

「なんの悩みもなく、楽しそうにしてるから。」
「なにそれ。」

どうせ私はあの2人とは全然違う。でも友達でいる権利はあっても良いじゃないか。



「佐倉さん。」

出入り口から、扉を叩く音がする。複雑そうに困った顔した滝君がいた。

「崋山さんがまってるよ。」
「う、・・・うん。」

目元を拭いながら、芥川君の横を通り抜ける。その間、彼は目も合わせず、何も言って来なかった。

「ジローは帰らないの?」
「萩には関係ないし。」
「ないね。」

2人の会話はそれだけ会話をして、滝君に背中を押された。芥川君のことを見ることも出来ず、逃げるように教室を出た。












「大丈夫?佐倉さん。」
「な・・・なんのこと?」

滝君の方を見たら、泣いてしまうかもしれない。外を見るふりをして窓の方に顔を向ける。

「ジローのこと。嫌なこと言われたでしょ。」
「そんなこと、」

芥川君は、私のダメな部分を指摘しただけだ。嫌われるのを恐れて逃げているのを。このままじゃダメなんだ。いつかは向き合わなければいけないことを、今、言われただけ。

「ジローとは明日にでも話し合うから。だから、佐倉さんはあまり気にしないでね。」
「違うの、私が悪いの。」

芥川君から見て、不快だったのだろう。悪い方向に進む友人に、何もしなかった私が悪いのだ。これでは貶めているようなものだ。本当に乃亜ちゃんのことが大好きなら、今のは良くないよ、と言うべきだったのだ。ことりちゃんの役割だ、ではなくて。

「佐倉さんがこんなに傷ついてるのに?ジローに非がないわけないよ。」

そう。
滝君みたいに、友人に対して怒るべきだ。

本当に、友人だと思うなら。


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